紳士のための恋する日本酒
Issue No.2 ” 磨かない ”という美学
色気というものの実態は深い。
若くてそれだけで美しいときにはそこに無条件に価値が生まれてるし、全てに抜かりの無い完全なセクシャリティーに惹かれることが多いのかもしれないけど、本質的な部分で色気とは ”アンバランス” な部位” があることではないか?
男性だってきっと、” ローレンを着た真面目そうに見える真面目な女 ” や ” ルブタンを履いたセクシーそうに見えるセクシーな女 ” より、
” シンプルなノームコアスタイルなのに、自分の為にオーバドゥの下着を選べる様な女 ” の方がデート後に家に帰ってからも、この人の事が気になって仕方なくなってしまうのではないか?
まぁ私自身がノームコアでないことは置いておいて、、
要するに少しだけ黄金比が崩れてる様が色っぽく、そのものの実態が垣間見えるようで見る者の好奇心をくすぐるってことである。
日本酒で例えるなら、磨きに磨きを重ねキレッキレでとっても精米歩合の低い純米大吟醸が、完璧な日本酒の極み!!
そんな風に思いこんでいた私は、今までの感覚を覆えす新たな日本酒のジャンルに夢中。
それは、一見とてもアンバランスのようで、実はしっかり完成された味わいの..
『 磨かないお米の日本酒(精米歩合の高い日本酒)』である。
■今までの日本酒の ” 常識 ” とは?
日本酒に使われるお米は食用のお米とは異なり、大粒でたんぱく質が多く「心白」と呼ばれる白い部分がしっかりあるものでる。
酒造好適米と呼ばれる酒造りのためのお米は、通常食用のお米は玄米の外側を10%くらい削ってヌカを取るのに対して、酒造好適米は30%以上削ってしまう。
ちなみに精米歩合とはお米を削って残った部分のパーセンテージのこと。
つまり精米歩合40%とは、60%削ってあることを意味している。
では一体どうして、価格も食用のお米よりも高価なのにそんなに小さく磨かなければならないのか?
それは米の表面付近にあるたんぱく質が多すぎると、雑味や苦味をもたらしてしまうためである。
そのため醸造段階で表面を削っているのだ。
美味しい日本酒と言われるためには70%以下に磨かなくてはいけないと言われていて、大吟醸は50%、最近では20%以下のものまで登場。
これはもはや日本酒の ” 常識 “とも言えるほど当たり前の考え方で、「たくさん磨かれた(精米歩合が低い)日本酒=いい日本酒」と思っている人も多数。
■今までの常識をくつがえす日本酒
ところが近年、今までの酒造りの常識に完全に逆行するかのような日本酒が登場している。
それがまた、酒好きにはもってこい日本酒なのだ。
それらを作る蔵元は、「酒造りには様々な工程があるのだが、全てやりすぎると薄っぺらなお酒になってしまう」と言う。
お米をたくさん磨かない分、超低温で発酵させて麹造りも精度を極める。
蔵の科学研究と技術向上によってお米自体も無農薬のものを使ったり、いいお米をなるべく磨かないで大切に扱う分、低コストでクオリティーの高い日本酒を造り出すことができるようになってきたのだ。
その結果、なんと精米歩合90%のものまで実現されるようにまでなった。
■圧倒的な個性が溢れる日本酒の味
今までの日本酒に対する美的感覚をガラッと裏切ってくれた磨かない日本酒。
実際飲んでみると、お米を削らない分お米そのものの旨みがしっかり感じられるものが多い。
芳醇タイプの日本酒は熱燗にすることで、その味わいを膨らませて感じることができるものが多いが、
磨かない日本酒はそのものが心地よい複雑性に富んだ味わいになっているので冷やで飲んでも十分楽しめるかも。
そして、その個性に富んだ味は「蔵の味」とも言えるだろう。
磨かないで、しかも美味しい酒を作ることは非常に技術を要するので、わざわざ造ろうと挑戦状を叩きつける蔵人の動機や志からも、新たな日本酒の味を届けたいと願う気持ちが強く伝わって来るのだ。
ウィスキーやブランデーが好きな人や、お酒そのものが好きな人にも新たな味わいを感じてもらえるお酒であると思う。
女の子にちょっと変わったお酒でリードしてあげたいなら、こんなマイノリティなジャンルの日本酒を提案してみるのもいいかもしれない。
ぱっと見おとなしそうに見える” ノームコアにオーバドゥの下着を着けた女性 ” はきっと、とてもアンバランスに見えるけれど、激しくあざといセンスで計算され尽くされているイイ女。
それと同じことだ。
■ 亀齢 中生新千本 80%
2004年から造られた低精白の先駆け的存在。
しっかりした旨みでありながらリッチでクリーミーな味わい。しっかり骨太な男性性の先に優しいまろやかさが広がる。
冷酒から熱燗まで温度幅を選ばない。
■ 紀土 山田錦 80%
自社育てた田んぼの米を大切に使い、出来るだけ精米を抑えて造られた一品。
根底に旨みの深さを秘めつつも、酸味が軽快にキラキラ輝く。冷酒でワイングラスでいただくと酸味のアウトラインが際立っておすすめ。
■ 開春 山田錦 80%
なんと90%もの精米歩合。
日本酒とともに呼吸する木樽を使い、管理の難しさも想像以上にも関わらず徹底したこだわりで自然の力をふんだんに使い発酵させた味わは、力強い旨味と綺麗な後味が魅力。
脂身のお料理との相性が良く、洋食にも合いそうなので海外ウケも良さそう。
■ 風の森 山田錦 80%
他の低精白の日本酒には無いような爽やかさに驚かされる、吟醸並みのインパクトが綺麗な味わい。
低温発酵で造り上げることでレモンスカッシュのような爽やかさで、ガス感、甘み、酸味のバランスが素晴らしくエレガントな輪郭。
イタリアン、フレンチとも相性良し。
野口 万紀子 / Makiko Noguchi
株式会社 5 TOKYO 代表取締役
クリエイティブディレクター
【取得資格】
SSI認定 唎酒師 (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター (認定番号 No.9338 )
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.313766 )
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
食品衛生責任者
【プロフィール】
東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業。モデル、芸能活動後、外資系アパレルブランド、融資コンサル会社等での経験を経て、株式会社 5TOKYOを設立。『日本酒 × ファッション・アート』をテーマに、5感で感じる日本酒の楽しみ方を提案。ソーシャルメディア「SAKE美人」「HANA美人」キュレーター。「和酒フェス公認」 和酒アンバサダー。
【URL】
5TOKYO
http://5-tokyo.com
SAKE美人
http://sakebijin.com/author/bijin30/
HANA美人
http://hanabijin.flowers/archives/author/hana20
【SNS】
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