Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のためのお出かけエンタテインメント

「教えて、ブルーアイランド先生! 新国立劇場で学ぶオペラの歴史」5回目です

2025年3月2日(日)青島広志先生のレクチャーイベント第5回が開催されました。今回はロマン派「プッチーニの『ラ・ボエーム』」です。

冒頭、「今、100歳を超える方ならプッチーニに会えた可能性がある」という青島先生の言葉から、急にプッチーニという人物への現実感が増しました。当たり前のことではあるのですが、「そうか、生きて暮らしていた人なんだ」と改めて感じました。

プッチーニのオペラは10作しかありません。この『ラ・ボエーム』、『蝶々夫人』『マノン・レスコー』『トスカ』『トゥーランドット』など、どれもオペラの名作中の名作ばかりです。特徴はメロウなものが多く、さらに、とても細かくパートを分けて書かれているため楽譜の量が多くなるということ。また、体調の悪かった最後の『トウーランドット』以外は、お弟子さんを使っていません。

プッチーニは、音楽大学に首席で入学して、きちんと教育を受けていました。新しい音楽を取り入れようとワーグナーやドビュッシーのことも研究していたということでした。もっと新しいバルトークのような音も使っています。

提供:新国立劇場

さて、「ラ・ボエーム」は、パリで芸術家たちが共に暮らす屋根裏部屋が舞台です。プッチーニが学生時代友達と一緒に下宿していたことを思い出して書いたのではないか。そこで青島先生は、著名な漫画家たちを輩出したことで知られる手塚治虫とトキワ荘になぞらえました。その似顔絵が楽しい。さすが、少女漫画家を目指した青島先生です。ホワイトボードにアトムの絵まで描いてくれました(笑)。

今回のゲスト歌手は、日本を代表する国際的テノール中島康晴さん。ミラノにお住まいでしたが、コロナ以降、日本に拠点を移しています。

主役の詩人ロドルフォが一人、屋根裏部屋で仕事をしていると、そこにお針子ミミがロウソクの火をもらいにやってきます。鍵を落としてしまい一緒に探すと手と手が触れあい恋に落ちます。そこでロドルフォが歌う「冷たい手を」。この曲は変ニ長調の媚びる調から、ロマン派でしか使われない夢見心地の調へと移ります。この場面では、主役でしか使われないハープが弾かれ、しかも男性の主役で使われているのはここだけだそう。

そしていつも笑顔のソプラノ横山美奈さんがお針子ミミ「私の名はミミ」を歌います。この曲はニ長調のため、18歳から25歳という年頃が想定されるそうです。「調」で年齢がわかるのですね。恋に落ちた2人の二重唱「おお、優しい乙女よ」はロマンティックな、安定のハ長調です。このあと、この曲の断片がワーグナーのように、そこかしこに登場します。

続いて二幕は、友人が集まっているカフェの場面。画家のマルチェッロの元恋人で派手なムゼッタがお金持ちのパトロンとやってきます。ここでムゼッタのアリア「私が街を歩くと」。ワルツの手法で書かれていますが、繰り返しの部分でも同じことを二度書かない「ただものではない」作曲家だということです。ここで2人は、よりを戻します。

そして三幕は、ミミが病気のため貧しい自分では救えないと、ロドルフォは悲嘆にくれます。ミミの悲しみと深い愛に満ちた別れのアリア、告別「喜んでもとのところへ」。悲しい二重唱「さようなら、甘い目覚めよ」。

提供:新国立劇場

このあと、特別プレゼントとして、この部分を以前にプッチーニが書いた「太陽と愛」という歌曲を中島さんが歌ってくださいました。歌詞はプッチーニ本人が書いていると言われていて最後に「パガニーニさんへ、プッチーニより」とあります。中島さんの声が豊かに広がり、のってきましたぁ。

フィナーレの二重唱「みんな行ってしまったのね?」では、前に聞いたメロデイーが現れ、悲しい旋律となります。

ミミは、パトロンの所で結核の養生をしていましたが、最期は愛する人のもとにいたいと屋根裏部屋に来てこと切れます。音大声楽科卒業の新国立劇場・桑原さんのせりふ「Si」のタイミングが抜群だったのと、ミミを取り巻く人々の哀しみが、胸に迫りました。「プッチーニという方は、感情の機微をちゃんとかける作曲家だった。これがヨーロッパのオペラの最終地点でした。これほど感涙にむせぶものはない」と青島先生は語りました。私もプッチーニは大好き。オペラはこうでなくっちゃと思います。

今回は、皆で合唱はしませんでしたが、充実した時間を頂きました。ありがとうございました。

全6回のレクチャーコンサート。次回はいよいよ最終回です。3月23日の青島先生作曲の『黄金の国』をとりあげます。入場料は1000円です。まだ、残席があるかもしれませんのでお急ぎください。詳細はコチラ

*2025年3月6日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

https://cross-over.sakura.ne.jp/

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

おすすめのたしなみ