
<裏方と人気俳優と>
海外では俳優、日本では映画監督として活躍するジャッキー・ウーさん。ジャッキーというのは、香港のアクションスター、ジャッキー・チェンにあやかってつけたのだそうです。祖父が中国人で祖母が日本人であるため、4分の1中国人の血が入った日本人です。
祖父がカンフー好きで、家に飾ってあった写真から興味を持ち、動きを身につけ、それを映画製作で指南するために海外に渡ります。ところが、いくらオーディションをしても役に適した俳優が見つからず、監督から、俳優として演じるように言われてデビューすることになります。「演技の勉強をしていたわけではないのに、突然、できるものなのですか」と問うと、「教わるという概念が僕にはない。元々プロだったダンスも誰にも教わっていないし、自分の個性を伸ばすためには教わってはいけないと思っているんですよ。美空ひばりだって教わってないでしょ」と言います。



そして、これまで身につけてきた演技の秘密についても明かしてくれました。
「表現というものは国によって全部違います。日本には四季があって、春と秋というクッションがあり身体も心も整える時間があります。備える心を持っているのは、おそらく日本人だけです。ということは、備えてからしゃべるので、セリフの前に目が動く。外国では、セリフを言ってから動く。文法も違うでしょ。だから、表現方法が違います。僕は、リズムを変えた表現方法を使うんです。」

「『桜梅桃李(おうばいとうり)』という言葉があるんですが、桜は桜らしく、梅は梅らしく、自分は自分らしい花がある。自分の個性、間、目くばせ、呼吸、タイミングを磨けば誰にも負けません。自分の持っているリズムや感性を研ぎ澄ませば絶対に勝てます。他人を見ず、羨ましがらない、ねたまない。焼きもちを焼かない。それと同時に天狗にならない。恵まれていることに感謝することを心がけています。」
<日本の現状を映画で海外に伝えたい>
多彩に活躍するジャッキーさんが監督した「認知症」がテーマの映画は、いままでに3本あります。中でも『キセキの葉書』は、2017年「マドリード国際映画祭」で最優秀外国映画監督賞と、主演の鈴木紗理奈が最優秀外国映画主演女優賞を獲得。
2018年に上演した『ばあばは、だいじょうぶ』は「ミラノ国際映画祭」で最優秀外国映画監督賞と、10歳の少年・寺田心が最年少主演男優賞を受賞しました。認知症になって少しずつ変わっていく祖母を寂しそうに、怖そうに見つめる小学生を、繊細に愛おしく演じました。


「これまで、アクションやヒューマンドラマ、反戦もの、恋愛もの、コメディといった様々な海外の映画を製作スタッフとして、あるいは俳優として経験してきました。そして日本に帰ってテーマに選んだのは認知症です。周りに認知症の人がいたので、他人事ではありませんでした。日本では認知症になっても施設に入れることに抵抗があり、心理的に海外にはない難しいものがあります。それを海外に届けたいと思いました」。ジャッキーさんは、今もなお「認知症」をどうとらえたらよいか、もやもやしているそうです。心の整理ができないのは辛く苦しく、「その世界に入り込めば入り込むほどきついですね」と言葉を絞り出しました。
<混沌とした横浜・中華街>
ジャッキーさんは、横浜・中華街で生まれ育ちました。父親が中華料理店を営み、地元の公立校には、外国籍のクラスメイトがたくさんいました。友人にも外国人が多く、アメリカ人の友人が連れて行ってくれたのが隣町、本牧の米軍基地です。本場の音楽とダンスを知りすっかり魅せられてしまいました。
「カルチャーショックを受けました。ものすごくかっこよくて、自分も踊りの練習をして、横須賀のどぶ板通りで米軍が使うような生地を買ってパンタロンを作ってもらったり、ロンドンブーツをはいたりして踊りました。山下公園に走っていた貨物線のガード下にあった外灯の電球を背中にすると、地面に大きな影が映ったんです。影の角度を変えると足が長くなって黒人みたいに見えた(笑)。ラジカセをかけてずっと踊ってました」と当時を振り返ります。
練習できるガラス張りの部屋や、自分を映せるビルがあるような時代ではなく、影を頼りに踊りを練習したジャッキーさん。見事、ダンス大会で優勝し、次第に実力が認められてプロになりました。

<ドキドキする色合いを着て、心を遊ばせる>
こだわりのファッションについて伺うと、思春期に黒の学生服を着せられていたから、「黒色依存症」で、黒を基調にしないと落ち着かない。だからこそ、あえてドキドキする落ち着かない色合いを着るようにしていて、それが一番遊び心をくすぐると語ります。取材の日は、胸元に刺繡が入ったシャツに、ラメのついた上着を選んできてくれました。
さらに、役者として演じる時は地面を転がることも多く、監督としてもはいずり回り泥まみれになるので、汚れてもいいものを買うようにしていること。また、海外では、登録されている自分の体重に合わせて衣裳がつくられるので、何より大事なのは体重のコントロールだそうです。
ジャッキーさんは、これまで香港、フィリピン、ハリウッドを経験し、戦争映画にも多く関わってこられました。撮影の中で日本の過去を知るにつけ反戦の思いが強くなり、もっと「戦争の悲惨さ」を伝えたい、もっと「戦争をしてはいけない」という旗を振りたいと感じています。メッセージを込めて映画作りを続けていきたいと、熱い思いを語ってくれました。
文 : 岩崎由美 撮影 : 保坂真弓





