紳士が知るべきブランドストーリー
Vol.1 英国ラグジュアリー・サルーンの最高峰 「ミュルザンヌ」
■クラフツマンシップが現代に息づく
ロンドンから北西に向かって、4 時間ほど走ると、ベントレーの本社があるク ルーにたどり着く。
美しい田園地帯が広がるが、実はイギリスの産業革命にお いて重要な役割を果たした鉄道の町としても知られている。
英国を代表するラグジュアリー・スポーツカー・メーカーが、この地に工場を開いたのは 1938 年のことだ。
約 65 エーカーにおよぶ広大な敷地には、ファイナル・アッセンブリ ー・ラインはもちろん、心臓部となるエンジンの組み立てや、レザーやウッド を組上げるワークショップが揃う。
敷地内には、別注に応じる「マリナー」の工房も備わる。
その昔、自動車が限られた人のためのものだった時代に、ベントレーがシャシーを提供し、コーチビルダーがボディを担当した。
マリナーは、そうした時代にベントレーの架装を得意とし、美しいボディワークで定評があった。
往時を偲ばせるレンガ作りの社屋は趣があると同時に、ホワイトとガラスを基 調にしたファサードによってモダーンな雰囲気を醸している。
1998 年に約 5 億 ポンドもの巨費を投じて現代的に蘇ったクルー工場に一歩足を踏み入れると、 そこここで伝統と近代化が融合する様子が見られる。
1919 年の創業時から続く伝統的なクラフツマンシップに則ってモノ作りを進めていく一方で、内外装の 選択肢の多さに対応するために、最新の管理システムが導入されている。
革やウッドのワークショップでは、ほとんどが人の手で作業が進められている。
人の目で厳選した革のなかから品質の高い部分を選んで、最新のレーザーカッ ターを用いてカットされる。
次に熟練の職人によってシートやトリムが縫い上 げられていく。
スタンダードなステアリング・ホイールでも 17 時間を要するが、 シートにクロスステッチを加えるなら、さらに 37 時間もの手間ひまがかかる。
厳選された革のなかから品質の高い部分だけを選んでカットし、熟練の職人に よってシートやトリムが縫い上げられていく。
ウォルナットやバーズアイメイプルといった最高品質のウッドは非常に数量が限られているが、ここのシェルフには充実したストックがなされており、じ っくりと乾燥されている。
まるで、匠の手によって美しい木目が活かされる日 を今か今かと待ちわびているかのようだ。
熟練したクラフツマンが美しい左右 対称の木目を選んで合わせていく”ブックマッチ”と呼ばれる作業は、見てい てもうっとりするほどだ。
滑らかなカーブを描くトリムやパネルのデザインを 強調するように、美しい象嵌が施されていく。
右足にグッと力を入れると、ツインターボ付き 6.75LV8 ユニットから 512ps /1020Nm もの強大なパワーが後輪にデリバリーされる。
残念ながら、日本の 道で最高速 296km/h に達する動力性能を試すことはできないが、8 速 AT の躾 がよく、どんな速度域からでも圧倒的な加速を生み出してくれる。
望みの速度 域に達したのち、クルージングに転じれば、100 分の数秒で半分の 4 気筒を休止して低燃費運転に徹する。
4 種のドライブ・モードから「コンフォート」を選 べば、賢くプログラミングされた 8 速 AT に変速をまかせて快適な走りを味合う のも、ラグジュアリー・サルーンならではの走らせ方である。
もちろん、ひとたびアクセルを踏み込めば、0−100km/h 加速を 5.3 秒でこなす俊足ぶりを発揮する。
「スポーツ」にモードを切り替えて、パドルシフト付き 8 速 AT を駆使して積極的に操れば、瞬時に欲するだけのトルクがデリバリーされて、超弩級のスペックを持つスポーツ・サルーンならではの世界を垣間見せてくれる。
実際、英国のカントリー・ロードのような大きなカーブを駆け抜け る時、5m を優に超えるボディサイズからは想像つかないほど、キビキビとした身のこなしに驚かされる。
新開発の連続可変ダンピングコントロールを備えるエアサスペンションが荒れた路面からの入力をしなやかにいなしてくれることも、特筆すべきだろう。
■最強版、「ミュルザンヌ・スピード」 正直なところ、”スタンダード”なミュルザンヌでも充分に満足できると思うのだが、さらに上を望む人のために強化版たる「ミュルザンヌ・スピード」も 用意される。
排気量は 6.75L のままだが、出力は 537ps/1100Nm までスープアップされており、2710kg もの重量級ボディを停止から 100km/h までをわず か 4.9 秒まで加速する。
しかも、同時に 13%もの低燃費化に成功している。
内外装にも、専用の仕様が奢られるのは言うまでもないだろう。ダーク仕上げ のフロントグリルと 21 インチ・アロイホイールによって迫力を増したエクステリアは、見るものを圧倒する。