できる紳士のスーツの知識
第2回 ワードローブ 後編(柄物スーツ)、スーツ生地の知識と選び方
① 柄物スーツ=ビジネス編
パターンド・スーツ、すなわち柄物のスーツはソリッド(無地)・スーツよりも洒落た印象が強く、ちょっと遊びっぽい雰囲気があるのも特徴となります。季節や着装シーンによっては、こうした柄物スーツも着こなせるとお洒落の幅が広がることでしょう。
たとえば、ビジネス用には各種のストライプ・スーツがあり、とくにピンストライプやペンシルストライプのものはビジネススーツの定番となっ ています。この他にグレンチェック(プリンス・オブ・ウェールズ)やハウンドトゥース(千鳥格子)、グラフチェックなどの格子柄のものもあり、最近ではこ うした柄にウインドーペイン(西洋窓枠格子)を重ねたオーバーチェック(チェック・オン・チェック)のものや、単にウインドーペインだけの柄物スーツにも 人気が出てきました。 他にヘリンボーン(杉綾柄)やシャークスキン(鮫肌柄)、バーズアイ(鳥の目柄)といった変わったものもありますので、覚えておいてください。
ストライプ柄で、とくにネイビーやグレー系のスーツは、ほとんど無地ものと同じように扱うことができますので、ここでは最近人気のチェック柄に焦点を当てて、そのビジネス向きのコーディネートを考えてみましょう。
ここで大事なポイントは、まず、あまり目立たない大人しめのチェック柄スーツを選ぶことです。そして、それを品格を感じさせるVゾーンでもって、ビジネスシーンにふさわしい着こなしにすることです。すなわち、お洒落も教養のあらわれのひとつとなるのです。
Vゾーンの構成の原則は、どこかに必ず無地の部分(緩衝地帯)を残すところにあります。ふつうはネクタイに柄物を持ってきて、シャツを無地にしますが、シャツを柄物にして無地のネクタイを合わせるという方法もあります。
このような原則的着こなしを嫌う場合は、三者ともに柄を用いる方法があり、これも最近ではタブー視されることが少なくなってきました。が、この場合には柄の関係に大中小をつけるのが鉄則となります。
たとえば、小柄のスーツに大柄のネクタイを合わせ、中柄のシャツで中和させる。つまり、主役と従者の関係をはっきりさせておくのが大事なポイントとなるのです。
配色の面では、スーツの柄に用いられている色のひとつをネクタイやシャツに持ってくるというのが、これまた鉄則とされます。たとえば、グ レー系のグレンチェックにグリーンのウインドーペインがかかったスーツだったら、グリーンの入ったシャツやネクタイにすると、非常にうまくコーディネート が完成するのです。スーツの色を徹底的に拾ってインナーアイテムにマッチさせる、これはもはや常識的な配色術と言ってよいでしょう。
このテクニックを用いると、たとえ三者の柄がバラバラでも色調感が統一されて、うまくいくことになります。
一方、シューズはオーソドックスな革靴のほか、スエードシューズも軽快感が生まれて面白い効果が生まれることでしょう。
② 柄物スーツ=プライベート編
柄物スーツ、とりわけチェック柄のそれはプライベート向きに重宝します。それが大柄で派手めのものであれば、もはや言うことはありません。
ここでのポイントは、とにかくオジさんぽくならないようにということに尽きます。そこでおすすめしたいのが、ミックスマッチという着こなし手法。
前回でもドレスアップやドレスダウン、それとドレスマッチとともに紹介しておきましたが、これは動的な印象を生み出す着こなし術として注目されている着こなし方のひとつなのです。
ミックスマッチ、あるいはミックス&マッチなどとも呼ばれるこれは、すなわち、色・柄・素材の三つの要素のうちで、何かを違え (ミックス)、何かで合わせる(マッチ)ということを表しています。これによって着こなしをダイナミックに盛り上げようというわけで、ドレスマッチの静的 な印象とは異なった雰囲気を作り上げるのです。つまり、この柄物スーツの着こなしにはうってつけのテクニックとなるに間違いありません。その例を次に示し てみましょう。
