できる紳士のスーツの知識
第5回 プラス1のテクニック
① ネクタイの結び方
「ネクタイを上手に結ぶことは、人生における重要な第一歩である」
こう説いた19世紀末英国の耽美派作家オスカー・ワイルドは、またフォアインハンドと呼ばれるネクタイの結び方の創始者としても知られます。
フォアインハンドとは今でいうプレーンノットのこと。
オスカー・ワイルドと同じく、英国の統計学者トマス・フィンクとヨン・マオの「ネクタイの数学」という論によると、ネクタイの結び方には85通りもの方法が考えられると申します。
これもみな美しい結び目(ノット)を作ろうとしての努力の結果と言えるのですが、ここではそのための基本となる4つの結び方を紹介しておきます。
何事もまずは基本から。この4つのノットをマスターするところから、おしゃれの道もスタートするというものです。
《プレーンノット》
最も基本的で、かつ簡単な結び方。「一重結び」とも言い、大剣を一度回し通すことによって完成します。別にフォアインハンド、ダービーノット、シンプルノットとも呼ばれ、レギュラーノット、シングルノットの表現もあります。レギュラーカラー(普通襟)から小さめの襟型のドレスシャツ向きの結び方で、これひとつで通す人も多く見られます。
《セミウインザーノット》
ハーフウインザーノットの言い方もあるように、プレーンノットとウインザーノットの中間に当たる結び方。ウインザーノットの手間を1回省いたもので、最も応用範囲の広い結び方とされ、ノットが正三角形に表現されるのが大きな特徴となります。これをエスカイアノットと呼ぶことがあるのは、当初アメリカのメンズ雑誌『エスカイア』によって紹介されたところからきています。
《ウインザーノット》
「太結び」と呼ばれる大きなノットができる結び方で、ワイドスプレッドカラーなど大きな襟のシャツ向きとされます。ウインザーという名称は、かのウインザー公(英国王エドワード8世)に因んだものですが、これはウインザー公の発案によるものではなく、公が好んだ結び方からきたものという説が正しいようです。
ダブルウインザーノットとかフルウインザーノットと言うこともありますが、これらはまた「二重太結び」という、より大きなノットを表現する結び方を意味することもあります。
《ダブルノット》
「二重巻き」の意からきたもので、プレーンノットと同じ手順で、大剣をもう1回巻いて長めのノットを作り上げる方法を指します。このためロングポイントカラーなどのシャツに向く結び方とされています。別にビクトリアノットという呼称もあり、優雅な形のひとつとして知られています。
この他にボウノット(蝶結び)やスモールノット、クロスノット、トリニティノットなど多くの種類がありますので、機会があったら試すようにしてみてください。何しろネクタイには85もの結び方があるというのですから……。
《ディンプルの作り方》
ネクタイはきちんと、かつゆるやかに結ぶというのが原則とされます。結び目がだらしなく歪んだり、きつきつ、あるいはゆるゆるというのはNGで、だらしない結び方をしていては笑われますし、第一にルーズな人とみなされるのが落ちです。
ネクタイを美しく結ぶためのポイントのひとつとされるのがディンプルの存在です。
ディンプルとは「えくぼ、小さな窪み」の意で、ノット(結び目)の下部にできる布のへこみのことを指します。別にセンターデント(中央のへこみの意)などとも呼ばれ、これこそがネクタイの上手な結び方の象徴とされるのです。
これを作るには指の力を借りることが必定となります。指で真ん中にひだを作り、両脇を指で押さえながら結び目もいっしょに下へゆっくり引き、小剣を下へ引いて結び目を整えながら上に締め、ディンプルの下にふっくらと張りを持たせて仕上げます(この辺はネット動画を見て確認することをおすすめします)。
ディンプルを作るといってもやり過ぎは禁物で、せいぜい5〜6センチ程度の長さのくぼみにして、控え目に美しく仕上げてください。スカーフみたいに下のほうにまで広がるのはやり過ぎで、キザにしか見えなくなってしまうのです。
《シャツカラーとの相性》
ネクタイの結び方とシャツの襟型は、よきバランスをとらなければなりません。大きなシャツ襟に小さな結び目というのはおかしなものですし、逆に小さなシャツ襟に大きな結び目というのもしっくりきません。
