Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

サローネ・パルテンツァ 富山広一氏のダンディズム

日本を代表する高級毛織物メーカー「御幸毛織」の一環製造の仕組みを活かして、伝統的な製織技術、仕上げ技法などの確かな技術を駆使して創られたジャパン・メイドのテキスタイルを中心に、今着るべき最高のドレススタイルを提案する、オーダースーツブランド、サローネ・パルテンツァ。
今回は商品統括部「富山広一氏」が考える『ダンディな装い』について、男子専科STYLE編集長 「慈友さん」と対談。
ブランド立ち上げに至る思いから、各シーンに対応出来るビジネスマンの着こなしについて二人が語る。

【ダンディな着こなしについて】

慈友さん「ご自身のファッションの哲学として、気をつけている点は何ですか?」
富山 「クラシックスタイルを好きになったのは高校生。子供の頃から洋服に囲まれる環境がありました。古着屋に行ってインコテックスを買ったり、その頃に買ったクロケット&ジョーンズのチャッカブーツは今でも持っていますし、若い頃からクラシックのスタイルに魅了されていました。社会人になってからは一変して、モードブランドやトラッドブランドでも働くようになって、色々なスタイルについて学びました。非常に濃いファッション人生であったように思います。…(笑)その中でもクラシックは唯一無二の存在であり、自分の中心となるスタイル。その中でも一番大切にしているのは、その時々のTPOに合わせたスタイルをするという事です。」
慈友さん「よく使う色や好きな色はありますか?」
富山 「紺と茶ですね。紺のスーツに茶色のスエードを合わせるようなクラシックスタイル。とはいえモードの世界にも居たので、やはり黒も好きなんです。今までの自分の人生がミックスされているとも言えるかもしれません。」
慈友さん「スーツスタイルでポイントになる部分はどこですか?」
富山 「フィッティング。アイテムよりも、組み合わせによる上下のバランスです。あまり主張しすぎない事も大切。人が振り返るようなファッションはしたくないんです。」
慈友さん「ダンディだな、と思う有名人は?」
富山 「最初に衝撃を受けたのは、ボー・ブランメル。彼の活躍ぶりには衝撃を受けました。ああいうヤツになってみたい!と強く思いました。フィッティングに対する拘りと、目立ちすぎないスタイルが彼の思いなのです。“ 振り返られるようなファッションは目立ちすぎている ”という名言を残しています。つまり主役は服じゃないのだ、という意味ですよね。」
慈友さん「日本人では誰かいますか?」
富山 「あまりいないかも。現実感のある人は、できるだけ見ないようにしているのかもしれません。哲学やマインドだけ自分の中に落とし込んで、消化しています。」
慈友さん「ダンディというワードの由来は、現在日本で認識されているのとは少し違った意味合いを持つのですが、富山さんにとってダンディとは何ですか?」
富山 「明確に感じているのは、相手に気を遣えるファッションである事。ファッション=礼儀だと考えています。TPOによっては、パートナーの女性の方が目立つ様に気遣いをしたり、時には同調したり、あくまで相手の事を考えた装いを選ぶ事がダンディ。常に意識しています。」