◦色でミックス、柄でマッチ
◦柄でミックス、色でマッチ
◦素材でミックス、柄でマッチ
◦色でミックス、素材でマッチ
◦柄でミックス、素材でマッチ
◦素材でミックス、色でマッチ
たとえば、ここではスーツは柄で固定させるとしておいて、インナーアイテムにも同じような柄を持ってくれば、色が違っていても無理なくマッ チすることになります。柄が違っていても、色で合わせれば違和感がなくなるというのもお分かりになることでしょう。これらは柄物スーツに限らず、その他の 着こなしにも応用できますので、色々と試してみてください。
インナーアイテムに及べば、冬場なら、ここでもタートルネック系のニットウエアが大活躍してくれます。白、オフ白、ベージュ、キャメルなど 茶系無地のタートルネックセーターやハイネックのニットシャツ、またチェック柄のシャツとニットベストを同系色で合わせるのもいいし、ポロシャツやカー ディガンもうまく活用できると、素敵なコーディネーションが生まれます。
配色では、ブラウンとパープルの相性のよさに注目。イタリアで評判の「アズーロ・エ・マローネ(青と茶)」の組み合わせにも挑戦してみてください。ベージュのスーツにパステルブルーのシャツ、濃茶のネクタイなんてコーディネートはその典型となります。
靴はここでも茶系のスエードシューズが必須で、サイドゴアブーツやモカシン型のスリップオンも大いに活用できます。
ポケットチーフもふつうの着こなしでは不要ですが、ここではプリント柄のポケットチーフを大胆に見せて、着こなしのアクセントづけとすることができます。
とにかく、着こなしの王道、本筋というものを守りながら、ちょっと遊び心をのぞかせる、そんな大人の紳士ならではの粋なカッコよさを、今の若者たちに教えてやろうじゃありませんか。
スーツ生地の知識と選び方
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① スーツ生地の知識
コートの生地をオーバーコーティング、ズボンの生地をトラウザリングと言うように、スーツ用のそれはスーティングと総称されます。
スーティングにはさまざまな種類がありますが、とりわけてビジネススーツに適するのが、ウーステッドと呼ばれる生地です。
およそ5センチ以上と毛足の長いウール原毛をすいて作られる長くて細い糸を梳毛糸(ウーステッドヤーン)と言い、これを織り上げた梳毛地をウーステッド・ファブリックと呼ぶのです。
このウーステッド生地は、滑らかな感触があり、織目がはっきり表れて、腰が強く張りがあり、シワになりにくいなど数々の特長を持っています。これがビジネススーツにことのほか合う生地とされる最大の理由となっているのです。
なかでも表面の毛羽をすっきりと切り取ったクリアカット・ウーステッドは、ビジネススーツを代表する生地で、これはまた織りの変化によってサージやギャバジン、ベネシャン、カルゼなど色々な種類の生地も生まれます。
その他、毛羽を残したミルドウーステッドやサキソニー、またグレーフランネルで知られるフラノ地、あるいは紡毛(ウールン)系のツイードといったスーツ生地もありますが、ここではビジネススーツ向きのウーステッドにとどめておきましょう。
「背広はサージに始まりサージに終わる」という格言とともに「背広は無地に始まり無地に終わる」というお洒落箴言もあるように、スーツの柄 もまずはソリッド(無地)であることが原則とされます。それもビジネススーツには濃紺や濃灰色のようにダークカラーであることが求められ、それでこそビジ ネススーツがダークスーツと呼ばれる所以となっているのです。
また純然たる無地ではなく、遠目には一見無地に見えるミックス調のモックソリッドと呼ばれるタイプも、この範疇にあり、たとえば杢糸使いの 霜降り調と呼ばれるものがその代表とされています。ツイード生地に見るヘザーミクスチャーもこのひとつで、こうしたものをサーフェイス・インタレスト(表 面効果)素材とも呼んでいます。