本来、スーツのラペル幅とシャツ襟の長さ、それにネクタイの幅は正比例すべき関係にあり、このすべてが同じくらいの寸法であることが最もバランスがよいとされているのです。
そうしたことをすべて承知してこそ美しいVゾーンが完成するわけですが、ここで少し変わった組み合わせも試してみましょう。
たとえば、シャツにピンホールカラーやタブカラーといった変わり型のものを持ってきて、首元にワンポイントのアクセントを作る方法があります。これにはネクタイをプレーンノットで結び、小さなノットを表現するのが必須となりますが、これによって普通のシャツ襟のシャツとはひと味違うドレッシーな印象ができあがること間違いありません。
② チーフの挿し方
チーフというのはポケットハンカチーフのことで、日本ではこれをポケットチーフとかポケッチーフなどと略して呼んでいるのです。最近ではさらに「ポケチ」などと呼んでいるようですが、これらは本来がすべて和製英語の類い。
アメリカではポケットスクエアというのが一般ですし、英国ではポケットシルク、またショウ・ハンカチーフ、ディスプレイ・ハンカチーフの名でも呼ばれます。
そうしたポケットチーフの飾り方には、次のように基本6通りの方法が用意されています。
《TV(ティーヴィー)フォールド》
胸ポケットの切り口と平行に、1センチほどまっすぐのぞかせる挿し方で、最もビジネス向きとされ、色柄的にも白無地のチーフが原則とされます。1950年代のアメリカで、テレビ関係者の間で流行したことからこの名称で呼ばれるものです。最も無難な方法と言えますが、現在ではたたむ部分を少しずらせて、内側をのぞかせるようにするのがイキとされているようです。
《パフトスタイル》
ポケットチーフの中央をつまんで、端を胸ポケットに挿し込み、ふっくらした山の形を作る飾り方。パフトフォールド、パフアップとも呼ばれ、昔、アイビー調の服装に好んで用いられたところからアイビーフォールドの異称もあります。フォーマルで少しくだけた装いや一般的な服装にもよく用いられ、応用範囲の広い挿し方となります。
《タックトイン》
パフトスタイルとは反対に、端のほうを見せて花びらのように飾る方法です。クラッシュトスタイルとかペタルスタイル、ペタルトリートメント、またチップアップなどとも言い、さらに大きくのぞかせるものをチューリップフォールド、また無造作に4つの山(端)を作るのをフォアポイント(ポイントアップ)などとも呼んでいます。いずれにしても華やかな印象が生まれ、さまざまな場に活用されます。
《トライアングラー》
トライアングルともワンピーク、ワンポイントとも呼ばれ、要は三角形の山をひとつ作る方法です。フォーマル向きの飾り方のひとつとされ、基本的にタキシードやブラックスーツ、ダークスーツに合うとされています。
《ツーピークスタイル》
山の形を2つのぞかせる挿し方。単にツーピークスとかツーピークマナーとも呼ばれ、スリーピークスタイルに準じるフォーマルな方法となります。トライアングラーと同じく、これも白のチーフが原則です。
《スリーピークスタイル》
3つの山を作るもので、最も格調高くクラシックな飾り方とされます。モーニングコートやディレクターズスーツなどフォーマルな服装に用いられ、白のハンカチーフをきちんとたたんでのぞかせるのが原則とされます。スリーピークマナーとも言い、この他に4つの山をきちんと見せるフォアピークスというのも、これと同じ効果を発揮します。
現在ではこうしたものの他に、アルニススタイルなどと呼ばれるパフトとクラッシュトスタイルの混合型、ロールドスタイルという筒状に巻く方法などさまざまな工夫を凝らした飾り方も現れていますので、これまたネット動画などを参照してみてください。
いずれにしても、ポケットチーフの飾り方のポイントは「飾り過ぎるな! 見せ過ぎるな!」というところにあります。特にビジネスの場では控え目にしておくのが無難で、ここではTPOというものがことのほか重視されるのです。迷うくらいなら、むしろノーチーフというほうがいいでしょう。
大きくのぞかせるか、控え目に挿すか、これも実にTPOによるのであって、そのへんをわきまえて振る舞うのが紳士の所業ということになってくるのです。ふんわり飾るか、きちんと見せるか、というのもこうしたことと決して無関係ではないでしょう。
