【FURULA 90周年記念コレクションは家紋デザイン】
イタリア・ボローニャ生まれのブランドFURULAは、2017年11月15日(水)、創業90周年を記念してKAMON(家紋)コレクションを発表した。牡丹、ダリア、小葵の3つのオリジナル家紋デザインを手掛けたのは、紋章上絵師(もんしょううわえし)三代目の波戸場承龍さんだ。
紋章上絵師とは、着物に墨と筆を使って手描きで家紋を描き入れる伝統技術を持つ職人のことである。「紋章上絵師になるべく、かなり厳しく育てられた」と言う波戸場さんは、子供の頃から家紋の『紋帳』が絵本やバイブルのようにそばにあった。1980年に独立し、その後、総合加工を請け負う会社を15年ほど経営していたが2000年に一人になる。
「着物で営業しようと思って、浅草に行って古着の結城の単衣と野袴(のばかま)を買いました」。その時にネットで見つけた着物コンテストに出場すると、新しい道が拓け始める。
FURULA創業90周年KAMONコレクション発表会
【どうしたら面白いか、どうしたら驚いてもらえるか】
「自分なりに着物の形をデザインして袖は筒袖、野袴の裾をベルトで縛って細くし、イッセイミヤケのハイカットブーツに白のスタンドシャツを着て赤と青の靴下をはいてサングラスをかけて出場したら、ダンディ賞と準優勝をいただきました」。
波戸場さんの着物姿が周りの人たちから評価され、それ以降、家紋をあしらった着物のデザインをはじめるようになると、それがユナイッテッドアローズの商品になった。
「どうしたら面白いかなとか、どうしたら驚いてもらえるかなと、そこが一番根っこにある。新しいもの、格好いいものを常に考えて、人と同じ物は嫌なので自分で作り始めたんです。世の中に自分の着たい物がなかった」。
家紋をデザインし始めたのは50歳の時。「何か形を残したいと江戸小紋の柄と家紋を合わせて一つの作品にする『 KAMON ×KOMON(家紋小紋)』というのをつくりました」。額装された作品である。ここから少しずつ「デザインとしての家紋」の仕事にシフトしていく。
最初に依頼を受けた企業のロゴデザインでは、波戸場さんがデザインをして、四代目となる息子さんがデータに落とし込んだ。新しいもの好きの波戸場さん、今では、Macと描画用ソフト「Illustrator(イラストレーター)」を駆使して次々に作品を生み出している。
【家紋を、新しくつくる】
先祖代々伝わる家紋は約5万種類あると言われていて、着物の背中や戦国武将の旗印で見たことがある方も多いと思うが、今、ほとんどの人が自分の家の紋を知らない。せっかくの美しい日本の伝統文化が廃れつつある。両親や祖父母との会話のきっかけになり、自分の知らなかった家のルーツを再発見出来るかもしれない。
波戸場さんは「江戸時代、庶民が家紋を持ち始める時は、『今日からこれを、家の紋にします』と宣言すれば通用するおおらか文化だったんです。決して堅苦しいものではなく、それぞれの家族の想いが反映され、一家に一つしかないという事でもありません。家の家紋とは別に個人で楽しむ紋を新しく作ってもいいんです」。と、その想いから新たな家紋をデザインしている。日本に長年在住している外国人の方が日本人と結婚するにあたり紋付を着たいので、自分の家の紋章を使って家紋を作ってほしいという依頼や、高校生のカップルが2人の紋を作りたいと言ってきたリ、家紋の世界にも新しい時代がやってきた。
「形にこだわっていかに美しく描くかなんですが、すごく家紋って数学的でパソコンと相性がいい」。家紋は、円が重なり合った円弧で描かれている。手描きでは極細の上絵筆と分廻し(ぶんまわし)という筆を付けた竹製のコンパスを使うのだが、Illustratorの正円ツールを使って描いていく。形にこだわり、心地よくなるように間を大事にする。自然界を手本として紋の形に落とし込み、形を整え、色々な意味づけを込める。そぎ落とされたシンプルな形に、省略の美学が凝縮されている。
息子さんの名前に耀次(ヨウジ)とつけるほど「Yohji Yamamoto」が大好きという波戸場さん。新しい感覚で、現代に、家紋を生き返らせた。
一切合財入れられる「合財袋(がっさいぶくろ)」には、スワロフスキーで家紋が施されている。
文:岩崎由美
撮影:木村咲