【2 つの会社の経営者として】
高岡さんは火曜から木曜までは名古屋の「日本高圧電気」という配電機器メーカーで社長を務 め、月曜と金曜は東京のマットレスパッドの製造販売企業「エアウィーヴ」で働く。
日本高圧電 気は 2 代目社長。
エアウィーヴは、漁網や釣り糸を作る射出成形機を製造する伯父の会社の経営を引き継いだ。
「伯父から、工場の技術力を残してくれと言われ新商品開発に取り組んだ結果、睡眠の分野で活き、その後、研究を重ねてエアウィーヴという素材を完成させてマットレスパッドにしました。
中学の頃から運動をしていたので睡眠が大事だというのは、ずっと気になっていましたし、寝てからのプロセスというのは未だ解明されていないんです。
病気の方はまだしも、健康な人の研究 はされていません」(高岡)。
エアウィーヴは、「睡眠の質」を追及するため、スタンフォード大学の睡眠・生体リズム研究 所と共同で睡眠研究を行い、その効果を測定し実証データに基づく製品づくりをしている。
極細 ポリエチレン樹脂を三次元で絡み合わせ 9 割以上が空気という独自の構造を生み出すことに成功したのは、今から 9 年前のことである。
【イノベーションを起こす】
それにしても、なぜ寝具なのか。
「寝具の世界にはイノベーションがなかったんです。
コイル スプリングがメインで、人間の身体は 3 次元なのに1次元で、しかも緩衝材を入れて何とか支 えているという状況でした。
ただ、いくら『我々の商品は 3 次元で良いものなんです』と言っ ても業界が成熟化していますから参入は難しい。
そこでインターネットと宅配で売れるベッドパ ッドにしました」(高岡)。
「良いものができた」と思っているのに、最初の 3 年はまったく売れなかった。
「しんどかっ たですね」と高岡さんは振り返る。マットレスの上に敷くベッドパッドは、なくても困らない。
だからこそ相当な根拠が必要だ。
「快適睡眠」を願う顧客にリーチするためには、徹底的に本物を追求しブランディングをしてマーケティングするしかないと考えた。
「つまり、お客さんが指名買いしてくれるようなマーケティングにするしか方法がないわけです。
そこで睡眠研究の重要性に思い至りました。当社が提供するのは、Well-being、心身ともに健康で前向きに生きることを実現する“価値”なんだということです」(高岡)。
そこで、睡眠研究を始め「いつか売れるから」と社員に言い続けた。
2011 年、ロンドンオリ ンピックの選手用に作らせてもらえることになり、爆発的に売れると同時に売り場を出せた。
2015 年現在、日本に約 150 店舗、海外も含めると約 190 店舗に広がっている。
【居心地の悪い世界に放り込む】
「企業経営者にとって重要なのは、自分、社員、顧客、ステークホルダーを維持すること、サ ステイナブル(持続可能)にするというのがミッションです」(高岡)。
エアウィーヴを、持続可能な企業にするために「アメリカと中国の市場をおさえ、約 1000 億の規模にする必要がある」(高岡)と、すでに手を打ち始めた。
こだわりの商品を、こだわる方に使ってほしいと、浅田真央さん、坂東玉三郎さん、錦織圭選手に使ってもらっている。
また錦織選手を育てた世界最大級のトップアスリート養成施設「IMG アカデミー」の寮では実証実験を行う。
その他、高級ホテルや航空会社のファーストクラス、新 たに FC バルセロナの寮、国立パリオペラ座バレエ学校にも採用された。
「超一流のユーザーの方たちの生きざまを見て、その生き方に恥じないように企業活動をして いきたい。
浅田さんからは自分をどこまで成長させられるかを、玉三郎さんからは品格と他と比 較しないことを、錦織さんからは自分に勝てば勝てない相手はいないということを教わっています。」(高岡)。
2 つの会社の経営者として世界を駆け巡る毎日だが、50 歳からトライアスロンを始めた。
自分に厳しく、自分なりにこだわっているのは、「謙虚であること」。
そのために、自分を居心地の 悪い所に放り込むことを意図的にしている。
なかなかできることではない。
文 岩崎由美