Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のための「思考の調律」

第1回 「アナログとデジタルのあいだで」

ある日、パソコンに向かってメールを書いていたとき、

ふとキーボードを打つ指が止まりました。

「また会いましょう」

いつものようにそう入力しかけて、私は一文字だけ書き直したのです。

「また逢いましょう」と。

 

読み方は同じ「あう」ですが、この二つの漢字には、

どこか違う空気が流れているように感じます。

「会う」は、約束された時間や場所で顔を合わせること。

会議で会う。
取引先と会う。
友人と会う。

忙しい毎日の中で、

私たちは数え切れないほどの「会う」を重ねながら生きています。

 

一方で、「逢う」という字には、もう少し温かな響きがあります。

待ち望んでいた再会。
心が通い合うひととき。
あるいは、偶然が運んできた不思議なご縁。

そんな情景が、この一文字には静かに込められているように感じるのです。

もちろん、漢字の意味を厳密に語りたいわけではありません。

ただ私は昔から、選ぶ言葉には、

その人が相手にどれだけ心を寄せているかが自然と表れるものだと思っています。

以前、ある方と心地よい食事の時間を過ごしたあと、

お礼を兼ねてこんなメッセージを送りました。

「今日はありがとうございました。また逢いましょう。」

すると後日、その方から思いがけない言葉をいただきました。

「“逢う”という字を使ってくださったことが、とても嬉しかったです。」

私は少し驚きました。

特別な意図があったわけではありません。

その時間が心地よく、またお目にかかりたいという素直な気持ちを、

その一文字に託しただけだったからです。

しかし、人は時として、

こちらが思う以上に言葉の温度を受け取ってくれているのかもしれません。

たった一文字の選択が、相手の心に静かな余韻を残す。

そのことを、私は改めて教えられました。

 

私はこれまで、行政、企業経営、コンサルティング、

そしてサイバーセキュリティなど、

さまざまな世界で多くの方々と出会ってきました。

そこで感じるのは、魅力的なリーダーほど、

言葉をとても大切にしているということです。

それは難しい言葉を知っているという意味ではありません。

むしろ、相手に寄り添う言葉を選び、

思いやりのある表現を自然に差し出せる人ほど、

 

多くの人から信頼されています。

これは、紳士のたしなみにも通じる姿勢ではないでしょうか。

今は、本当に便利な時代になりました。

メールは一瞬で届き、SNSでは世界中の人とつながることができます。

生成AIは、美しい文章まで書いてくれるようになりました。

 

私自身も仕事や研究でAIを活用しています。

その能力には、日々驚かされるばかりです。

しかし、デジタルが進化すればするほど、

人間にしかできないことの価値は、ますます大きくなるように感じています。

相手の顔を思い浮かべること。

その人を想いながら言葉を選ぶこと。

そして、自分自身の心で文章を紡ぐこと。

それは、どれほど技術が進歩しても、人にしかできない営みです。

送信ボタンを押す前の、ほんの数秒。

「この文章は、相手にどう届くだろう。」

「この言葉で、自分の気持ちはきちんと伝わるだろうか。」

そう考えて、一度だけ立ち止まってみる。

その数秒が、画面の向こうにいる相手との距離を、

ほんの少し近づけてくれるような気がします。

もちろん、私もいつもできているわけではありません。

急いで送ったメールを読み返して、

「もう少し丁寧に書けばよかった」と反省することも少なくありません。

感情が先に走り、言葉への配慮が足りなかったこともあります。

それでも、その小さな反省が、

次の一文を少しずつ育ててくれるのだと思っています。

「たしなみ」というと、上質なスーツや時計を思い浮かべる方も多いでしょう。

もちろん、それらも素敵な大人の装いです。

けれど、本当の品格は、

もっと目立たないところに宿るものではないでしょうか。

 

メールの最後の一文。

何気ないメッセージのひと言。

そして、誰も気づかない一文字への心配り。

効率が求められる時代だからこそ、

あえて少しだけ立ち止まり、言葉を選ぶ。

その静かな時間こそが、大人の男性の深みとなり、

紳士としての美しさにつながっていくのだと思います。

「会う」と「逢う」。

たった一文字の違いです。

けれど、その小さな違いに目を向ける心のゆとりが、

人生を少しだけ豊かにしてくれる。

私は、そう信じています。

 

「私の備忘録①」

言葉を急がない。

品格は、ときに一文字の中に宿ります。

プロフィール

 

桑原義幸 (Kuwahara Yoshiyuki)

(行政DX、サイバーセキュリティ、AIリテラシー、アート思考)

 

 

1957年生まれ

IT・サイバーセキュリティ分野の専門家であり、アートを通じて「豊かな人生」を探求する実践者。DEC、KPMG、Arthur Andersenなど外資系企業で研究開発や経営コンサルティングに従事した後、金融庁、会計検査院、原子力規制委員会、広島県などで情報戦略・デジタル政策を推進。広島県では13年間にわたりCIOとして県政のデジタル化を牽引した。現在は株式会社ArteVisione&Co.代表取締役、株式会社Trive常務執行役員などを務める一方、京都芸術大学大学院で美術・工芸デザインを研究。「テクノロジーと芸術は、人の心を豊かにするためにある」という信念のもと、本連載では人生を味わい深く生きるための美意識や教養、そして大人のたしなみを綴る。仕事と芸術、理性と感性、その両方を往復しながら、自分らしく生きるヒントを読者とともに探していきたい。

https://www.triveinc.com/news/detail/15.html

桑原義幸 (Kuwahara Yoshiyuki)

(行政DX、サイバーセキュリティ、AIリテラシー、アート思考)

1957年生まれ

IT・サイバーセキュリティ分野の専門家であり、アートを通じて「豊かな人生」を探求する実践者。DEC、KPMG、Arthur Andersenなど外資系企業で研究開発や経営コンサルティングに従事した後、金融庁、会計検査院、原子力規制委員会、広島県などで情報戦略・デジタル政策を推進。広島県では13年間にわたりCIOとして県政のデジタル化を牽引した。現在は株式会社ArteVisione&Co.代表取締役、日本電気(NEC)株式会社エグゼクティブストラテジスト、株式会社Trive常務執行役員などを務める一方、京都芸術大学大学院で美術・工芸デザインを研究。「テクノロジーと芸術は、人の心を豊かにするためにある」という信念のもと、本連載では人生を味わい深く生きるための美意識や教養、そして大人のたしなみを綴る。仕事と芸術、理性と感性、その両方を往復しながら、自分らしく生きるヒントを読者とともに探していきたい。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000559.000078149.html

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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