Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士が知るべきブランドストーリー

<後編>素材・製作工程・ボルサリーノを愛した著名人

■自社工場で一貫生産
●7週間かけてようやく完成する
1986年にアレッサンドリア郊外に移転した工場では昔と変わらない工程で帽子が作られている。一つの帽子を作るのに40以上の工程を要するのだが、なかには高度な技術を要し72工程にも及ぶものもある。それぞれの工程を熟練した職人が担当し約7週間かけて帽子が完成するのである。

現在、帽子を作る工場の多くは帽子の原型(帽体)を仕入れてから型入れを行って仕上げる工場がほとんど。つまり原毛から帽体までの工程を他社に任せている工場が多いのである。それに対しボルサリーノの工場では原毛の収穫からリボン付けなどの最終仕上げまで一貫して自社で行っている。まさに稀有な工場なのである。

こういった素材から製品まで自社で一貫生産するブランド自体が少ない。強いてあげれば、アパレルでは自ら服地工場を持つエルメネジルド ゼニアくらいだろう。ゼニアもまた原毛の選択から仕上げまでの全工程を行う稀有なブランドなのである。

ボルサリーノK01

1986年に移転された現在の本社工場。


●厳選された素材のみを使用する

さて、ボルサリーノのフェルト帽に使われる素材といえば昔からラビットファー(兎の毛)が有名だ。他にもビーバーやグアナコ、ビキューナなどの高級素材のみが使われている。ビーバーは、フェルトハットの歴史を代表する貴重な素材であるビーバーの毛を100%使用し、しっとりとつややかな輝きを持ち、そのなめらかな感触は極上の喜びを与えてくれる。軽量で耐久性、防水性にも優れている。
グアナコは南米アンデス地域に生息するラクダ科の哺乳類で、柔らかな毛による極上の風合いが特長。
ビキューナはビクーニャとも呼ばれるグアナコと同じラクダ科の哺乳類である。“ 繊維の宝石 ”  とも呼ばれ、産毛の太さは10~14ミクロンと細く、しっとりと柔らかな感触が魅力だ。テーラーでは最高級服地としても有名だ。とうぜん価格も驚くほど高額だ。ボルサリーノではグアナコもビキューナも、ともにラビットファーとブレンドしてフェルトにしている。

 

■ 春夏にふさわしいパナマ帽
●パナマ帽は20世紀初めから生産開始
ボルサリーノは映画「ボルサリーノ」で主人公がかぶっていたこともあり、フェルト帽のイメージが先行しているが、春から夏にかけてはやはり  “ パナマ帽 ”  だろう。意外に思われるかもしれないが20世紀初頭から手掛けているという。素材はエクアドル原産の厳選されたトキヤ草を使用し、茎と葉は丹念に洗浄、乾燥を経て色抜きされ、細長く繊維状になったものを編み込んで作られるのだ。
クオリティによって「キート」「ファイン」「エクストラファイン」「モンテクリスティ」にクラス分けされる。「モンテクリスティ」の最高級ライン「モンテクリスティ エクストラファイン」ともなると、帽体に編み上げるのに半年ほどかかるという。希少性が高いため価格にも反映されている。見ためは編み目がとても細かいのが特長だ。

エクアドル現地の熟練した職人により編み込まれたパナマ帽の帽体は、イタリアのボルサリーノの工場へ輸出され、フェルト帽と同じ型を使って職人の手により丁寧に時間をかけて仕上げられる。

ボルサリーノ・パナマを代表するモデル “パナマ エキストラ ファイン ” フェルトハット同様に、フロント・ピンチ、センタークリースのボルサリーノスタイルに仕上げられている。

ボルサリーノ・パナマを代表するモデル   “ パナマ エキストラ ファイン ”
フェルトハット同様に、フロント・ピンチ、センタークリースのボルサリーノスタイルに仕上げられている。


●パナマもボルサリーノスタイルが主流

形はフェルト帽同様にセンタークリースとフロントピンチ(クラウン前方のつまみ部分のこと)のモデルが主流だが、ポークパイやオプティモといった変わり種も手掛けている。前者はクラウンの天井部分がポークパイの形状に似ていることから命名され、後者はクラウン中央に1本のスジ(織り目)が入り、イギリス人好みのパナマとして知られている。日本では春夏はパナマ帽、秋冬はフェルト帽を楽しんでもらいたい。

 

