Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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「ヴェルディにおける合唱の魅力」講演会

新国立劇場合唱団指揮者として知られる三澤洋史さんを講師に、日本ヴェルディ協会主催の講演会が開催されました。三澤さんは、アッシジから帰ったばかり。アッシジの聖フランシスコ聖堂で、三澤さん作曲の宗教曲の演奏会があったそうです。国立音大の声楽科をご卒業後、指揮に転向され、作曲もされる造詣の深い三澤さんのお話は、とても楽しく勉強になりました。

講演会では、ヴェルディの曲を時代を追って解説。音源を流し楽譜を見せていただきながらお話を聞いていると、自分が見てきた舞台の場面が脳裏に浮かびます。

1曲目は、ヴェルディでもっとも有名な合唱曲。1842年29歳の時に、ミラノ・スカラ座で初演された「ナブッコ」「想いよ、金色の翼に乗って、飛んでいけ」。心を打つメロディがユニゾンで展開します。「一度で覚えてしまえるようなメロディは、絶対に売れる歌謡曲のようなもので、ヴェルディはその才能を持っていた」と三澤さん。この曲は、イタリア第2の国家と言われています。「ナブッコ」では、神官であるザッカリアがメロディを歌い、合唱がからみ、掛け合いになっていきます。「合唱曲も素晴らしいが、合唱とソロが絡んだ時、オペラらしさが発揮される」と語ります。聖書を元にした紀元前6世紀のエルサレムとバビロンの物語です。

マクベス」の初演は34歳の時。魔女から領主になると予言されたマクベスは、それが実現すると欲望がふくらみ、国王になろうと現国王を殺してしまいます。

リゴレット」をつくったのは、38歳の時。リゴレットは背中にコブがあり卑屈な心を持っていました。リゴレットの美しい娘が誘拐される場面は、弱音を使った個性的なもの。

40代の時に初演した「椿姫」。このころからヴェルディは独創的な音楽を書くようになります。場面にあった音楽を設定し、メロディと音楽の骨格をオーケストラが受け持ち、歌手は、その上で一見音楽とは無関係のように自分のセリフやリズムでしゃべるように歌い、そこにコーラスが絡んでくる。これは、モーツアルトからの影響ではないかと、三澤さんは考えています。「椿姫」では、アルフレードが椿姫にお金を投げつける場面で、合唱が怒り、緊張感を高めます。ソロと合唱が絡まることでドラマの構成が際立ちます。

運命の力」は49歳の時。第3幕全体が戦場のシーンで、華々しく盛り上がるコンチェルタートで締めくくるはずが、小太鼓だけのほぼアカペラの軍歌で締めています。

ドン・カルロ」は54歳の時。華やかなコンチェルタートをフランスの聴衆は望み、その場面は火刑台のシーンです。ドン・カルロの親友が彼の抜いた剣を引き取り、上から天の声が聞こえてくる荘厳なもの。

アイーダ」をつくったのは58歳のときでした。グランドオペラを超えた大スぺクタルが繰り広げられます。ただここに三澤さんは「死」の香りを嗅ぎ取ります。ヴェルディは、この曲を最後にいったん筆を断ちました。アイーダの物語の最後は何とも言えない悲壮なものです。愛する2人が一緒になったのはいいが、墓場に閉じ込められてしまうのですから。それは本当に幸せなのか、どんな最期を遂げるのか、ラストシーンのコーラスの効果もあって、観客はたまらない気持ちになります。

それから15年たち74歳で書いたのが「オテッロ」。その間学び続けたからか、エネルギーに満ち溢れています。英雄も嫉妬の力にはあらがえず、その人の人格を内部から破壊します。最後の曲「ファルスタッフ」と同様、シェイクスピアが原作です。

ファルスタッフ」は80歳の時の最後の作品です。人間の中に潜む弱さを掘り下げるシェイクスピアの作品を元に、古典的なフーガを使って人間の愚かさを嘲笑しながら笑い飛ばしました。ヴェルディの魅力の一つはコンチェルタートだとよく言われますが、コンチェルタートの中にドラマがあると締めくくられました。

ヴェルディのすごさは、「ぱっと聴いてパット覚えられるキャッチーな曲を作ったこと。そこにオペラの娯楽性があり、人々の心に寄り添った」と強調する三澤さん。厳しく細かく、発声に時間をかけて指導されているそうですが新国立劇場合唱団は本当に素晴らしい。2024-25シーズンは10月から始まります。

聴き、見て、感じて、そして学ぶことでオペラの楽しさが倍増します。もっともっと学びたい!

*2024年8月6日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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