Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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人形浄瑠璃文楽 人間国宝3人そろい踏み

開館30周年を迎える紀尾井ホール主催で、人形浄瑠璃文楽の人形遣いである人間国宝の「吉田和生、桐竹勘十郎、吉田玉男三人会」の3年連続シリーズの最後を飾る会が2024年9月24日に開催されました。人間国宝の三人が遣うという貴重な舞台で、あっという間に満席です。

1回目は、吉田和生が選んだ「傾城阿波の鳴門 十郎兵衛住家の段」「妹背山婦女庭訓 道行恋道行恋苧環(おだまき)」。

2回目は、桐竹勘十郎が選んだ演目で「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな) 重の井子別れ(しげのいこわかれ)の段」「伊賀越道中双六 千本松原の段」 。

そして3回目の今回は、吉田玉男が選んだ「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 熊谷陣屋(くまがいじんや)の段」と「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ) 政岡忠義(まさおかちゅうぎ)の段」です。

 

一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 熊谷陣屋(くまがいじんや)の段」は、平家物語の中でも特に有名な、熊谷と敦盛の物語。人形浄瑠璃では後白河法皇のご落胤である敦盛を義経の密命で身代わりを立てて熊谷が救う物語となっています。

立て役を得意とする玉男の熊谷直実は、立ち居振る舞いも凛々しく男らしく見事です。妻の相模(さがみ)を吉田和生、敦盛の母である藤の局を桐竹勘十郎。敦盛を討ったと見せかけて、実は我が子である小次郎を討った直実。相模と藤の局を左右に置いて戦場でいかに敦盛が立派だったか最期の様子を丁寧に語ります。この役は初代玉男の当たり役でした。それを引き継いだ吉田玉男が9年前の襲名披露でも勤めた大切な役です。

© Tomoko Hidaki

続いて、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ) 政岡忠義(まさおかちゅうぎ)の段」。

仙台藩のお家騒動を脚色した時代物で、歌舞伎の演目が文楽に移されました。

幼い主君のところに幕府の高官の妻・栄御前(吉田和生)が毒入りの菓子を持ってやってきます。乳母政岡(吉田玉男)が察して、食べさせるわけにもいかず、断るわけにもいかず対応に困っていると自分の子供千松(せんまつ)が駆け寄って毒入りの菓子をほおばります。毒を食べて苦しむ千松を証拠隠滅のため、即座に八汐(やしお)(桐竹勘十郎)はなぶり殺しにします。息子が殺されたにもかかわらず顔色一つ変えなかった政岡を見て、これは政岡の息子ではない、間違いなく自分たちが殺したかった主君だったと栄御膳(さかえごぜん)は大満足。一人になった政岡は、主君の身代わりになった息子を褒め、悲しみに打ちひしがれます。それを見た八汐が切りかかってきたところを討ち取るという場面。八汐はいかにも憎々しく、主君の代わりに我が子を犠牲にする政岡の切なさがたまりません。

私にとっての政岡は、歌舞伎の玉三郎なだけに、女役を得意としない玉男の人形遣いは少々硬い。ご本人も辛そうで、最後の3人での座談会で言葉にされてましたが「老け女形の役をやるのは初めてで照れくさい」、そして「重くて、手が痛くなり思い通りできなかった」と、納得いっていないご様子でした。それに対して、女方を中心に立て役もこなす吉田和生さんは、「そういう時は左遣いと足遣いのせいにすればよいと」一笑。ユーモアにあふれていました。

© Tomoko Hidaki

座談会では、三人の仲の良さが見てとれとても興味深かったです。何十年も共に研鑽を積んできた仲間であると同時に互いに敬意を払い合う姿が、とても美しいものでした。

桐竹勘十郎は、八潮のような悪い役は面白く、悪い心を演じるのは実に楽しいと、話していました。

3人の人間国宝を舞台で見られる贅沢を味合わせていただきました。どうぞ3回と言わず。ぜひ続編を!

*2024年11月6日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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