Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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紳士のための恋する日本酒

Issue No.13 桜の花びらが浮かび上がる平盃で世界へ!株式会社 丸モ高木陶器

◆祖父の時代から受け継いだ家業の歴史

丸モ高木陶器の創業は1887年、岐阜県多治見市市之倉にて「マルイ商店」という名の商社として盃の販売を始めた。この地域は美濃焼きの産地として1300年以上の歴史を誇る地域である。現在は代表の高木正治氏が筆頭となって、日本最大級のギャラリーを有し、海外展開も積極的に行っているが、祖父の時代までは、自宅の小さなスペースで仕事をしていたそうだ。器の裏側のザラザラした面を滑らかに整える作業も、今でこそ研磨機を使って磨いているが、当時は紙やすりを用いて手作業していたという。

現在会長となった父が社長の頃には、販売会社であったセンチュリーを子会社化し、自宅の前には社屋が建てられ、現在の場所に移ってショールームができた。メーカーが作ったものを右から左に流すだけではなく、絵付けができる窯を作ったことにより、これまでよりも表情豊かな器がたくさん誕生したのだ。300坪にも及ぶ規模のショールームには、石膏ギャラリーが併設されており、まるで器の博物館のようにずらりと器が並んでいる。

 

高木氏は大学卒業後、愛知県のノリタケカンパニーリミテッドに就職市、北海道勤務に。実際に器を造る職人ではなく、営業マンとして焼き物のマーケットを一から学んだという。持ち前の物おじしない性格から、飛び込み営業も積極的に行った。ここで高木氏は地元のポテンシャルを再認識したそうだ。岐阜県多治見市は芸術の地としても有名であり、人間国宝である幸兵衛窯の職人や、無形文化財の認定をされている人もいる。特に焼き物については、盃を強みにしていることもあり、ここを世界に向けたビジネスポイントとするべきだと考えた。

 

2013年、この年は和食がユネスコに認定された年で、高木陶器も海外に向けて積極的に展開していく。最初のデビューは国内ではなく香港からスタートさせたのだ。「フードエキスポ」「ワインアンドスピリッツ」などの展示会経験が力となり、海外へのアクセルは全開となる。しかしコロナ時代に突入して、飲食店は軒並み経営不振に陥り、高木陶器も大きく影響を受けることとなるが、ピンチをチャンスに変える出会いがヒット商品を生み出すこととなる。

 

◆転機となる出会いとヒット商品開発

世界各国の様々な食文化に関わる中で、とある出会いから新製品のアイデアを得ることになった。北京で出会ったシェフの工藤氏は当時、日本大使館で皇帝料理人を務めていた。彼との関わりの中で、各国の大使館に高木陶器の器を納めることで、世界に日本の酒器を広める足掛かりになると考えたのだ。ここで思い立ったのが『冷感桜シリーズ』である。

 

桜に注目したのは、海外から日本を俯瞰して見たときに、日本のシンボルとして絶対王者であったからだ。また、和牛やラーメンなどに匹敵するレベルで輸出の武器になる商材が日本酒だったのだ。あまり知られてはいないが、日本酒は世界一幅広い温度帯を楽しむことができるお酒である。この事をもっと海外の人たちに知ってもらうためのキッカケになったのが『冷感桜シリーズ』である。

焼き物の文化も、色や大きさ、重さだけで判別するのではなく、熱い冷たいといった温度を可視化出来たらイノベーションになるのではないか、直感的にそう感じたという。大使館での乾杯シーンには最適なパフォーマンスになる、そう計画していた矢先にコロナ禍に突入。ここからは角度を変えて、一般家庭に向けての展開をはじめた。

 

温度によって絵柄が浮き上がるこのシリーズを造るのには、特殊な窯を使う必要があり、大掛かりな設備投資が必要だったが、この窯の導入は結果オーライだった。海外への展開は今後も拡充していく予定だ。

 

桜シリーズに引き続き、ピックアップされたのは『春夏秋冬』『富士山』『伝統芸能』この3テーマである。日本を象徴するそのイメージは、直感的に海外の人々へ響く商品となった。冷酒を注ぐと魔法のように浮き出てくる盃の秘密は絵の具である。約17度以下になると色が変化する特殊な絵の具を使っており、特に桜の花びらの色には拘った。

 

