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サントリー美術館で開催 「激動の時代 幕末明治の絵師たち」展 特別イベント 邦楽で楽しむ激動の日本絵画 11月15日(水)

サントリー美術館で開催中の「激動の時代 幕末明治の絵師たち」(2023年12月3日まで)は、江戸から明治にかけて活躍した絵師たちの作品が並びます。時代は、天保の改革、黒船来航、流行り病、安政の大地震、倒幕といった激動期。西洋文明も押し寄せてきました。伝統と新たな文化が混沌となり、どのような表現を見せてくれるのか。そこで強烈な印象を残すのが、幕末の浮世絵です。

それまでは役者絵や美人画が中心だった浮世絵が、このころになると歌川国芳(1797~1861)が戯画などを打ち出し、北斎や広重、国芳といった巨匠の弟子たちが数多くの作品を表しています。

私が浮世絵に興味をひかれるのは、その色や構図、美しさ、インパクトの強さもさることながら、当時起きたことをすぐに取り入れるジャーナリスティックなところです。横浜浮世絵や開化錦絵と呼ばれる作品では、黒船来航、横浜開港、鉄道の開通を喜ぶ様子など、人々が興味を持ちそうな時事的な画題がとりあげられています。

そこでこのたび、とても魅力的なイベントが開催されました。「邦楽で楽しむ激動の日本絵画」と題し、江戸時代から現代まで受け継がれている日本の伝統音楽とともに、浮世絵の世界を楽しんでしまおうという試みです。

案内役はいとうせいこうさん。サントリー美術館学芸員の内田洸さんから作品について解説をしていただき、作品の題材と共通する邦楽の演奏を聴いて、どっぷりとその世界に浸ります。

 

まず取り上げたのが、大判の錦絵・月岡芳年《和漢百物語 清姫》(慶応元年(1865年) 町田市立国際版画美術館蔵)。これは、能、人形浄瑠璃、歌舞伎、絵巻物などでもお馴染みの、安珍清姫の物語が題材です。道成寺にまつわる伝説で、僧侶・安珍に恋をした清姫が、安珍に裏切られたと知るや大蛇となって追い詰め、道成寺の鐘の中に逃げ込んだ安珍を焼き殺すという話。作者・芳年は国芳の弟子。初期の代表作です。川を渡り、何があっても安珍に会いに行こうとする執念に燃える姿が恐ろしい。

その絵を見ながら聴くのは、新内節「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)―清姫嫉妬之段―」新内志賀(しんない・しが)さんの浄瑠璃で、語っていただきました。聴きどころは、恋に燃える10代の一途な娘が怒り、嫉妬に燃えるその心の変化と、川を渡らせまいとする舟長(ふなおさ・船頭のこと)の、歌い分けだと志賀さんから伺いました。参加者は、手元に語りのパンフレットを置き、食い入るように聴きました。なんて贅沢な時間なんでしょう。

続いて、大判錦絵三枚続・歌川国芳《相馬の古内裏》(天保14~弘化3年(1843~46年) 川崎・砂子の里史料館蔵)と、大判錦絵三枚続・歌川芳艶《滝夜叉姫》(嘉永2~3年(1849~50年) 青木コレクション(千葉市美術館寄託)。

《相馬の古内裏(そうまのふるだいり)》は、山東京伝の「善知安方忠義伝(うとうやすかたちゅうぎでん)」をもとに描かれた国芳の代表作です。平将門の遺児・滝夜叉姫と、源頼信の家臣・大宅太郎光国が対決する場面。妖術で呼び寄せた骸骨は、西洋の医学書の解剖図を基にしているそうですが、すさまじい迫力です。「構図の国芳」と言われるのが納得の作品です。滝夜叉姫はガマの妖術を習い覚え、謀反を企てます。

《滝夜叉姫》も同じく、「善知安方忠義伝」をもとにしています。攻めてきた朝廷軍との戦いが描かれ、ここにはガマも登場しています。芳艶も国芳の弟子で、15歳で入門しました。武者絵を多く描いたことで知られています。

この2枚を見ながら聴かせていただくのは、「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)―将門」常磐津節の浄瑠璃は、常磐津兼太夫(かねたゆう)さん

滝夜叉姫は嘘をついて光国に恋を仕掛け、それがバレていないかチラリと顔を見るその細やかな表現や、光国が将門が亡くなった話をする場面で滝夜叉姫が涙をこぼす所などが聴きどころです。

インタビューさせていただいた、いとうせいこうさんは「こういうことをやらないと伝わらないですよね。邦楽も日本絵画も、芸術作品として鑑賞するのではなくて、作品ができた時代の生きているものに戻す必要があります。この頃の人はきっと、こうした絵を見て歌を口ずさめるほど物語に魅了されていたんだと思います。再開場に向けて閉場している国立劇場にとっても、邦楽を身近に感じてもらえるいい企画ですよね。今後の展開も色々と考えられ、西洋の絵をとりあげることもできるでしょうし、メディアミックスで伝統芸能の世界に迫っていくと、より楽しめます」と、素敵な企画に大満足。

参加者はサントリー美術館のコアなファンはもちろんのこと、30~40代の男性も目立ち、日本の豊かな文化を堪能しました。

 

サントリー美術館「激動の時代 幕末明治の絵師たち」2023年12月3日(日)まで HPはコチラ

*2023年11月25日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます*写真はすべて、サントリー美術館特別イベント「邦楽で楽しむ激動の日本絵画」会場風景©渕上勝

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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