Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のための恋する日本酒

Issue No.9 日本酒にもある「テロワール」という表現 【ドイツ紀行編】

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「ゆるい。非常にゆるい。」

一面に続く石畳の街並みと、風情ある日本にはないパステルカラーの街並みを背に、昼間だというのに、可愛らしい赤のシェードの下のコンパクトなテラスでビールを飲んでいる人々を眺めながら、昨日と同じリガトーニを食べていた。

「またパスタ食べちゃったよ。
 そういえばドイツに来てからソーセージって食べてない。」

数日前の私は渡独していて、とある都市から数駅ほど離れた少し小さな駅にステイしていた。
日本から持ってきた日本酒を、幾つかスーツケースに詰め込んで。

ここでは誰もせかせかと歩いたり、カフェでPCを開いたり、ましてやスーツの人などほとんど見ることはなかった。

東京を言い表す言葉が「BUSY(忙しない)」「TINY(人も建物もぎゅうぎゅう)」「VARIOUS(情報盛りだくさん)」なら、
ここは「SLOWLY (まったり)」「SYMPHONIC (人と自然が調和してる)」「SIMPLE(シンプルライフ)」。

とにかく誰も、頑張って生きている感がなく、みんな仕事なんかしていないんじゃないの?
どうやって生活してるわけ?っていう位、ゆる〜い空気が流れてた。

というか、いつも自分の周りに当たり前にあるものが、全く見当たらない。
最先端のファッションや、向上心の塊みたいな人たちの群れや、朝まで遊べるお店や、テクノロジーを駆使したガジェットなど、そういった東京っぽいモノとは無縁の世界だった。

もちろんドイツ人の全ての人がゆるいって訳では無く、私が目にした光景の一部なのかもしれない。
ただ間違いなく言えることは、この人たちは「大好きな人」と「楽しむため」に生きているということ。

いわゆる日本で” 意識高い系 ”と呼ばれるような雰囲気の人は、辺りに見当たらない。
お店に入ってもあまり音楽も流れていない。
ファッションにお金をかける人もあまりいない。
毎日ビールを飲んでいるようだけど、
日本人みたいに、2件目..3件目..とハシゴして、下手したら昼近くまで飲んでいる、なんていうオジサンも見かけない。
だけど、辺りには「会話」と「ビール」と「キス」はたくさん溢れていた。

ここの国の中心は、人との繋がりであるらしい。

「自分たちは仕事をするために生きているわけではない。」

と言わんばかりに見えた。

彼らの生きがいは、「大切な人」と自然の中で調和して時間を過ごすこと、の様だ。
日常の生活は平和そのものに見えたけど、そのフワッとさとシンプルさに、どこでもPCを開いてパチパチと叩いている私は、少しだけ戸惑いを感じた。

それでも何の迷いもなく、そのSLOWな時間は過ぎていく。

ドイツと言えば、もちろんデフォルトの常温ビールは間違いなく美味しかった。
ワインも結構美味しくて、この時期あまり赤を飲むドイツ人は少ないようだったけど、自分的には夏でも赤派なので、ちょこちょこ試してみた。

暑い夏には、冷たい白ワインとか言うけど、関係ない。
自分の好きなものを、好きなようにセレクトするのが一番!
というのが自論なのだ。
エアコンが効いているお店がほぼないドイツの乾暑いテラスでも、赤ワインを注文。

それほどワインに詳しいって訳でもないけど、ドイツワインとても美味しいな、とグラスを傾けていると、昨日も一昨日も店に来ている私に

「どこから来たの?」

と、声をかけてきたウェイターのALEXと名乗る男の子。
欧米人だけどドイツ人ではなさそうな顔立ちで、背が凄く高くて、長くてクルクルした髪を小さめに結んでヒゲを生やしている、絵に描いたようなウェイターだった。

「赤ワイン好きなんだよね。これすごく美味しい!
 日本のと色々飲み比べてみてるんだ。」

って言ったら、

「ドイツのテロワールだよ!」

と言った。

正直、ドイツに来ているテンション故のものなのかとも思ったけど、それとは少し違う、もっと具体的で直感的な味がした。

これがいわゆる、ALEXが言う
「ここの土地の味=テロワール」
っていうやつではないか?

同じブドウを同じ生産者が育ててワインを作っても、栽培される土地の気温や土質、お天気などの影響によって味わいは左右され、決して同じものは出来ない。
こんな風に「テロワール」を語るなんて、ワイン通の方に申し訳ないようだけど、「テロワール(terroir)」の直訳は「土壌、気候、風土」。
フランス語の「terre」から派生した言葉だけど、この「terroir」を英語圏の人は、今ひとつ明確に解釈することが出来ないみたい。

フランス語独特の表現というものがあって、

「テロワールはテロワールだ!」

現地メゾンの人はこんな風に言うらしい。

日本語にしても、これにぴったりと当てはまる言葉が見当たらない不思議なワード。
「いいです」とか「ごちそうさま」とか、ぴったり当てはまる外国語の表現がない日本語はたくさんある。