■フェルト帽の製作工程
●原毛の収穫から行う稀有なブランド
ここで、フェルト帽の製作工程を、順を追って説明しよう。まず、厳選された上質な原毛(ラビットファーなど)を選別し、原毛を機械に通して数種類の兎毛をブレンドする。創業当時から使われている釣鐘状の型に兎毛と水を一緒に吹き付けて、水分をバキュームで吸い取り帽子の原型である帽体を作っていくのだ。その後、帽体を何度も縮絨させて仕上げ、ブリムの形を作っていくのだが、この工程から始める帽子メーカーもじつは多い。ボルサリーノは原毛から取り扱っているのである。

ボルサリーノ工場内で今も現役として活躍する、原毛選別機。

ボルサリーノ工場内で今も現役として活躍する、原毛選別機。

 

●すべて熟練の職人の手作業
次に仕上がった帽体を独自の製法で染色、乾燥させる。帽体を粗型に入れ成形しながら滑らかな毛並みに仕上げていくのだ。ここまでくると帽子の形になっている。そして表面の余分な毛羽をバーナーで焼き取る。研磨を終えた帽体を型入れしてブリムをカットし、なめし終えたレザーにアイロンをあてスベリ(内側に付けるテープ)を仕上げ、付属のリボン、裏地を取り付けて完成だ。最後に手作業で丁寧に研磨して仕上げる。そして、ようやく出荷するのである。

文章にすると機械が勝手にやってくれる簡単な流れ作業のようだが、1個作るのに40以上の工程があり、熟練の職人による手作業を要するものばかりなのだ。現在でも職人たちは創業者ジュゼッペ・ボルサリーノのフィロソフィ  “ 効率の為に、いかなる品質を犠牲にすることもできない ”  をしっかり守っているのである。

ボルサリーノK04  ボルサリーノK05
1950年代の機械と職人による手作業

ボルサリーノK06  ボルサリーノK07
現在の機械と手作業
機械とともに製法技術も変わることなく、受け継がれています。

 

■ 多くの著名人に愛されてきたボルサリーノ
●デザインと色のバリエーションが豊富
このように原毛の選択や生産においては伝統を重んじるボルサリーノだが、帽子のデザインやカラーバリエーションに関しては柔軟性があり種類も豊富なのだ。古さをまったく感じさせないセンスも魅力のひとつと言ってもいい。

●作曲家からハリウッドスターまで愛用
歴史のあるブランドだけに著名人の愛用者も多く、イタリアでは「椿姫」で有名なオペラ作曲家ベルディや詩人にしてダンディなダヌンツィオ。アメリカでは往年のハリウッドスター、ハンフリー・ボガートに愛されてきた。最近ではジョニー・デップも愛用者の一人だ。また、イタリア・インディペンデントの代表でありファッションリーダーとして常に注目されているラポ・エルカンも特注している。

 

■ 年齢に関係なく愛されるボルサリーノ
●ピッティ・ウォモにも出展
これまでは高額なため、どうしても年配の紳士がスーツに合わせてかぶる高級な帽子というイメージがあったが、この10年ほど若い世代のカジュアルなファッションアイテムとして定着、注目されているのだ。とくにデザインが一新したというわけではないが、年に2回イタリアのフィレンツェで開催されるピッティ・ウォモに出展したり、白を基調にした入りやすいモダンな店舗なども若い世代に受け入れられている理由だろう。

●カジュアルファッションのアイテムに!
前述したようにフェルト帽の場合はカラーバリエーションの展開がとにかく豊富で、ファッションアイテムとしてコーディネイトする楽しみが詰まっているのだ。濃茶と黒しかない保守的なイギリスのフェルト帽とは根本的に違うから面白い。男女を問わず、年齢に関係なく、ボルサリーノの帽子が今、愛されているのである。

ボルサリーノ

1857 年から 150 年間、今日でも創業時と同様の製法がかたくなに守られている
世界最高峰イタリア帽子ブランド、ボルサリーノ。
「効率の為に、いかなる品質を犠牲にすることもできない。
その為に、あえて伝統的な機械、道具を使い続ける」こうしたこだわりが
永遠のボルサリーノの精神であり ” ボルサリーノ クラフトマンシップ “。

http://www.borsalino-japan.com

直営店舗
日本橋髙島屋店、銀座三越店、大丸東京店、大丸心斎橋店、大丸福岡天神店

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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