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通し狂言「妹背山女庭訓」 2025年2月国立劇場文楽 第一部

妹背山女庭訓(いもせやまおんなていきん)」は、飛鳥時代の「大化の改新」を題材に、中大兄皇子(後の天智天皇)と中臣(藤原)鎌足が蘇我入鹿を倒すために力を尽くす歴史物です。作者は、時代物を得意とし数々の名作を残した近松半二。

人形遣いで重要無形文化財保持者(人間国宝)の吉田和生(かずお)文化功労者顕彰記念公演となっています。吉田和生は、後室定高(こうしつさだか)を遣います。これは師の吉田文雀が得意とし、それを受け継ぎ上演を重ねている役。第一部で堪能させていただきます。

今回は通し狂言ということで、序幕から大切(おおぎり)まで上演されますが、各部のみでも楽しめる構成です。

第一部は小松原の段・太宰館の段・妹山背山の段。ロミオとジュリエットのようなお話。

今回上演されませんが、この物語全体の序幕として「大内の段」というのがあります。天智天皇の時代、帝は病で盲目となり、大臣蘇我蝦夷子(そがのえみし)が代わって威勢をふるっていました。藤原鎌足の娘・采女(うねめ)は、帝から寵愛を受けています。采女に子を産ませて、鎌足は天下を取ろうとしていると蝦夷子が言いつのると、鎌足は身の潔白を証明するまで蟄居すると願い出ます。

小松原の段」から上演がスタートです。義太夫は、それぞれ違う役を謡う、掛け合いのスタイルです。

大判事清澄(だいはんじきよずみ)の嫡子・久我之助(こがのすけ)という美少年が狩りから戻ってくると、太宰後室定高(だざいこうしつさだか)の娘、16歳の美少女雛鳥(ひなどり)と出会います。久我之助が持っている、小鳥をとるための長い吹矢が、なんとも絵になる小道具です。2人は互いに一目ぼれするのですが、それを見とがめたのが蘇我蝦夷子(えみし)の家臣、宮越玄蕃(みやこしげんば)。2人の家は仲たがいをしていると伝え、彼らの密会を主に注進すると立ち去ります。

そこにやってきたのは、久我之助が世話役をしている采女。蝦夷子が自分の娘を后にしようとして自分の命を狙っていると、内裏を抜け出してきました。久我之助は、猿沢の池に身を投げたことにしようと、逃がします。これは奈良に残る采女伝説が下敷きになっています。

次の段に行く間に「蝦夷子館の段」がありますが、今回は上演されません。この段では、久我之助は采女を藤原鎌足の元に送り届け、蝦夷子には采女は入水したと言い逃れます。蘇我入鹿は、父である蝦夷子を超える野心を持ち、父を策略で殺し、三種の神器の一つである宝剣を盗み、自分が帝になりかわります。力で人をねじ伏せる恐怖政治の始まりです。

 

太宰館の段」ここは義太夫一人での語り分け。

入鹿の命にもかかわらず参内しない大判事(遣い手 吉田玉男)を太宰館に呼びつけますが、大判事は、女主人太宰後室定高(遣い手 吉田和生)に挨拶もせずに入ってきます。玉男の遣う大判事は風格があり、和生の定高は凛とした佇まい。

両家は、領地争いで険悪な仲。入鹿は采女の行方について詮議をはじめるのですが、両家の不和は見せかけで、実は結託して采女をかくまっているのではないかと疑います。ここで入鹿が笑う場面は見せ場です。

身の潔白を証明するために、定高には雛鳥の入内を、大判事へは久我之助の出仕を求めます。久我之助を拷問して采女の居所をはかせようという心づもり。子供を差し出さないと両家はこうなると桜の花を散らします。そこに、帝の軍勢の決起の知らせがやってきたため、入鹿は馬に乗って悠然と去っていきます。

妹山背山(いもやませやま)の段

この段は、川を挟んで思いを寄せる若い男女の悲しい恋の場面として歌舞伎などでもよく上演されます。舞台の中央に吉野川が流れ、右に背山、大判事久我之助(こがのすけ)、左に妹山、雛鳥(ひなどり)のいる山荘があり、文楽唯一の両床(ゆか)で、右と左に分かれて床ができ、それぞれを弾き分けます。右は男性らしく強く激しい音が、左は女性的な高音域が響きます。

水音を表現する太鼓の音から始まります。背山の山荘に謹慎する久我之助。雛鳥も川向こうの妹山の山荘に来ています。吉野の里は春爛漫。桜が咲き誇る吉野の山の中、川を隔てた2人のかなわぬ恋がやるせないではありませんか。

入鹿の命令を受けた2人の親の気持ちも複雑です。命に背けば家は取り潰されてしまいます。雛鳥は入鹿に汚される位なら命を絶ちたいと思い、拷問される位なら切腹しようと考える久我之助。親は互いに、せめて相手の子を生かしたいと思うのですが・・・。雛鳥嫁入りの時の琴の音に悲しみがつのります。

右側の人形遣いが、吉田和生

2月8日(土)から16日(日)までは、大井町のきゅりあん大ホール。20日(木)から26日(水)までは、後楽園の文京シビックホール大ホールでの上演です。詳細はHPをご覧ください。写真提供:国立劇場  撮影:光齋昇馬 

*2,025年2月13日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

 

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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