《ポケットチーフとネクタイの合わせ方》
ネクタイとポケットチーフを、同じ生地・色柄で揃えるのはタブーという見方がありますが、まったくNGというわけでもありません。
たとえば、無地のネクタイに同色無地のポケットチーフを合わせるマッチセットは気が利いた組み合わせと見られます。これもTVフォールドで、控え目にさりげなく演出すれば、おかしなことでもなくなるのです。
とにかく飾り過ぎを避けるのが、ここでのポイントであって、さらにラペルピンなどとの併用もいかがなものかと思われます。
ごく常識的にいうなら、柄もののネクタイに用いられている色のひとつを、無地のポケットチーフに持ってくる(その逆パターンも可)、また無地のネクタイとグラデーション(階調)を形作る色のポケットチーフを合わせる「ずらしテク」といった方法を守るべきでしょう。
③ カフス 袖口の装い
小さなところに凝る、ひと工夫加えるおしゃれと言えば、袖口の装いも見のがすことができません。そこで、まずはシャツのカフスについて考えてみましょう。
シャツカフスの形には次のものがあります。
《シングルカフス》
一重仕立てになった最も普通の形で、バレルカフス(樽形の袖口の意)とも呼ばれます。
《ダブルカフス》
二重仕立てになった折り返し型のもので、カフリンクス(カフスボタン)で留める式のドレッシーかつクラシックなデザインのものです。コンチネンタルカフス、ターンバックカフス、ターンナップカフス、ターンオーバーカフスなどとも呼ばれ、非常におしゃれな表情が生まれます。こうしたものをリンクカフス(カフリンクスで留める袖口)とも総称しています。
《コンバーティブルカフス》
シングル、ダブル両用型のシャツカフスで、ボタン留めとともに、カフリンクスを使うことも可能です。ツーウエイカフスとも言いますが、最近では中途半端な性格が災いしてか、あまり見ることが少なくなりました。
《ミラノカフス》
ダブルに見せかけて、実はシングルカフスというきわめて巧妙なデザインのカフスです。イタリアはミラノ風というところからのネーミングで、これもダブルカフスと同じくおしゃれ向きの形となるでしょう。
その他、シャツカフスのデザインには、先端が角張ったスクエアカフ、斜めに切り取ったカッタウエイカフ、小丸から大丸まで丸くカットしたラウンドカットなど10種類前後があり、袖口周りの太さを調節する2ボタン付きのアジャスタブルカフなども見られます。
どのデザインを選ぶかは、まったくの気分によるのですが、ここではやはりビジネスの場においてはボタン留めのシングルカフスにとどめ、重役などではない限り、ダブルカフスのシャツを用いるのは避けることでしょう。
ビジネス時にブレスレットを用いるのはもっての他で、手首には腕時計のみでよいのです。
もちろん、プライベートな場となれば、カフリンクスを飾ろうと、ブレスレットの「華美な演出」であろうと、まるで問題ではなくなるのですが……。
《スーツカフ》
ついでながら、スーツの袖口についても若干うんちくを傾けておきましょう。
これには袖口に付けられたボタン(カフボタン)が実際に開閉できるタイプと、見せかけだけで実際には開閉できないものとのふたつの形があります。
前者を「本開き(ほんあき)」とか「本切羽(ほんせっぱ)」と称し、英語でドクタースタイル、あるいはリムーバブルカフス(取り外しできるの意)、リムーバブルスタイル、またリアル・カフホールズとも言います。医者が袖口をまくり上げて治療に当たったという説からきたように、まことに実用的でかつクラシックなスタイルというのが、このデザインの特徴です。
一方、後者はボタンをただ縫い付けただけのもので、ボタンホールも閉じられています。ここから「開き見せ(あきみせ)」の言葉が生まれ、英語ではイミテーションカフスと呼ばれるようになりました。
一般的なスーツでは圧倒的にこのイミテーションカフスが多く、最近ではここに飾るボタンも「キッスボタン」と言って、重なって付けられるデザインに高級感があるとされているようです。
またスーツの袖口ボタンの数は、多いほどフォーマルとされていることも(逆にスーツの前ボタンは少なくなるほどフォーマルに)覚えておくようにしたいものです。
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