英国王室御用達企業として
皇居のお堀端近くにあるBB&R(ベリー・ブラザーズ&ラッド)のテイスティングのためのダイニングルームには、桜の木の一枚板のテーブルがしつらえてあり、その重厚な作りに300年の伝統を感じる。
穏やかな笑顔で「日本が大好きなんです。何よりまず日本人がいい。食べ物も美味しいし、町も好きですね。もっと早く日本に来ればよかった」と語るサイモン・ベリーさんは、英国最古のワイン&スピリッツ商BB&Rの会長だ。
ロンドンのセント・ジェームズ宮殿の向かい、セント・ジェームズ街三番地に、珈琲と紅茶の雑貨店が誕生したのは1698年のこと。その後、ワインやウィス キーを手掛けるようになり、1760年ジョージ三世時代に王室にワイン&スピリッツを納めようになった。
1903年エドワード・キング七世の時には王室の侍医から「王様が移動中に寒くないように何かないだろうか」と相談され、ブランデーとしょうがのリキュー ル「キングス・ジンジャー・リキュール」をつくった。「アルコール度数41度のお酒をつくるなんて、王様の健康を考えたら、今では考えられませんよね (笑)。時代は変わりました」(サイモン)。
現在、エリザベス女王とチャールズ皇太子の御用達企業であると同時に、サイモンさんは個人的にもエリザベス女王のワインを選ぶ任を務めている。
「女王陛下は高価なワインを飲まれていると思っている方が多いですが、けっしてそうではありません。ハウスワインのようなものでも品質の良いものをお選び しています。バッキンガム宮殿のパーティでもセレクトさせていただきますが、お客様にとってその場に行けること自体が何よりも光栄なことだとは思いません か」。(サイモン)
1923年には世界初の無着色スコッチ「カティサーク」を登場させ一斉を風靡。そして300年たった今も、創業の地で商いを続けている。
世界で最も洗練されたマーケット、日本
日本に支店を出したのは2008年。主にホテルやレストラン、百貨店に卸している。
「日本は世界で最も洗練され成熟した市場だと言っていいと思います。日本人は常に学びたいという姿勢があり複雑さを好むんです。探究心が旺盛で、新しいものを探し出すことに喜びを感じる。私にとっては刺激的なマーケットですね」。(サイモン)
現在BB&Rのビジネスの中心はワインで、900万本を所有し、うち半分は投資用として顧客から預かっている。ワインが身近なヨーロッパでは、自 分が飲む分より多くワインを購入し、専用倉庫で保管してもらい、相場を見ながら売却するというワイン投資は珍しいものではないようだ。また、一樽から自分 だけのカスタムメイドのボルドーワインを造ることもできる。
歴史と伝統、そして変化
それにしても、同族経営でしかもここまで長く企業を継続させるのは並大抵ではない。「変化することを辞めないことが重要です。長く続けてこられたことは、本当に幸せなことです」。(サイモン)
サイモンさんは、ヒースロー空港にスペシャリストのワイン商として世界で初めて免税店をオープンさせ、1994年にはいち早くオンラインのワインショップを開設。イギリスの代表的なワインサイトとして認められている。また、ワインアプリもつくった。
同族経営の中で過去の歴史を考えながら将来のことを念頭に置き、常に変化し続ける。歴史や伝統的なサービス、品質の維持、出自と保管に重きを置きつつ、最も革新的で近代的なワイン&スピリッツ商として最先端を走り続けている。
「変化し続けること。品質に妥協しないこと。常に飲んで美味しいこと。私が引退するまでに、より強く発展させた形でつないでいきたいと思っています。次回はぜひ、社長である甥にインタビューしてください(笑)」。(サイモン)
文:岩崎由美