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「平家女護島(へいけにょごのしま)」 国立劇場2025年5月文楽公演 第三部

今回は北千住・シアター1010で開催されている国立劇場5月文楽公演。

第三部(午後7時開演)は文楽名作入門「平家女護島(へいけにょごのしま)」。本格的な文楽を見やすい長さと価格で楽しめるように工夫されています。通常は1等席9000円で約3時間~3時間半ですが、こちらは5000円で約1時間半。しかも、始まる前に「見どころの解説」があり全体像が分かります。

「平家女護島」は近松門左衛門作で鎌倉時代の「平家物語」を題材にし、歌舞伎でもよく上演される演目です。全五段のなかでも有名な『俊寛(しゅんかん)』と呼ばれる「鬼界(きかい)が島の段」二段目だけを楽しみます。

後白河法皇の側近、高僧・俊寛は、平清盛への謀反をたくらんだ罪で鬼界ヶ島に流され、3年がたちました。鬼界ヶ島は、鹿児島から100キロ、都から船で2か月かかる絶海の孤島。海や山のものを集めて食べ、地元の人たちと物々交換をして、何とか細々と命を繋いでいます。そうした中、俊寛と一緒に流された成経(なりつね)は地元の海女千鳥(ちどり)と恋に落ち、結婚を報告。祝っているところに、都から船がやって来ます。平清盛の娘が後の安徳天皇を身ごもり、安産祈願の恩赦を与えにやってきたのです。使者の瀬尾が読み上げた書状に俊寛の名前はありません。俊寛は絶望しますが、もう一人の使者から俊寛も乗船を許されます。

提供:国立劇場 撮影:二階堂健

これで全員で帰れると安堵し千鳥も共に船に乗り込もうとすると人数が合わないとだめだと乗せてくれません。このあと、思いがけない出来事がおこり、物語の幕切れで、俊寛は岩によじ登り、遠ざかる船を見送りながら孤独と不安のふちで切々と寂しさを訴えます。

 

俊寛の人形を遣うのは人間国宝の桐竹勘十郎。今年2025年日本芸術院新会員に選ばれました。桐竹勘十郎にとって本公演初役で「一度はやってみたいと思っていた」とのこと。普段は、吉田玉男が遣うことが多いこの役ですが、丁寧で繊細に表現していきます。

提供:国立劇場 撮影:二階堂健

場面冒頭から、俊寛はよろよろと登場し、食べるものもなく島での生活の苦労がしのばれます。そうした状況でも、流された3人は支え合い、さらに地元の娘と結婚するという幸せなできごともあり少し華やぎます。俊寛に千鳥とはどんな人なのか、どんな恋なのか聞かれた成経が千鳥を表現する言葉に色気が漂い観客たちの想像力がふくらみ、この時ばかりはふわりとした気持ちになれます。

提供:国立劇場 撮影:二階堂健

このあと、ご赦免船が来てから物語は一気に展開します。みんなが幸せになれるかと思いきや、けっしてそういうわけにはいきません。俊寛は、わなわなと震える手で、崖の上の松の木をつかみ、遠く都に向かう船を見送ります。その寂寥感はいかばかりのものでしょうか。この俊寛の気持ちに思いをはせ、救いのない状況に何を思えばよいのでしょうか。

提供:国立劇場 撮影:二階堂健

 

国立劇場文楽5月公演の詳細はコチラ

*2025年5月13日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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