「ヤバイ」とかも、好きな人とかが突然現れた時に使えばすごくいい意味だし、
逆に嫌なものとか、イタイものに直面したら、最悪って意味。
どちらにしても、ココロが動かされるような「OMG!!」な事だっていう表現なのだけど。

呼び方だって「まきちゃん」と「まきさん」は違う。
目上の人には「さん」だけど、「さん」って呼ぶ人に「ちゃん」付けで呼ぶことだってある。

女の人だけじゃなくて、男にも「ちゃん」付けすることだってあるけど、これも同じく「ちゃん」付けしてもいい、という何か決まったラインがある訳じゃない。
でもそれは、お互いの中である種の微妙な関係性と了解がある中で成立する呼び名である。
それが無いと、なんだかバカにしてる様にも聞こえてしまうし。。

曖昧な「テロワール」的用語は、各国でたくさん存在するけど、兎にも角にも、「テロワール」という言葉に、辞書に記載された言葉以上の意味があるのは間違いないだろう。
その土地の土壌、気候、風土に、その土地が生み出した人間そのものの色合いと、その息遣いが反映されるようだ。

日本酒の世界にも、この「テロワール」という言葉は使われるようになって来た。
具体的に言うと、日本酒なら「水」と「米」に当たるのだと思うけど、第二の日本酒の「テロワール」の世界は深い。

前回(Issue No.8)、日本酒は必ずしもその土地の米を使っているわけではない事には触れたけど、ワイン以上に作り手の技術の違いがダイレクトに反映される日本酒は、本当に繊細な生き物だ。
その頑なな手間のかけ方こそが、日本人ならではの真面目さや、気質や、もっと言うと「人柄」や「情念」から生まれるこだわりの味になるのだと思う。

麹菌の発酵現象などは、長年日本酒造りに熟知した杜氏さんでも分からないもの。

それはまさに、神のみぞ知る。
神秘的な自然現象によって麹菌は蠢いて、それが日本酒の元となる。

ALEXが言った「ドイツのテロワール」は、愛する人と過ごす「愛至上主義のHAPPY感」と、
「いい具合」っていう意味を含んだ「ユルい、いい加減さ」とが織り交ざった味がした。
それは海外に来ている特別感がもたらす、「幸せな気のせい」かもしれない。

それでも私は、「頑固」で「不器用」だけど少しベタっとしていて、毎日、一生懸命に仕事を頑張る、日本人の「テロワール」が好きだ。
あいまいで繊細な陰の生々しさは、こだわりと真面目さの裏側にある裏切りの破片。

私が日本からドイツに持ち込んだ日本酒もきっと、そんな日本人の「テロワール」の息吹が吹き込まれた、地勢と情念溢れるお酒なんだ。
そう思った。

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■ 北光 純米酒(長野県)
株式会社 角口酒造店 http://www.kadoguchi.jp

長野県内産の酒造好適米の中で珍重される金紋錦を使用している蔵元さん。
こちらは海外向けに展開されている日本酒です。
杜氏の村松裕也さんは若手の杜氏さんの中でも陣頭に立ち、長野の息吹を吹きこんだ日本酒を醸しています。

http://www.kadoguchi.jp/enjoy/hokkomasamune

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■ 羅生門 鳳凰 吟醸酒(和歌山県)
田端酒造株式会社 http://tabata-br.jp

2009年から6代目蔵元の長谷川香代さんと、娘の聡子さんによって、和歌山県の原料にこだわった酒造りを始め、2011年には日本酒を使った梅酒も展開しています。
羅生門はモンドセレクションを連続受賞しているシリーズ。

http://www.rashomon-kuramoto.co.jp/about.php
http://www.rashomon-kuramoto.co.jp/rashoumon.php

 

 

          

 

野口 万紀子 /  Makiko Noguchi
株式会社  5 TOKYO 代表取締役
クリエイティブディレクター


【取得資格】
SSI認定 唎酒師                   (認定番号 No.042210)
SSI認定 日本酒ナビゲーター             (認定番号 No.9338 )
WSET LEVEL1 AWARD IN SAKE (認定番号 No.313766 )
日本野菜ソムリエ協会認定 パーティースタイリスト
食品衛生責任者


【プロフィール】
東京都目黒区生まれ。女子美術短期大学卒業。モデル、芸能活動後、外資系アパレルブランド、融資コンサル会社等での経験を経て、株式会社 5TOKYOを設立。『日本酒 × ファッション・アート』をテーマに、5感で感じる日本酒の楽しみ方を提案。ソーシャルメディア「SAKE美人」「HANA美人」キュレーター。「和酒フェス公認」 和酒アンバサダー。

【URL】
 5TOKYO
 http://5-tokyo.com
 SAKE美人
 http://sakebijin.com/author/bijin30/
 HANA美人
 http://hanabijin.flowers/archives/author/hana20


【SNS】
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 https://www.instagram.com/makiko_noguchi/

 

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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