【新たな出発を意味するブランド立ち上げまでの思い】

慈友さん「ブランドに対してどんな想いがありますか?」
富山 「パルテンツァというブランドは僕自身が生みの親なので、やはり思い入れが強いのですが、売り上げが低迷していると言われている百貨店を盛り上げていく意味でも、直販型をとっているこのブランドを柱としていきたいと思っています。日本だけでなく海外展開も視野に入れ業界全体が盛り上がることが大事だと思っています。」
慈友さん「もともとパルテンツァは、どのようなブランドにしようと思ってお創りになったのですか?」
富山 「イタリア語で“出発”という意味を示す”パルテンツァ“。まず、お客様と出逢った時、一緒にオーダーを作っていくという意味の “ 出発 ”、ブランドの持っている考え方のベースとなる英国スタイルとイタリアスタイル。それぞれの洋服の原点となった思いをデザインに落とし込んでいる。細かなパーツのデザインにもこだわり、服飾史の出発点から紐解いた服作りをしています。」
慈友さん「なるほど。他のブランドとの違いは何ですか?」
富山 「今後はグローバル展開をしていきたいと思っています。ブランドのサブタイトルである〜スタイルの本質〜とは、人生を預かるクローゼットサロンとして20歳〜60歳まで、それぞれの年代に適したスタイルの提案をしています。本格的な仮縫い付きのオーダーもあるので、幅広く対応。20代で似合うものと60代で似合うものは当然変わって来ますから、それに合わせた提案をしています。日本の男性が世界に進出した時にも通用する、服装のマナーを押さえたスタイルを提案しています。」
慈友さん「ルールをリコメンドしてくれるサービスって貴重ですよね。オーダーだからといって何でもアリなのではなく、知らなかった知識についてその道のプロに教えてもらえるのは嬉しい。」
富山 「そうですね。お客様にそういった、一つの体験をしてもらう事が大切だと考えています。スーツにはボタンダウンを合わせてはいけないとか、なぜこのワイドカラーがいいのかとか、なぜこのタイの結びがいいのか、などそういった事の意味を知っていただけたらと思います。日本のビジネスマンがグローバル化していく中で、恥をかいて欲しくないので。」
慈友さん「けっこうスーツでその人自身のレベルが分かりますもんね。」
富山 「そうなんですよ。そこで間違った装いをしていることで、気を遣えない人だというイメージになって欲しくないですからね。今後は女性が活躍していく世の中になる上でも、男性社員の装いは大切になって来ますよね。」
慈友さん「確かに。海外に行くと感じるのが、スーツスタイルの差が日本人との間で大きい事です。欧米のビジネスマンはスーツスタイルに非常に気を遣っていますからね。派手ではないのだけどセンスのいい、ピタッと自分の身体に合ったスーツを着ていますよね。」
富山 「極端に言うと顔を見なかったとしても、スーツを見れば分かってしまうといっても過言ではないくらい。それは非常に残念ですよね。日本は先進国なのに、ドレスファッションは非常に後進国というか..。」
慈友さん「例えば20代の新卒の男子は、最初はお金もないし、いいスーツを着れないと思うんですよ。それが数年経って少し余裕が出来て来た時、初めて勝負服と言えるようなスーツを一着揃えようと思ったら、まずどんな物を選んだらいいでしょうか。」
富山 「間違いなくオススメするのは、やはり紺ですね。紺の無地は最高にカッコ良くもなるし、選び方を間違えるとカッコ悪くもなる色なのですが、とにかくフィッティングにこだわる事で、とても洗練された印象になります。多少ツヤ感のあるものでオーソドックスなデザインのもので、しっかりとした綺麗なシャツとタイを合わせる。紺のソリッドなタイやドットもいいと思います。裏地やボタンも派手なものを使わないで。最初はこんな感じの王道でいいと思うんです。」
慈友さん「お気に入りの一着が出来る事で、スーツにも興味が出て来ますよね。」
富山 「自分にちゃんと合ったものを着ると気持ちいいな、という感じを体感出来ると思うんです。」
慈友さん「もう一着揃えるとしたら?」
富山 「紺で1cm幅のストライプです。」
慈友さん「シンプルだけどかっこいいですよね。」
富山 「商談とか外に営業に出る時にもいいですよね。白シャツかブルーの無地を合わせるのがいいと思います。ある程度歳を重ねるまで避けた方がいいのは、グレー。若い方が着るとやや ” 着られてる感 “ が出てしまうので。ただミドルになってくると一気にカッコ良くなってくるのがグレー。もし若い人が買うならライトグレーがいいと思います。チャコールグレーは一歩間違えると、制服のようにも見えてしまう事がありますからね。」
慈友さん「30代後半〜40代前半くらいの人だったらどうでしょうか?」
富山 「グレーと茶ですね。そのくらいの年齢だと社会的にもワンランク上のステージで勝負するようになってくる年齢。装いにも若い人とは違う変化が必要になってきますよね。ここで茶色が入ってくると一気に大人の魅力が引き出されてくるんですよ。明るすぎないチョコレート色くらいのトーンが、しっくりハマると思います。」
慈友さん「確かにこげ茶のスーツが着れるようになってくると、なかなか上級者ですよね!普段ファッションにあまり気を遣わない男性も、奥様やパートナーと一緒に来店して、プロの視線からのアドバイスをもらいながらデートするのも良さそう。」
富山 「そうですね。お茶とお菓子をお出しして、ゆっくりとリラックスしていただく事を心がけています。その中で、お客様から沢山の情報を伺いながら、距離感を縮めていく事で、より良いオーダースーツを作っていくことが出来ると考えているので、予約制を取っています。世間話をするような感覚で気軽に来てもらえると嬉しいです。」
慈友さん「パルテンツァで一通り揃えるとしても45,000円から作れるのは嬉しいですね。これなら気軽に足を運べますね。」
富山 「初心者からスーツにこだわった上級者まで、世代も超えて楽しめる社交場としても利用してもらいたいと思っています。」

