Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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紳士のためのお出かけエンタテインメント

「妹背山女庭訓(いもせやまおんなていきん)」 国立劇場2025年2月文楽 第三部

大化の改新を背景に、蘇我入鹿を倒すために力を尽くす藤原鎌足、淡海親子とその一派の活躍を描いた時代物。いよいよ大詰め、第三部です。

舞台は美男美女の文楽人形が登場して華やかに繰り広げられます。求馬(もとめ)と名を変えて潜伏する淡海は、隣家の娘お三輪(みわ)と、入鹿の妹・橘姫との三角関係。歌舞伎でも良く上演される演目です。お三輪の衣装を見ただけで、「これ、知ってる」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

提供:国立劇場 撮影:小川知子

杉坂屋の段

造り酒屋「杉坂屋」の娘・お三輪は、隣に住むイケメン求馬と契りを結んでいますが、彼が藤原鎌足の息子・淡海だということは知りません。それとは別に求馬のところには毎夜、入鹿の妹・橘姫が通ってきています。これって一体、何?求馬ってどんな男なの?

さて、橘姫は求馬が、淡海だと知っていますが、自分の素性は明かしていないという状況。豪奢な着物を着て薄絹をかついだ女性が求馬を訪ねて来たことを知ったお三輪は、求馬を責め立てますが言い逃れます。

道行恋苧環(おだまき)

麻糸を巻いた糸巻、苧環の白が男で赤が女。互いの心が変わらないように永久の愛の願いを込めて祭る風習が七夕にはあります。求馬は、橘姫の着物の裾に赤い糸を通して後を追い、お三輪は求馬の裾に白い糸を通して追いかけ、現在の石上神宮にやってきます。参道には灯籠が灯り、苧環がくるくると回り、糸がのびていく様がなんとも可愛らしいではありませんか。

提供:国立劇場 撮影:小川知子

鱶七上使(ふかしちじょうし)の段

三笠山にある新築の入鹿の御殿は、金、銀、水晶に彩られた豪華な普請。ここに漁師・鱶七がやってきます。鎌足が入鹿の臣下になるということを伝えに来たのですが、入鹿は信じません。鮒七は床下から槍が突き出されても、ものともせず、官女たちの色仕掛けにものりません。

姫戻りの段

橘姫が御殿に戻ってくると、赤い糸の先に求馬が現れます。ついに橘姫は素性を知られてしまいました。淡海は口封じのために橘姫を殺そうとしますが素直な様子に、「入鹿が奪った宝剣を持ってくれば夫婦となる」と約束します。板挟みになって苦しむ橘姫ですが、求馬の意に添うように心を決めます。

金殿の段

お三輪が淡海を探して御殿までやってきますが、そこで橘姫と求馬の祝言があると聞かされます。祝言の前に一度会いたいと御殿の中を行くと、官女たちから酒を注ぐ練習をしろ、祝言の時の「高砂」を歌えなどといたぶられ、バカにされ、いじめられます。屈辱と嫉妬に燃え上がるお三輪に会った鮒七は、彼女の脇腹に刃を突きたてます。鮒七は、鹿の血と嫉妬した女の血が入鹿討伐に役立つと話します。入鹿の魔力がそれで消えるということを知り、愛する男の役に立つことができると、喜びのうちに果てます。

提供:国立劇場 撮影:小川知子

桐竹勘十郎の遣う「お三輪」が秀逸です。少女のように純粋に男を愛し、男が他の女との逢引きを言い繕っても、素直に信じるおぼこぶりから、嫉妬に燃える女となり、最後に愛する男の役に立てたと安堵する様子があまりに切なく、際立ちます。生きている人間よりも人形からの心情が伝わってきます。

そして<金殿の段>の義太夫語り、竹本織太夫。官女たちから散々な目にあわされ感情が爆発するさまが、なんともリアルです。我慢に我慢を重ね、それが切れた時、感情があふれ出ます。観客を物語へ引き込む熱量が半端ではなく、充実の第三部でした。

4月は大阪国立文楽劇場で「義経千本桜」の通し狂言、次の東京は5月でシアター1010での公演となります。ぜひ、大阪の国立文楽劇場に行ってみたいものです。

*2025年3月1日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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