【魂を揺り動かす音楽】
ルドヴィコ・エイナウディさんの音楽は、心の奥底に語りかけてくる。
そして聴くたびに違う感情が呼び覚まされる。現代のサティと言われるイタリアの作曲家・ピアニストのエイナウディさんが、2017年4月の公演を前に来日した。
現在、イタリア政府音楽大使を務め、ヨーロッパを中心に世界中で絶大な人気を誇り、150万枚以上のアルバムセールスを記録している。
また、映画、テレビ、CM、ダンス、オペラ・バレエなどの音楽も手掛け、数々の賞を受賞。特に2016年日本で公開され大ヒットした映画『最強のふたり』の音楽が印象深い。切なく、魂を揺り動かす音楽は、一体どのように発想されるのか。
「たとえて言えば、テニスプレイヤーと同じです。毎日、毎日、色々な経験をして、様々な努力をして、たくさんのモノを観て、探して、実験をして・・・。その結果、音楽が、ひとつの芸術ができあがっていくんです。決してゼロから作っているわけではないんですよ」(エイナウディ)。
【今の自分があるのは両親のおかげ】
母方の祖父は、大作曲家プッチーニとも交流があったシドニー・オペラ・カンパニーを創設した指揮者・ピアニスト。
会ったことはないけれど、母親から話を聞かされて育った。
「母親は毎日のようにピアノでショパンやシューマン、バッハなどを弾いていた」のに加え、少年時代は姉の影響でビートルズやマイルス・デイヴィスを聴き、ロックに興味がわいてエレキギターに浸っていたこともある。
父方の祖父は、イタリア共和国第2代大統領で経済学者、高級ワインメーカーの設立者でもあった。父親は老舗出版社の創設者で、作家や国際的アーティストとも触れ合えた。
「母はクラシックを愛し、姉はロックが好き、フランスのポピュラーミュージックからも影響を受け、そのすべてが今の自分の源になっていると思います。また父からは知的財産も受け継ぎました」(エイナウディ)。
エイナウディさんの音楽は、ジャンルにとらわれず自由に羽ばたく。
【音楽を通してコミュニケートする】
ある時「自分は、音楽をしなければ、とても不幸な人間になってしまう」と分かったそうだ。
「音楽から離れては生きていけない」という思いが強くなり「自分は音楽を通して人とコミュニケートしている」。
「コンサートの最中、奏でられる音楽がパーフェクトで、観客といい具合にブレンドされているという実感がある」とき、とても感動する。
また、家族と共に過ごすとき、自然に接しているときも幸せな気分になる。
「ひとつの世界を創り出すということ、僕の場合は音楽ですが、それがファッションの人もいるかもしれないし、それらの美しさを通してひとつのオーラのようなものが醸し出されて、そのオーラの中にいたいなと思うような感じになっていくんだろうと思うんです。自分ではよくわからないのですが、エネルギーの力というものもあるのかもしれません」(エイナウディ)。
【自分に正直に生きる】
来日公演は4度目。
「日本にはとても敬意を持っていますし、魅力を感じています。日本人の美学というのでしょうか、美に対する意識は素晴らしい。そういうものは、例えば禅からきているのかもしれませんし、禅も枯山水だったり生け花だったり色々なものに影響を及ぼしていますよね。来日するたびにそれを感じとります。モノを包むラッピングの美しさや、色合いのコンビネーションからもエレガンスを感じ、そのすべてを愛しています」(エイナウディ)。
穏やかで、丁寧な話し方は、彼の生き方そのものだ。
「自分に正直に生きよう」「環境や自然を守っていきたい」「平和な世界をつくっていきたい」と願い、それらを音楽で表現している。
今回のコンサート、一つの体験として感じてほしいそうだ。
「魂の旅のような、自分自身のことをより深く考えるきっかけになってほしいですし、何かを発見してくれたら嬉しいです。音楽に加えて光とプロジェクターを使います。何かインスピレーションを感じて頂ければなと思っています」(エイナウディ)。
さて、あなたは何を感じるだろうか。
文 岩崎由美
宝物は、自分自身の在り方。そして家族。
この作品は、友人カップルが監督で、エイナウディさんの音楽を聴きながら台本を書いていたため、他の音楽家は考えられなかったそう。
世界中回っているので、イタリアには一年の半分ほどしかいられない。ミラノの家と、家族代々の家がある北イタリアのランゲとを行ったり来たりしている。