紳士が知るべき日本の逸品
【結城地方の桐下駄】
キャビアのようなガラス状の皮が特徴のエイの桐下駄 (手前)。
印傳の鼻緒と銅釘打ちも個性的。和洋を問わずに履きたい。
粋な柾(まさ)下駄(奥)も貴重な一足だ。
<原木から木を見て仕上げるオリジナルの一足>
結城紬で有名な結城地方はまた、高級桐下駄の産地でもある。
桐乃華工房は関東で唯一、原木の製材から製造、販売まで一貫して行っている下駄工房だ。
三代目の猪ノ原武史氏は、業界でも数えるほどの若手桐下駄職人。
二代目の父らと共に夏に伐採した木を、冬になるとチェーンソーで切り出してくる。
秋田まで足を延ばして切ってくることもある。
丸太の状態で〜年置いた後、四角く切って積み上げ天日干しをする。
風や雨を潜らせ乾燥させると、水分もアクもすっかり抜けて、削ると白くて丈夫な下駄になる。
この工程が質の高さにつながる第一歩だ。
桐は軽く、コシがあって柔らかくしなるので足馴染みがいい。
荒い気泡が空気を抱き込むので冷たさも感じにくい。
しかし、加工作業となると難しい素材。オリジナルの木工機械は台。
機械も道具のうちといい、小まめに刃を研ぎながら、木のクセを見て繊細な手加減で 削り出す。
高速回転の機械は特に、気が抜けない作業だ。
「桐の木目の美しさを引き出すのが職人」と話す猪ノ原氏。
一方で、生活様式と共に下駄も変化している。
桐下駄をベースに表面仕上げを施した「デザインクロスシリーズ」は人気のある現代感覚のオリジナル下駄だ。
デザインクロスの原料は甲州の印傳や山葡萄の蔓、畳表をはじめ国産の素材を中心に、エイ やオストリッチ等も使う。
厚さ4ミリのオストリッチは扱い慣 れず、接着剤も違ったため大手レザーメーカーで加工技術を教わった。
新しい素材を使うたび、素材に合った技術の習得も必要。日々挑戦は続いている。
仕上げ場では細かい作業が行われる。
牛の角の形をした牛角(ぎゅうのう) を使い、五感をフル活動させ下駄の歯を整える。
原木から商品になるまで最低でも2年かかるという下駄作り。
時間と手間のかかる手仕事だ。
桐乃華工房
〒308-0122 茨城県筑西市関本上345
Tel. 0296-37-6108
http://www.kirinohana.com

■茨城編
「山海の幸に恵まれ、人々は満ち足り、まるで理想郷である常世の国のようだ」という内容が、奈良時代編纂の『常陸国風土記』に書かれていた茨城県。
今もなお、その特徴は変わっていない。
冬の味覚アンコウや、全国シェア80%近くも出荷するハマグリ等の海産物。
収穫量日本一のメロンや栗、蓮根等をはじめとする数々の農作物が現在も、県内外の胃袋を満たしている。
過ぎたことは引きずらない、というポジティブな県民性は、各所に広がる原風 景や、由緒正しい神社仏閣、海川等の自然と対峙する賜物かもしれない。
県内には水戸をはじめとする城下町や小京都が多く、古くからの技術伝承や教 えを守る老舗も少なくない。
結城紬に粋な桐下駄。癒しの堤灯等、茨城で出合った匠の技と、”男を上げる”粋な逸品をご紹介。