Philosophy of the gentleman

Mr.紳士の哲学

紳士の哲学では、紳士道を追求するにあたり、
是非参考にしたい紳士の先人たちのインタビュー・記事を通して学んでいきます。

本田聖嗣

ピアニスト

ファッション哲学

まじめに面白いことを追求しよう、いつもユーモアを大切に

*

<多芸多才なピアニスト>
超一流のピアニストであり、多才な方である。テレビやラジオ番組でプレゼンターをするほどおしゃべりがうまく、新聞など各メディアでコラムも執筆する。頭の回転の速さからくるのだろう、喋るスピードは3倍速で(笑)、いつも笑顔だ。3ヶ国語(日英仏)を操り、ITも得意ときたら、もうひれ伏すしかない。
最初からプロのピアニストになろうと思っていたわけではなかった。小学生のころからピアノが好きで本格的に弾いていたため、何とかピアノの勉強時間をつくりたいと、日本で一番授業日数が少ない学校を探した。すると、見つかったのは名門の麻布中学。すんなり入り、自由闊達な校風の中でのびのびと過ごす。中学時代のピアノの先生の一人は、皆様ご存じ中村紘子。
超難関の東京藝大ピアノ専攻科に入学しウィーンに留学されていた先生に師事していたが、2年生の時に偶然始まった「京都フランス音楽アカデミー」でフランス人の先生たちに出会った。その先生方が、あまりに面白くてフランスに行くことを決意。そして、3年生の時に世界で最も歴史と伝統がある、これまた極めて狭き門であるパリの国立高等音楽院ピアノ科に留学。ピアノ科と室内楽科の両方でプルミエ・プリ(一等賞)を取得。合わせて高等演奏家資格(DFS)を最優秀の成績で獲得するなど、とにかく優秀なのだ。「あまりも楽しかった」のでフランスで14年間暮らし、現在は、日本を中心に活動している。
「フランス生活で学んだのは、ユーモアの大事さです。フランスに対してそういうイメージはないと思うんですが、3秒に一回ギャグを言わないと許されない国なんです(笑)。

レッスンの時に先生がボケをかましてきたり、笑いが絶えない潤いのある生活のリズムを学びました。多民族、多文化があたり前で、そういう人たちが集まってお互いの主張を言葉や音楽で表現し、正面から衝突するのを回避するためにコミュニケーションには常にユーモアを交える。ですから私の音楽の基本は、「音学」ではなく「音楽」、学ぶじゃなくて楽しむということなんです。それを普通の生活に持ち込みたいんですよ」。
3枚目役をかい、ギャグを飛ばし、人生は楽しむもの、音楽は楽しむものだというのが常にある。「『人生楽しく』というのが原点になっています」と、ニコニコと語る。

<芸術とユーモアは、垣根を乗り越える>
「音楽にもそういうのが必要だと思っているんです。私が教育現場で悩んでいるのは、すごく優秀な子が伸び悩んでいるという現象です。委縮しているんですね。先生に言われる通りコンクールで批判を受けないような弾き方をしていたら、決して面白い音楽はできないです。自分で本質的な何かを見つけなきゃいけません。それは、僕は美しいものに感動する楽しさだと思っています。クラシック音楽というのは、人間の苦労とか苦悩をも描いているんですが、それがポジティヴに昇華される芸術だと思っています」。
「日本はクラシックをドイツで学んだ方が多いからか、衒学的、哲学的になりがちなんです。哲学的面白さや、苦悩を経て歓喜というのもわかるんですが、一方で、ただ単に聴いていて心地がいい、美しければそれでいいじゃないか。フランスには終始一貫その美学がありました。また、日本では『美しさの前には言葉を失う』的感覚がありますが、フランスでは逆で、『そのものが美しいなら、言葉で説明しなさい。説明できないなら、それは美しくないのだ』という極端な哲学がありまして、とにかくひたすら言葉で、楽しいとか美しいということを説明するのに皆が一生懸命になります。フランスのカフェではBGMは余計、人々のおしゃべりがいつもうわーんと店内に反響しています」。
そして、フランスでの授業の一端を紹介してくれた。先生がフランス人の生徒達を前にいきなり『フルイケヤ、カワズトビコム、ミズノオト・・(古池や蛙飛びこむ水の音)』とたどたどしい日本語で言い、「これは芭蕉という人の俳句で、こういう短い詩を楽しむ文化が日本にはある。今日はアジアの美を勉強してみよう」と、中国唐代の詩人の詩をテキストにしたマーラーの『大地の歌』を聴く。これは本田さんに敬意を払い、アジアに焦点を当て、美しいものを美しいと感じることを伝達する授業なのだ。こんなに素敵な授業があるだろうか。広がり、楽しく、好奇心がくすぐられ、多くを感じ取ることができる。
「僕は、芸術とかユーモアは乗り越える力を持っているので、いいものはいいで垣根を越えてやっちゃえばいいと思っています。日本はなんでも『縦割り』になってしまうところがあるのと、笑いが一段低く見られていて日常のユーモアが少ないため、なかなか垣根が超えられないんだと思っています」。

