「かっこよくして」と頼んでいます
「市民は自分たちの代表である市長に、かっこよくあってほしいと願っています。普段は気さくな友人であると同時に、公の場ではかっこよく ですね。ですから、『かっこよくして』と妻に言って、毎朝、服を揃えてもらっています。さらにそこに娘がいて意見を言ったら、それを尊重すると・・ (笑)。この2人は絶対です。」(中貝)
いつも、自分の立場を俯瞰し、何を求められ、何をすべきかを考え、実践している兵庫県・豊岡市の中貝宗治市長。豊岡市は、兵庫県の北側で日本海に面し、松葉蟹が獲れ、冒険家の植村直己さんの出身地であり、城崎温泉や城下町出石があるところだ。
市長を含め市の職員の方たちは、町の人たちと声をかけあう。町の人たちと市とが一体となって、自由にイキイキと、様々な挑戦をしている。
豊岡市の挑戦の数々
まず40年以上かけて、日本の野外で一度絶滅したコウノトリの野生復帰を果たした。コウノトリのえさになる魚やカエルが生きられるように、農薬に頼らない農法を広げ、湿地を増やすなど町ぐるみで自然を取り戻した。
また、城下町出石は、町民が率先して、伝統を守り活かす町づくりを意欲的に行ってきた。明治時代につくられた芝居小屋「永楽館」は、平成20年の大改修の後、年に一度、永楽館歌舞伎を開催している。チケットは発売直後に売り切れるほどの人気だ。
さらに今年は、城崎温泉に「城崎国際アートセンター」を誕生させた。舞台芸術家たちの滞在・制作の場として、県から譲渡されたホール・稽古場・宿泊施設を 無償で貸し出している。すでに世界中からアーティストたちが集まり始めている。城崎温泉は外湯をめぐる温泉街で、アーティストたちも住民扱い。同じ低料金 で入浴できる。
「コウノトリの野生復帰という、世界で初めての事をとんでもなく長い時間をかけて、幅広い分野の方たちが関わって成し遂げてきたというのは、町の人たちの誇りになっています。願うこと、願い続けること、投げ出さないこと。そして、一歩ずつです。」(中貝)
町の中に、やさしさと思いやりがあふれる
「『命への共感に満ちた町づくり』をしたいと思っています。気象条件が複雑だからでしょうか、複雑さを受け入れるベースが町全体の優しさになっています。それに皆、自分の町が大好きなんです。」(中貝) 一度訪れた人は、町の人たちの優しさに、恋に落ちる。
「こうした誇りにつながる具体的な仕事も大切ですが、政治家としての原点は市民の命を守ること。2004年台風23号の時の危機管理の未熟さは、人生最大の失敗でした。大災害で避難者が亡くなったことを今でも悔いています。」(中貝)
たくさんの人に助けてもらって立ち上がってきた被災地責任として、緊急時のトップの心構えを、同じことが起きないよう日本中の被災市区町村に送り続けている。
災害にかかわらず、家族が病気や事故にあうなど、理不尽なことは理由もなく起きる。「人生は複雑で、生きることは時として厄介です。それを受け入れ、理解し、耐えて、それでもなお人生を肯定的に生きる。それが大人になるということだと思います。」(中貝)
かっこいい大人が、ここにもいる。
文:岩崎由美