
<何より人を楽しませるのが好き>
映画『RAILWAYS ―49歳で電車の運転士になった男の物語―』(2010年公開)をご覧になりましたか。中井貴一主演で、東京の大手家電メーカーに勤める主人公が、子どもの頃の夢をかなえようと故郷・島根の電車の運転士になる物語です。心の奥にジンと響き、ふわっと温かくなるこの作品の脚本・監督をされたのが錦織良成さんです。

作品名:RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
劇場公開2010年5月29日
監督/錦織良成 脚本/錦織良成 ブラジリィー・アン・山田 小林弘利
主演/中井貴一
錦織さんは、子どもの頃から人を楽しませるのが好きでした。小学生のころ、家の縁側を舞台に近所の子供たちを集めて、コント、歌、芝居を見せるイベントをゼロから企画して毎年開催していました。
高校時代には、先輩から「演劇」を手伝うように言われ、頭を使う文科系のことをするのだと思っていたら、重い照明を運んだりするかなりの重労働。身体で作っていく世界に「のめり込みました」と語ります。大学は生まれ故郷の出雲を離れ、演劇の勉強ができる東京に行こうとしましたが「成功するわけがない」と親から反対されてしまいます。そこで選んだのが、自衛隊への入隊です。
その経験が『守ってあげたい!』(2000年公開)という映画につながります。今どきの女の子である主人公(菅野美穂)が、陸上自衛隊に入隊し、成長していく物語です。

作品名:守ってあげたい!
劇場公開2000年3月4日
監督・脚本/錦織良成
主演/菅野美穂
好奇心から婦人自衛官教育隊に入隊した今時の女の子が、厳しい訓練を経て
成長していく姿を描いた青春コメディ。
実際、錦織さんは自衛隊で2年間、働いた後、東京の東放学園放送芸術科に入学。学校にも、バイト先にも映画関係の人が大勢いて「映画を作ろう」「脚本を書け」と言われ24、5歳の頃から書き始めます。すると28歳の時に書いた脚本が採用され『BUGS』(1997年公開) という作品で映画監督としてもデビューすることになりました。

作品名:BUGS
劇場公開日:1997年1月11日
監督/脚本 錦織良成
主演/高橋かおり
地質異常の影響を受けて巨大化したフナムシと人間たちの戦いを描いたモンスター・パニック映画。東京国際ファンタスティック映画祭‘96正式出品作品。
監督・脚本デビュー作、これで名実共に映画監督になれた。
「ものすごく遠回りしたようですけど、意外と早かったですね。やりたい、やりたいと思っていると、どこでどうなって面白い化学反応が起きるか、その時はわからなくても、不思議なことに、いつの間にかつながっていくんです」(錦織さん)。
<オリジナルの企画・脚本にこだわって>
島根の小学校を舞台にした「白い船」(2002年公開)は、観客動員数10万人を超え、「渾身」(2013年公開)はモントリオール世界映画祭の正式招待作品として迎えられました。2016年の「たたら侍」は、同映画祭でワールド・コンペティション部門・最優秀賞芸術賞を獲得しています。

作品名:渾身 KON-SHIN
劇場公開日:2013年1月12日
監督/脚本 錦織良成
主演/青柳翔(劇団EXILE)伊藤歩
隠岐諸島の伝統行事・古典大相撲を通して、島とともに生きる家族の姿を描いたヒューマンドラマ

作品名:たたら侍
劇場公開日:2017年5月20日
監督/原作/脚本 錦織良成、
主演/青柳翔(劇団EXILE)、小林直己、EXILE AKIRA 。EXILE HIROが映画初プロデュースを手がけ戦国時代の奥出雲の村で伝統の継承を背負った青年が、真の武士へと成長していく姿を描き出す。
「都会にいると絶対にわからない事実がローカルにはあります。僕の映画は、故郷島根を舞台にしたものが7割です。わかりやすいものではなく、行間のようなものから想像して広がるからこそ面白い。僕の映画を撮る旅は、日本人のアイデンティティーを知る旅でもあるんです」(錦織さん)。
影響を受けた映画は「砂の器」。小説とは別の世界観があり、「脚本のセオリーではなく、音楽と演技ともっていきかたで、これだけ感動するものが作れるのかと映画の力を感じました」「見て良かった、楽しかった、明日からも頑張ろうとか、ただ涙を流すだけでもいいですし、見終わった後に爽やかで清々しい作品を作りたいと思っています」。「映画の表現が一番自分としては楽しくて、一番向いている」と語る監督。次の作品は、島根の隣の広島が舞台です。
<広島を撮るなら原爆でなければ>

書籍「広島の二人」映画化の製作発表会
原作の、『広島の二人』(保坂延彦著、ジェイコード刊)という本に出会ったのは、広島の映画祭に招待された時のことでした。ぜひ、この本を元にした作品を撮ってほしいと映画雑誌の編集長に依頼され「闘志が燃えあがりました」(錦織さん)。
物語は、広島で捕虜収容所を脱走した米兵アーサーと、彼を追う藤田軍曹の攻防と、敵味方を超えた友情、そして二人が浴びた閃光の恐ろしさを、数十年後の藤田の娘を通して描いています。この本の原案・脚本は、黒澤明作品の名脚本家として「用心棒」や「赤ひげ」などを書いた菊島隆三さんと弟子の安藤日出男さんで、このお二人から映画監督の保坂延彦さんが託されたものでした。保坂さんは幾度も映画化に挑戦しましたがかなわず、2020年に脚本と小説を合体させた単行本として出版しました。それに目が留まったのです。
「運命的に僕の所に来たんだなという気がします。広島の方もたくさん応援してくださって、この『広島の二人』を必ず世界に持って行く作品にするんだという気概がわいてきます。人間は『まさか』ということをする可能性がある。だから本気で二度と原爆を使ってはいけないということを次の時代につなげなきゃいけない。戦争は誰も幸せにしません。唯一の被爆国である日本人でしか描けない切り口を何とか出したいと思っています」(錦織さん)。
2024年のノーベル平和賞に、核兵器廃絶を訴える日本原水爆被害者団体協議会の受賞が決まりました。被爆者の立場で、戦争の実態と核兵器の恐ろしさを訴えてきたことが評価されてのこと。世界情勢が不穏な今だからこそ、世界へ広く訴え続ける必要があるのではないでしょうか。
21世紀のヒロシマ映画「広島の二人」は、シナリオを現代版に改稿し2025年の被爆80年のタイミングで撮り始め2027年完成予定です。
文 : 岩崎由美 撮影 : 保坂真弓





