価値のあることは真似される
黒い帽子に、黒いサングラス、黒い革のジャケットという全身黒のファッションに、首に巻かれたオレンジのマフラーがアクセントとして映える。しかも、撮影場所の「Knoll 」のコーポレートカラーと同じ色だ。 「今日の気分で、天気もいいから革を着てますけど、マフラーの色は偶然ですね。」と笑顔で語る坂井直樹さんは、「コンセプター」という仕事を発明した方だ。
コンセプターとは、様々な分野の垣根を越えて、最新のテクノロジーからインターフェイスまで全てをつなげていく人のことである。それができるということは つまり、デザインのことはもとより、すべてを理解し、マネジメント力、マーケティング力、リーダーシップを兼ね備え、チームを束ねて統括し、自らが仲介者 となってプロジェクトを推進することができる人物という事である。
「最近は、コンセプターという肩書をつける人がたくさんいますが、真似されるということは大事だと思っています。価値のあることは、みんな真似するんですよ。」(坂井)
モノに革命を起こすイノベータ―
坂井さんは、大学在学中にアメリカで起業し「刺青プリントTシャツ」を大ヒットさせ、帰国後、テキスタイルデザイナーとして活躍。コンセ プターとして自動車の「Be-1」を世に送り出し、大ヒットさせた。カメラの「O・product」は、世界各地の美術館に永久コレクションとして保存さ れるほど画期的だった。このほかにも、数限りない国内外の製品開発に携わっている。
「一社一社、要望は違いますが、いずれにしても十年先を考えている大企業から依頼がきます。業種は問いません。僕の仕事は十年先なんですよ。こうしたデザインコンサルティングという仕事と、自分から発想してつくるものと、この2つが仕事です。」(坂井)
今、若い人が羨ましがるような「スーパーかっこいい」杖や車椅子など、アンチエイジングプロダクトを製品化している。
世界に羽ばたくために
「日本には素晴らしいデザイナーがものすごくいますが、日本がますます日本的になってきていて、全然グローバル化しない。グローバル企業はあるけれど、個人として活躍できるのかというと、なかなか難しい。」(坂井)
日本自らが新しいプラットフォームをつくれるようなメッカにならないと、どんなに素晴らしい人やモノがあっても、世界と戦っていくのは難しいようだ。
自分が「ほしいか、買いたいか」という視点でモノを生み出し続けている坂井さん。「自分が好きなことをやり、好きなものを作り、好きな働き方をする。ただし覚悟がいりますけどね。」(坂井)
「スーパーかっこいい」と思える大人の男である。
文:岩崎由美