紳士が知るべき日本の逸品
【甲州印傳】艶やかな漆が浮かび上がる熟練の技
鹿革に独特の技法を用いて漆を施した印傳は、山梨県甲府市で作られる伝統工芸品。鹿皮の加工は元々大陸から伝わったものだが、「漆付け技法」は日本発祥。日本独自の革加工は印傳しか残っていない。
印傳の山本は、初代は染色もこなしたが、現在は特殊な方法でなめし染色した鹿革を仕入れ、柄のデザインから製作物に合わせての裁断、漆付け、縫製加工までの商品化を一貫して行う唯一の印傳専門会社だ。
現在ただ一人の甲州印傳伝統工芸士、山本誠氏を父に持つ裕輔氏は三代目。デザインも漆付けも手掛ける工芸士である。
漆付けになくてはならない伊勢型紙も伝統工芸品。お互いに伝統を受け継ぐ者として、後世に技術を伝える相互関係を大事に考えている。
マットな鹿革と艶のある漆のマッチングが美しい印傳は、軽くてしな
やかで丈夫。財布等、日常使いのアイテムが揃っている。山本の持つ
絵柄は200型ほど。勝ち虫と言われるトンボ等、縁起のよい図柄も多い。
美濃和紙に柿渋加工を施し、繊細な図柄を丹念に彫り抜いた伊勢型紙を鹿革の上に置き、白や赤、黒に調色した漆をヘラで均等に刷り込む技は圧巻。型紙から外すと、1㎜ほどのトンボの目や模様の隅々まで、遜色なく漆が移し取られている。
漆は付け過ぎると滲み、足りないと柄が欠ける。水分量を少なくゲル状に調整し、すくった時に重量感を感じる分量が適切と言うが、一点の損じもなく行う作業は一朝一夕でできるものではない。
漆付けを終えると、温度と湿度を管理した漆室(うるしむろ)で数日かけて、漆を固体化させる。硬化する時間はかかるが、その工程を踏むことで漆が艶やかに盛り上がる。
印傳を薄く削ぎ、iPhoneやスマートフォンのケースも作っているが、自由度の高い印傳の可能性はまだまだ広がりそうだ。
力瘤ができるくらいの腕力で、ゆっくりと漆を刷り込む。
優美な仕上がりとは縁遠い力仕事だ。均一に力を入れ、フラットに塗る技量は修業の賜物。
印傳の山本
〒400-0862 山梨県甲府市朝気3-8-4
Tel. 055-233-1942
http://www.yamamoto-inden.com

■山梨編
世界文化遺産に登録された富士山をはじめ、全国的にも知られる八ヶ岳や南アルプスといった山々に囲まれ、県土の80%近くを森林が占める山梨県では、四季折々の大自然を満喫することができる。フルーツ王国としても有名だ。
「2014年ふるさと暮らし希望地域ランキング」では1位になった。
水に恵まれ、鉱物や石材等の原産地でもあるという土地柄を背景に、伝統工芸品も数多くあり、匠の技が伝承されている。伝統を守りながら、日々研鑽する男たちの逸品をご紹介。