
理想の高齢者病院
「ファッションは、あまり目立たないほうがいいなと思っています。目立っていいことなんかないじゃないですか」と言う青梅慶友病院の創設者大塚宣夫会長だが、青梅慶友病院を知らない人はいない。理想とする高齢者病院なのだから、十分仕事で目立っている。
清潔で明るく、病院の匂いがせず、病院スタッフや、家族、患者に笑顔がある。優しく温かい雰囲気は病院とは思えない。その上、患者が豊かに暮らせるように 様々な工夫が施されていて、散歩できる庭やベランダがあり、面会時間の制限もなく、毎朝起きて着替え、音楽会や、食事会などもあり、お茶やケーキ、お酒 だって飲める。病院内に美容室やラウンジがあるばかりか、家族のための宿泊室だってある。年をとっても、病気になっても、人として大切にされ、必要とさ れ、尊敬される当たり前の生活が、ここでは送れる。
「私は、もともと制度がこうだからとか、環境がこうだからとか考えない性格で、自分だったらこうであってほしいなと趣味道楽のようにやってきただけです。」(大塚)
「上から目線の医療には違和感があります。かつて医療は施しという時代がありましたが、国民皆保険制度になってから力関係は対等です。それならサービス業なんだから、象徴的に患者様と様づけで呼ぶことから始めて、意識転換を図ろうと思いました。」(大塚)
ピラミッドの末端に控えるのが医師
大塚さんが勤務医として働いていた時、友人の祖母の病院を探すために訪れた老人病院の姥捨山のような実態に驚き、自分の親を安心して預け られる施設をつくりたいと心に決める。それから必死で働きお金を貯め、土地を探すために歩き回っていた時に偶然出会った青梅の名士が助けてくれた。
「わずか35歳の若造に数億円の投資をしてくれたんですよ。その後も増築するたびに保証をその方が全部して下さった。少なくともその方に『あの男にかけたのは失敗だったな』と思われないようにしなきゃと思って生きてきました。」(大塚)
「厳しい現実を見てわが身のこととして考え、問題解決になるようなことを目指してきました。最初から決まった形があったわけではないですしね。自分の親だったら、自分だったらどうしてもらいたいか、それだけを考えています。」(大塚)
お年寄りの生活の場なのだから、まずは環境を整え、介護、リハビリテーション、そして医療が提供されるようにする。苦痛や負担を与えるだけの治療はせず、ピラミッドの末端に控えるのが医師という構図である。
この病院に入るのに青梅で2、3ヵ月待ち、よみうりランドでは1ヵ月待ちという人気だ。
「今にして思えば、事業の規模を大きくしすぎましたね。事業としても楽しくやるためには、お一人おひとりの顔が見える範囲でなきゃね。」(大塚)
謙虚で穏やか、自然体で、しかも楽しげな大塚会長は、人の心がわかる医師であると同時に、革命家のように見える。
文:岩崎由美