<オヤジがもっと楽しみ、表現する>
また、続けて「おじさんが楽しく生きていこうよというのが日本の活力には必要です。フランスでは、たとえおじさんであろうと表現することが大事にされ、リスペクトされます。おじさんは何かを使って楽しむのに長けていて、おじさんたちが楽しいなって夢中になってなにかに打ち込んでいる姿を見せて、初めて若者に伝わります。それは音楽に限らず、何でもいい。楽しみながら、文化を牽引していくことがすごく重要です。それによって、オヤジ予備軍である若者たちが楽しみ方を学ぶんです」。
最後に、コロナ禍に音楽は必要不可欠ではないという声があったが、どう思うか伺ってみた。
「健康や経済が一番ですから必要不可欠だとは言えないと思います。ただ、音楽は楽しい時に生まれるポジティブな芸術で、楽しい生活には必ず必要です。生活に音楽がないと楽しくありません」。
日本でクラシックが大きく広がるためには、人生のキャリアを積んだ人たちの力が必要だ。クラシックを愛し、楽しみ、伝えるのは、真に楽しんでいる人にしかできないことである。もっと楽しく、もっと自由にリラックスして、美しいものに感動する楽しさを伝えていっていただきたい。


愛用のネクタイ:
勝負ネクタイは、モーツアルトのサイン入りの自筆譜柄。オーストリア製ですが、なぜか東京の赤坂で買いました(笑)。

愛用の手袋:
常に手を守るためにしている工具用の手袋。スマホも使えますし、大好きな車を運転するときもしている。

発売中の主なCD
●クラシックピアノソロ
「1,馥郁たるパリの香り」 https://ottava.official.ec/items/32307342
「2,馥郁たるパリの香り」 https://ottava.official.ec/items/32307450

●フランス歌曲
福田美樹子『Je ne t‘aime pas あなたなんか愛してない』
https://ottava.official.ec/items/27128320

●「ふるさとの歌。こころの歌。」
https://thebase.in/inquiry/ottava-official-ec
素晴らしい日本唱歌メドレー「ふるさとの四季」、日本歌曲、イギリス歌曲、イタリア・カンツォーネ、オペラの名曲・・・
懐かしさを感じる数々の名曲。2年の時を経て、ついにCD化。

●「ピアノコレクションズ ファイナルファンタジーⅦ」
www.amazon.co.jp/dp/B00025E1VC

●「涼宮ハルヒの消失 オリジナル・サウンドトラック」
www.amazon.co.jp/dp/B002WQSV1A

文:岩崎由美
撮影:岩村紗希
協力:ヤマハアーティストサービス東京

本田聖嗣

1970年東京生まれ。私立麻布学園中学・高校から東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻卒業。パリ国立高等音楽院ピアノ科および室内楽科を共にプルミエ・プリ(一等賞)で卒業、同時に高等演奏家資格(DFS)を最優秀の成績で獲得。仏、伊のコンクールで最高位入賞後、日仏で演奏活動を開始。クラシック音楽専門インターネットラジオ「OTTAVA」では生放送で番組プレゼンターとして出演するなど数々のテレビ・ラジオに出演。テレビドラマの劇判の作曲・演奏も務める。日経新聞日曜版「The Style」、J-CASTニュース週刊「日常は音楽と共に」など連載。日本演奏連盟会員、日本大学芸術学部講師、ヤマハマスタークラス演奏研究コース講師

座右の銘

これまた、ふざけたのが好きなんです。

『東海道中膝栗毛』を書いた十返舎一句辞世の句「この世をば どりゃお暇(いとま)に線香の 煙とともに 灰(はい)左様(さよう)なら」なんて素敵ですね。

 

おススメの本

いっぱいあるんですが、竹鶴政孝さんをモデルにした「ヒゲのウヰスキー誕生す」(川又一英著 新潮文庫刊)

他にも文化と科学が一緒になっている話も大好きで、上前淳一郎「複合大噴火」(文春文庫)、臼井隆一郎「コーヒーが廻り、世界史が廻る」(中公新書)鹿島茂「馬車が買いたい!」(白水社)など、いつも本棚から引っ張り出す愛読書がいくつもあります。

 

おススメの映画

ベストワンは、フランス映画史上に残る名作「天井桟敷の人々」ですが、「ショーシャンクの空に」とか、「アポロ13」とか、物語があって、最後はハッピーエンドのものが大好きです。なので、「スター・ウォーズ」とかも、かならずチェックしています。

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。