柄付きのスーツ生地は、ストライプ地とチェック地に代表されますが、これらはあまり派手なものを用いてはいけません。柄が目立つようだと、どうしても遊び過ぎという印象に陥ってしまうのです。
ストライプではヘアラインストライプからピンストライプ、ペンシルストライプ、チョークストライプ、あるいはオルタネートストライプ(交互縞)くらいにとどめておくことです。
チェック(格子柄)も同様で、ウインドーペイン、スモールチェック、シャドーチェックくらいにとどめて、せいぜいグレンチェックやオーバーチェックを加え る程度のことでしょう。もちろんプライベート用のスーツなら、どんな柄を用いようと文句を言われる筋合いはありますまい。
② スーツ生地の選び方
よいスーツの条件は、何よりも生地がよいことです。よい生地あってのよき仕立てというわけで、高級と呼ばれるスーツにとっては、これこそが一番に求められることになります。
高価格であることが必ずしもよいスーツであるとは限らず、とにかく現物の生地に触れて、その質感のよさを確かめるようにしてください。
フルオーダーであれパターンオーダーであれ、仕立て屋に出向いたら、まずバンチ(生地見本帳)から生地を探します。現物の生地があれば、生地そのものを確かめ、許されるなら生地をまとって大きな鏡に映し、できあがりのイメージを思い浮かべてみるのも一法です。
既製服の場合にも生地の質感を確かめるのは重要なことで、これがぺらぺらしていたり、カサカサしているようでは、けっしてよきスーツとは申せません。安物の素材を仕立ての力でカバーするというのは、土台無理があるのです。
生地の品質表示を確かめ、分からない点はテーラーなど店の人と相談することです。何と言っても彼らはその道のプロなのですから……。
次に自分自身のTPOに合わせて、スーツ生地を選ぶということも重要なポイントとなります。ビジネス用なのかプライベート用なのか? 遊び 着なのかフォーマルウエア用途なのか? また季節感に応じての選択ということもあるでしょう。それによって色、柄、素材の選択が自ずと決まってくるので す。
ビジネススーツで言えば、ダークカラー無地のウーステッドということになるでしょうし、フォーマル向きならシルク・シャンタンや黒無地のカ シドス、タキシードクロス、ドレスウーステッド、夏向きのスーツにはトロピカルやトニック、ポーラー、またウールではありませんが、モヘア(アンゴラ山 羊)、リネン(亜麻)、コードレーン(綿/レーヨン)といった生地もあります。
プライベート用ならまったく自由で、「真っ赤」でも「どピンク」でも、お好きな生地をどうぞ! 当方はいっさい関知いたしません。
よい品質のものを選ぶという点に関しては、舶来物(海外品)か国産品かということもよく話題に上りますが、よほどのものを除いて彼我の差はそんなにありません。
たしかにスキャバル、ドーメル、フィンテックス、ロロ・ピアーナ、エルメネジルド・ゼニアなどの海外ブランドには素晴らしいものがありますが、日本のミユキ、ダイドー、チョーダイ、ミツボシといったブランドも世界の一流品として名が通っているのです。
ここではむしろスーパーウールという表現に注目してください。
スーパーウールとは上質ウールであることを示す世界的な基準で、軽量で極細の羊毛糸を使ったウール地であることを証明しているのです。
これは繊度(繊維の細さ)が19.5ミクロンの「スーパー80」から13.0ミクロンの「スーパー210」まで14段階に区分され、その数が大きいほど上質で高級ということになっています。
ちなみに獣毛高級素材のカシミアは14~16ミクロンで、これは「スーパー150」から「スーパー190」に相当します。
こうしたことを目安に選択するのも、ひとつの方法となることでしょう。
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誕生から時を経て、今改めて本当に日本人にフィットするスーツとは・・・
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