Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

お笑い紳士録 「わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ」

ジャズ歌手になるために上京したのに、なぜかお笑いの世界に

【男性客から「わかるよ!」という声援が上がる】

浅草・木馬亭。月に一度開かれる寄席の定期公演「うたとおわらい あなたをスターに」のトリとして主催の松鶴家千とせが登場した。客席が大いに沸く。

「挨拶だけでいいって言ってんのに『やってくれ』と」。
のんびりとした口調だが、よく通る声。漫談が始まる。

「俺が昔イモ虫だった頃、弟はてんとう虫で」。
おなじみのギャグだ。
「わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ」の決め台詞が出ると客から「わかるよ!」という声援が上がる。

続いて人情話をしんみりと聞かせた。打って変わって客席は静まり返り、空調の音が聞こえるほどだ。さらに器用な口鼓入りで歌を歌い上げる。最後にニヤリと笑ってピースサイン付きの「イエーイ」で締めた。

 

【ラジオから流れてきたジャズが運命を変えた】

松鶴家千とせ、79歳。日中戦争真っ只中の満州で生まれ、のちに実家のある福島県南相馬市に移住。中学生の頃、ラジオからたまたま流れてきたアメリカのジャズが彼の運命を変えた。

「アメリカに渡ってジャズシンガーになりたい」。その思い一心で地元の高校を中退し、1953年にまずは上京。結果的に渡米はできなかったが、運命のいたずらによって松鶴家千代若・千代菊に入門する。

やがて、1967年に千とせ流家元三代目松鶴家千とせを襲名。浅草の松竹演芸場をホームグラウンドに、テレビなどでも活躍するようになる。

トレードマークはあごひげとアフロヘア。ピースサイン付きの「イエーイ」を日本で初めて流行らせた。70年代には「わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ」の流行語を盛り込んだシングルレコード『わかんねェだろうナ(夕やけこやけ)』が160万枚の売り上げを記録し、一躍時の人となった。

【「ツービート」の名付け親としても知られている】

40代以上なら、ブルース調で「ソバソバぁ~ん~、旨い! 太い! 大きい! 日清焼きそばU.F.O? 分かんねえだろうなぁ」と歌うテレビCMを覚えている人も多いかもしれない。

さらに、菅原文太が主演した東映の大ヒット映画『トラック野郎・望郷一番星』にトラック運転手役として出演し、放送演芸大賞(漫談部門)を受賞した。また、あの「ツービート」の名付け親としても知られている。

【波乱万丈に満ち満ちた交友録を後世に残す】

そして何よりも驚きなのは芸能生活65年にして、いまでも“現役”だということ。松鶴家一門や数多くの弟子が出演する冒頭の演芸会も、今年で3年目を迎えた。終演後も会場に残ってファンや後輩たちに挨拶をする姿が印象的だった。

いまやお笑い界の“先輩”に当たる人物はほとんどいない。だからこそ、60年以上にわたって彼が見てきた昭和のお笑いシーンは貴重なものとなる。

「現場に客がこなくなるから」といって頑なに自著を出さなかった千とせ師匠。本連載では彼の波乱万丈に満ち満ちた交友録を後世に残すべく、本人へのインタビューを中心に記録する。

乞うご期待!

 

 

2017年5月26日、木馬亭でトリを務める千とせ師

<師匠にひと言!>
トラック運転手、デコトラ親睦会「哥麿会」初代会長
宮崎靖男さん(73歳)

私は『トラック野郎』の第2作以降すべてに出演していますが、師匠とはその撮影現場で会いました。かっこいい運転姿勢を聞かれた記憶があります(笑)。ものすごい売れっ子なのにとにかく腰が低いなあという印象。その後30年近く経った時、人を介してたまたま再会したんです。それ以降、仲間内の新年会には必ず来てくれる。ホテルの同じ部屋でいっしょに泊まってね(笑)。2人ともまだ現役ってことで、私にとって大切な存在ですよ。

 


『トラック野郎』の撮影で初めて出会った師匠(左)と宮崎さん(右)

松鶴屋千とせ
日本の漫談家、歌手、司会者。小谷津家は下り藤の家紋である。
元東京演芸協会常任理事、南相馬市ふるさと親善大使、東京都足立区在住。アフロヘアーと、「わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ」のフレーズ、「イェーイ!」で決めるピースサインのポーズがトレードマーク。

問い合わせ先:石田企画

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

おすすめのたしなみ