何色もの色を組み合わせて色を作っていく中で、実際にどんな色になるかは焼き上がってから冷たいものを注いでみるまで分からない。イメージにぴったり合う色に辿り着くまで何度も試行錯誤を重ねた。面白いことに、17度に近い温度ではほんのり淡いピンク色で、温度が低くなるほどに濃くはっきりしたピンクに変化するのだ。そのピンク色の美しさを支えているのが、白磁の純白である。市之倉の地は瀬戸物の名地である愛知県に隣接していることもあって、上質な白磁を焼く技術に長けていた。映し出す食べ物や柄の美しさを最大限に引き出すのには、この白色の底力が必要不可欠なのだ。

◆日本酒を味わい尽くすのにベストマッチな平盃

まるで器の中で桜の花びらが開花しているかのような優雅な盃。この酒器を使ってみたときに目を引くポイントがもう一つ。光の屈折によって桜のピンク色が反射して、お酒自体がピンクに染まった様に見えるのだ。

 

日本酒と酒器の相性はさまざまな考え方があるが、ぐい呑みなど口当たりがしっかり厚みのあるタイプに対して、平杯は厚さが薄く唇に吸い付く様なぴったり感が心地よい。さらに、口が広い形状のため、香りがフワッと立ちやすく、口の中全体で日本酒の風味を感じることができる。特に、吟醸と言われるフルーティで華やかな日本酒を飲むときには最適な酒器なのである。繊細な形状をしている平盃に桜が描かれていることで、お酒を飲んだ時に満開の桜を視覚的にも楽しむことが出来るというわけ。飲み干す頃には、反射したピンク色もゆっくりと元に戻っていくのも、非常に趣があって目を奪われる。

 

大使館での乾杯シーンをイメージして作られたこの冷感桜は、海外の方への演出やプレゼントはもちろん、日本人に向けても新たな日本文化の楽しみ方の提案として、注目が集まっている。プレミアムラインとして、非常に薄い磁器に金銀のスプレーを吹きかけた酒器も、特別な日本酒を開ける時に合わせると、より特別感を演出することができる。

◆インスピレーションの秘訣

新たな取り組みとして、株式会社 ランタンというアウトドアブランドや、猫用食器の展開もスタートさせ話題を集めているが、多くの焼き物メーカーが存在する中で、世界に向けてこれだけバイタリティ溢れるパワーで突き進んでいる高木氏のインスピレーションの秘訣を聞いてみた。

 

「世の中にないものを作るべきだと思う。海外から俯瞰して日本をみると、日本人が気がついていないだけで良いものがたくさんある。」

 

そう高木氏は語る。

 

 


特に暗闇で光るマグカップは、薄暗いキャンプ場内でもわかりやすく目印になって、子供たちからも人気を集めている。

 

全国各地の名産品やその技術とダッグを組み、そこでしか出来ないオリジナルのものを作る事は、日本文化の可能性を大きく広げることにも繋がるのだ。世界へと足を伸ばしていく中で気を付けている点は、スピード感を持って進めていく事。冷感桜のホームランを打つことが出来たのも、SNSやメディアなどを有効活用し、一気にやり遂げた事で成功に導くことができた。

 

日本の価値が下がれば下がるほど、我々日本人が作るものも安く見られるようになる中で、属人的なものからデジタルを導入し、工芸人の世界にもAIを取り入れていくことも必須となってくるだろう。

 

Instagramの画像の7〜8割は食べ物の画像であることからも、食器はただの器ではなく、食を彩る芸術のひとつとしての価値が高まってきている。世界の料理にもマッチするように変化していきたいと、力強く話してくれた。

 

文:野口 万紀子

 

 

〈会社情報〉
株式会社 丸モ高木陶器
〒507-0814 
岐阜県多治見市市之倉町1丁目12番地の1
https://www.marumo1887.com/

 

野口 万紀子 /  Makiko Noguchi
株式会社  5 TOKYO 代表取締役
クリエイティブディレクター


【取得資格】
SSI認定 唎酒師                   (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター             (認定番号 No.9338 )
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.313766 )
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
食品衛生責任者


【プロフィール】
東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業。モデル、芸能活動後、外資系アパレルブランド、融資コンサル会社等での経験を経て、株式会社 5TOKYOを設立。『日本酒 × ファッション・アート』をテーマに、5感で感じる日本酒の楽しみ方を提案。ソーシャルメディア「SAKE美人」「HANA美人」キュレーター。「和酒フェス公認」 和酒アンバサダー。

【URL】
 5TOKYO
 http://5-tokyo.com
 SAKE美人
 http://sakebijin.com/author/bijin30/
 HANA美人
 http://hanabijin.flowers/archives/author/hana20


【SNS】
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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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