Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のための恋する日本酒

Issue No.7 酒ツウはヴィンテージ好き!

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■「古酒」とは何か?

お酒の世界で ” ヴィンテージ ” というと、だいたい思い浮かべるのはワインかウィスキーではないだろうか?
酒好きなら一度はこのワードに心惹かれることがあるはず。
フレッシュ感が肝みたいなイメージが強い日本酒においては、古酒はあまり話題に上がらないことが多い。
しかし日本酒のヴィンテージヒストリーは鎌倉時代に遡り、珍重されてきている。
しぼりたての新酒が出来ると前年度のお酒は全部「古酒」と呼ばれるが、一般的には2~3年、更に10年とかそれ以上熟成されたお酒のことを指す。
例えば、平成25酒造年度(=25BY)の表記がされているものだったら、平成24酒造年度(=24BY)以前に造られたものすべてが「古酒」になる。
ワインなどと同じように熟成させることで、まろやかな独特の風味を増してくるのだ。

歴史を辿ってみると「日本酒は古酒に限る!」といった風潮があったことは、あまり知られていないのかもしれない。
また、現在では「復古酒」と言って、昔の仕込み方法で古酒を再現したものもある。
各地方に伝わる昔からの仕込み方法や、文献などに記載されている手法を再現していて、甘みや旨みが強いので、調味料として使われることも多いのである。

■高級寿酒「九年酒」

鎌倉時代、日蓮上様のお手紙の中に「人の血を絞れるが如き古酒…」という記述がある。
坂口謹一郎先生の御著書の中に書かれていて、皆ご存じのことであろう。
九年酒」と呼ばれる長期熟成酒は、大変高貴なお酒として流通していて、江戸時代にはすでに一般的に販売もされていた。
1、3、5、9といった奇数はとても縁起の良い数字(陽数)として崇められ、その中でも一番大きな数字である9は一番おめでたい数字とされ、「江戸買物独案内」(江戸時代のチラシのようなもの)には、清酒の上物は「九年酒」であり、この頃の安いお酒は一升あたり現在の9000円程度だったのに対して、「九年酒」は約2〜3倍の値段で出回っていたそうだ。

現在「九年酒」は皇室の儀式で使われているが、「黒豆を酒と味醂で煮た煮汁を、半分程度に煮詰めたもの」と報道されている。
これは、明治維新に入って政府内で日本酒の有害論が出され、この段階で飛鳥時代から続いていた、宮廷内での酒の製造免許が取上げられたためだ。
皇族の健康維持・管理において外国からの知識などが入り、「洋酒擁護論」が展開されたことがあり、製造できなくなってしまった「九年酒」は熟成したお酒の独特の色味や甘みを再現するために、現在の黒豆の煮汁の形に姿を変えて受け継がれている。

■古酒が姿を消した本当の理由

明治初期まで一般的に楽しまれていたのに、現在もあまり姿を見せなくなった古酒。
その背景には、明治政府が発令した酒税法の影響が尾を引いている。
税収難に苦しんでいた明治政府は、主要な財源としての酒税に目をつけ、重税を課していく。その一つが「造石税」で、これは日本酒をしぼった瞬間に課税対象になるという、非常に過酷な税制であった。
「造石税」は酒蔵で貯蔵タンクに蓄えられた状態が対象になっていたが、1石あたりいくら、と同率。
戦後廃止されたが、一これによって蔵元のほとんどが古酒を作らなくなってしまったのだ。

しかし、物資が不足していた当時、水や醸造アルコールで薄めたものが増え、本来100本分の原酒が200〜300本になって販売されるケースが増えてから、出荷量に対して課税する「庫石税」が主流になった。
庫石税」はビールと焼酎以外に1〜4級など分類され、それぞれに違う税率が課せられる級別制度であり、この後、平成の世まで約50年も続いた。

このように見てみると、戦中から戦後の酒税制度は、戦時期に作られた骨格が影響している、とも考えられるのだ。

■行きつけ確定!オススメの古酒専門店を発見

日本酒に古酒が存在することすらあまり認知されていない現代の日本において、その熟成された味わいを口にする機会はなかなか少ないかもしれない。
私自身、唎酒師の資格取得のための勉強中に初めて古酒を口にしたのだが、
今まで飲んだことないに味に、「なにこれ!?日本酒なの?!」と驚きを隠せなかった。
ヴィンテージワイン大好きな私にとって、歴史を感じさせる深い深い濃厚な厚みと香り、それは未知の扉を開けてしまったような心地を体感させてくれるものだった。
いつもの馴染みのお酒ではない、古くて新しいお酒に出逢った時の優越感は、自分だけのものにしておきたいって、いつも思う。

常にたくさんの古酒をお店にキープすることは非常に難しいことだが、常に100種類ほどの古酒を楽しめるというお店を見つけた。
港区高輪にある『酒茶論(シュサロン)』は、今静かに酒好きの中でブームになりつつある「古酒」の復権を目指すべく、全国の酒蔵40社とともに運営しているお店である。
1970年代から2010年代のものを中心にラインナップされている古酒は、嬉しいことに1杯から注文することができる。
少しずつ色々な種類を楽しみたい!という人にはもってこい。
古いものは、なんと1950年代のものまであるというから驚きである。
古酒は熟成度が増しているものほど色が付いているものが多く、色の薄いものから順に飲み進めていくと味わいが分かりやすいと思う。

■自家製古酒の作り方

またお店だけでなく、新酒を買ってきて自宅で寝かせて自家製古酒を作るのもいい。
この場合はできるだけ温度変化の少ないところで、新聞紙などに包み光を遮断して保管することが重要。
これは古酒だけでなく、普通の日本酒を保管する際にも大事なポイントである。
古酒の味わいをしっかり深みのあるものにしたい場合は純米酒、透明感の感じられるものにしたい場合は吟醸酒か大吟醸を選ぶと良い。
注意が必要なのは、生酒や生詰めは劣化しやすく不向きであるということだ。
今から寝かせれば2020年には熟成古酒になっているので、ぜひお試しあれ!

■作り手との歴史を刻む古酒

古酒はそれぞれの背景を持っている。
人間と同じように時代を通過して、出会った作り手と過ごした時間を経て、その間にしかわからない触れ方で愛で合う関係が存在する。
共依存的に過ごした二人のことは、二人にしかわからない。
それはきっと、別れた恋人のようにお互いの産物であり、自分自身の一部である。
古酒をたしなむことは、歴史を体感する夜を過ごすことなのかもしれない。
その色合いよりも、更に深さを放っているこの古酒を味わいながら、私はそう思ったのだ。

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酒茶論(シュサロン)
東京都港区高輪4-10-18 ウィング高輪WEST2F
TEL:03-5499-4455

野口 万紀子 /  Makiko Noguchi
株式会社  5 TOKYO 代表取締役
クリエイティブディレクター


【取得資格】
SSI認定 唎酒師                   (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター             (認定番号 No.9338 )
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.313766 )
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
食品衛生責任者


【プロフィール】
東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業。モデル、芸能活動後、外資系アパレルブランド、融資コンサル会社等での経験を経て、株式会社 5TOKYOを設立。『日本酒 × ファッション・アート』をテーマに、5感で感じる日本酒の楽しみ方を提案。ソーシャルメディア「SAKE美人」「HANA美人」キュレーター。「和酒フェス公認」 和酒アンバサダー。

【URL】
 5TOKYO
 http://5-tokyo.com
 SAKE美人
 http://sakebijin.com/author/bijin30/
 HANA美人
 http://hanabijin.flowers/archives/author/hana20


【SNS】
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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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