Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
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紳士のためのお出かけエンタテインメント

「特別展This is KABUKI」で、尾上右近「歌舞伎は命がけのエンタメです」

現在、歌舞伎座では錦秋十月大歌舞伎 通し狂言『義経千本桜』が上演中です。歌舞伎座にいらしたら、そのままエレベーターで歌舞伎座タワーの5階に上がると、「特別展This is KABUKI」が開催されています。大道具職人さんたちが作った舞台美術、実際に使われた小道具衣裳が並び、見るのはもちろん、触って、持って、かついで、なりきることができます。

Aプロの「吉野山」で清元の演奏を、Bプロで佐藤忠信(実は源九郎狐)役で出演の、尾上右近が特別内覧会に出席し、解説してくれました。

尾上右近は、人生で初めて見た舞台が『義経千本桜』の「吉野山」だと言います。「自分が憧れてきたものに自分自身がなって、今度は皆さんに憧れてもらう立場になったなと実感しています。この循環こそが歌舞伎の世界で紡がれてきたものだと思っています」という言葉に、伝統芸能の継承者であることへの強い意志を感じました。

こちらは「鳥居前」の狐忠信の刀と仁王襷(におうだすき)です。

「歌舞伎の小道具や衣裳は重いんです。ボリュームを出すために大きく作られているからこそ、歌舞伎の力強い表現ができると感じます。お稽古で着ると、毎回、びっくりしますね。こんなに重いのか、こんなに大きいのか、こんなにたいへんなのかと」。襷(たすき)は見るからに重そうで、これをしょって、動き回るなんて信じられません。

「若いころは、メンタル、フィジカルともにバシバシに鍛えられますね。それが当たり前で、目的のためにたいへんなことをするんだと認識できるようになると楽しくなってきます。そのうえで自分がやってみたい方向性がようやく探れるようになってきます。あらゆることが当たり前になったうえで、自分にしか表現できないことや、自然と出てくる自分の表現にゆだねていく段階があって、いろんな段階をかみしめながら一生舞台に立つことができるのは幸せな仕事だと思います。お客さんと一緒に、いろんな段階を並走するというのができるのが歌舞伎の魅力の大きな一つだと思います」。観客は俳優の成長を見守り、応援する。芸が磨かれていく様子を見るのはどれほどの楽しみでしょう。

そして、こちらは「吉野山」の静御前と忠信の衣裳です。

「着物に忠信の紋である源氏車が(刺繍模様で)散らしてありますが、今月の僕の衣裳は、那須紺(色)で紋所は2つだけ。かつらも含めて限りなくシンプルなものです。役者さんの好みによって衣裳も変わり、特に『吉野山』は、個性が現れます。義経を訪ねて山の中を行く旅支度をしていて、着物の裾を持ち上げた「東(あずま)からげ」の動きやすい扮装です。静御前は、常盤衣(ときわごろも)という衣裳で、これを白地でやる方もいらっしゃれば、そうでない方もいらっしゃって、こちらも趣味によって変わります。さらに衣裳と小道具は連動して変化します」。演目によって、そして登場人物によってだいたい衣裳は決まっていて、演じる俳優によって変わるという話を聞けば、その違いを楽しめるようになると、きっと「通」になれたということでしょう。

「吉野山」の舞踊自体を務めるのは、自主公演も含めて3度目だそうで、今回、シンプルな見た目にしたのはどうしてなのでしょう。「衣裳やかつらの力を借りなくても忠信という役に見えるように自分はなっていきたいので、思い切ってシンプルにしました。デフォルメも歌舞伎かと思えばシンプルも歌舞伎なんです。曾祖父(六代目尾上菊五郎)はシンプルな形でやっていたので、その形を踏襲してみて、自分は何を感じるのか、お客さんに何を感じていただくことになるのか、やってみようと思いました」。

<衣装は触らないでください>

「伝統を背負い、重たい衣裳や小道具で、マイクなしで大きな声を毎日出し、自分に負担をかけることは当たり前という舞台時間を過ごしているのが俳優です。いくつになっても本気で舞台に立ち続け、毎日やっていることを当たり前とする人間の生きざまを生で見ていただきたいですね。歌舞伎は、命がけのエンタメです。他ではない魅力を感じていただけるガチのバイブス(本気の気分)を浴びに来てほしいなと思っています。

美しい舞台美術、豪華な衣裳、驚く仕掛けや小道具、魅力的な俳優の熱演、そして語り継がれる物語。もっともっと知りたくなる歌舞伎の世界の香りを味合わせてもらいました。

2025年10月1日(水)~11月16日(日)11時半~19時 歌舞伎座タワー5F(歌舞伎座ギャラリー・歌舞伎座ホール)HPはコチラ

展覧会の詳細はこの前の記事もご覧ください
*衣裳は触らないでください。*2025年10月7日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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