【世界に通用するビジネスマンの着こなしとは?】

慈友さん「よくある話ですが、スーツ姿はカッコいいのだけど普段着になるとイマイチな事ってありませんか?20代はカジュアルでいいかもしれませんが、30代以降ではちょっとジャケットを羽織っていた方がいい時には、どんなものを合わせるのが正解ですか?」
富山 「普段履いているデニムやパンツに合わせたジャケットをオススメしています。そうするとビジネス感が抜けて、オフの時もいいバランスにする事が出来ます。デニムだったら紺のジャケットか、ちょっとお洒落着にするなら黒の無地のジャケットに白シャツで、少しモードなテイストを織り交ぜてもカッコいい。大事なのは変わった柄や色味を選ばなくても、シンプルなもので、自分の身体にしっかり合ったサイズ感を選ぶ事です。カジュアル用のジャケットの丈は、普段よりも1〜2cm短めの物を選ぶと良いです。」
慈友さん「夏と冬で一着は持っていた方がいいですよね。」
富山 「夏なら綿か麻素材、フレスコウールのしゃりしゃりした素材感がいいですね。」
慈友さん「仕事終わりにちょっとしたパーティーに参加する場合にも対応出来る物だと、どんな物がいいでしょうか?」
富山 「遠目から見ると無地に見える位の、チェックのスーツがオススメです。ちょっと光沢のあるような。昼間も目立ちすぎず、華やかさも演出出来ますよ。」
慈友さん「昭和初期の時代は男性が皆、夏場でもパナマ帽にスーツを着ていたり、格好をつけていましたよね。」
富山 「最近は時代の変化もあって、若い男性はモテたいとか、いい車に乗りたいとか思わなくなっているようですよね。お洒落以外にもやりたい事が沢山あって、視点が自分向きと言うか。本来ファッションは周りから見てどう見えるのか、といった視点も重要。少なくともビジネスシーンにおいては、相手のための装いを身につけてもらいたいと思います。一つの名刺でもありますからね。」
慈友さん「女性が一人で来店して、男性のプレゼントを選ぶ時はどのようなアドバイスを?」
富山 「お写真があれば拝見したりもしますよ。女性が自分の感性で選ぶのは意外とハードルが高くて、外してしまう事も多いんです。ネクタイなんかは普段その人がどんな物をして、どんなコーディネートをしているのかを知っておいた上で、ぜひスタッフに相談していただきたいです。」
慈友さん「そうなんですよね。合わないとなかなか使わなくもなってしまうけれど、逆に合う物をもらったら、一気に株も上がるアイテム!自分自身の事をちゃんと見てくれていたんだな、と嬉しくなる。」
富山 「自分と感覚が似てるな!他の部分も似ているのかもしれないな!と思いますよね。」

慈友さん「コーディネートのインスピレーションは、どんなところから得ていますか?」
富山 「イタリア映画の『マルチェロ・マストロヤンニ』やフランスの『イヴ・モンタン』それと『フレッド・アステア』なんかはすごく影響を受けました!かっこいいです。他は、お菓子なんかのパッケージデザインや、お洒落なショッピングバッグなども意外と色の組み合わせの参考になります。」
慈友さん「スーツの時に合わせるコートも、意外と難しかったりしますよね。」
富山 「そうですね。コートはなるべく上着の色に近いものを合わせるといいと思います。黒や紺色で持っておくと外さないです。フィット感もあるので、スーツとトーンを合わせて作るといいですよね。」

ビジネスが多様化し、時代によって変化を遂げるファッション。
ダンディズムの根底に潜む、伝統的なルールとスタイルを体感しながらも、世界に進出する日本のビジネスマンの支えとなるスーツスタイルは日々進化している。
それは人の成長と同じ様に、様々な周りからのアドバイス無くしては成熟出来ないのと同じである様だ。
日本人のスーツスタイルは、まだまだ知らない装いの楽しみ方を提案してくれる。


富山広一
1983年生まれ。新潟県出身。専門学校卒業後アパレル会社にてセールスに従事。モード、トラッドを経験した後、もともと好きだったクラシックファッションの本質を求めミユキライフに入社。「銀座ミユキハンドレッドクラブ」でオーダークロージングを経験。現在はミユキ販売株式会社の商品統括部としてMDとプレスを兼務する傍ら、「サローネ・パルテンツァ」のブランドディレクターを務める。

 

山之上友

男子専科STYLE編集長

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

おすすめのたしなみ