Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

お笑い紳士録 「わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ」

師匠の激励を勘違いした結果、なんと八戸の理容学校に入学

【「手に職をつけないとやっていけないよ」】

松鶴家の内弟子として、住み込みで細々とした仕事を片付ける千歳。一方で、先輩の舞台に新米芸人として出演する機会も徐々に増えてきた。本来、目指していたのはジャズシンガーだが、運命のイタズラに流されるまま、お笑いの世界にどっぷりと浸かっていった。

しかし、そんな千とせに大事件が起きる。

「松鶴家一門に入って5年ぐらい経った頃かな。千代若師匠が僕に『これからの芸人は手に職をつけないとやっていけないよ』と言ったんだよ。手に職? これだけステージに出て喋ったり歌ったりしているのに。『今のままじゃダメなんですか?』と聞くと、『そうだよ』と」

あとでわかるが、これは完全に勘違いだった。しかし、ショックを受けた千とせはすぐに福島の母に連絡し、「お笑いでは無理っぽいから、手に職をつけたい」と相談。すると、八戸でスケートリンクの建設に関わっていた父から「八戸には理容学校があるから、そこに入ったらどうだ」という手紙が届く。


【全国理容新人大会で3位に入賞】

師匠には「しばらく暇をください」と告げ、東京を引き払って八戸に向かった。18歳の時である。

「理容師の免許を持っていれば、アメリカでもやっていけるという思いもあった。当時の日本の利用技術は高くて、海外でも評価されていると聞いていたからね。手先が器用だったせいもあって、先生たちから褒められまくったよ(笑)」

八戸の理容店で働かないかという誘いがいくつもあったが、それらを断り、卒業後は東京に戻る。新聞広告で求人を知った日本橋の理容店を飛び込みで訪問し、インターンとして雇ってもらえることになった。

「インターンは掃除などの雑用もしなきゃいけないんだけど、松鶴家時代に鍛えられていたから全然平気だった。理容の腕もグングン上がって全国理容新人大会で3位に入賞するほど。理容師の国家資格も無事取得できた。ただ、どうしてもジャズのことが頭から離れなかったんだよね」

そこで、千とせは師匠のもとを再び訪れることを決断した。

【「手に職をつけろ」は「芸を磨け」という意味】

2年ぶりの再会。勝手に飛び出してきたわけだが、師匠の応対は予想外にやさしかった。しかし、肝心の報告をすると態度が豹変する。

「理容師の免許を取ったこと、腕に職をつけて一人前に稼げるようになったことを報告したら、師匠は『バカヤロー! 俺は一向にうだつが上がらないお前さんを見かねて、芸の腕をもっと磨けって言ったんだ!』。要するに誤解(笑)。言葉の綾というかね、まだ子供だったから勘違いしちゃったんだ」

このやり取りで、千とせは再び芸の道に邁進することを誓う。1960年代に入ると世間は高度経済成長期に突入し、テレビのお笑い番組も増えてきた。しかし、そこに出られるのはまだごく一部の芸人のみ。千とせの下積み生活は、もうしばらく続く。

 

【師匠にひと言!】
歌手
平浜ひろしさん

10年ぐらい前かな。豊島公会堂でテレビ埼玉の公開収録があって、そこで始めてお会いしました。私が若い頃からの有名人だから緊張したけど、僕が会津、師匠が浜通りと同じ福島県出身だとわかって、すぐに意気投合。「浅草木馬亭の定例イベントに出てくれないか」と気さくに声をかけていただいて感謝しています。逆に会津で毎年行っている私のディナーショーにお誘いしたら、二つ返事で了承してくれたことも嬉しかったですね。とにかく、初対面の時からざっくばらんなお付き合いをさせていただいています。

 

2017年9月30日、浅草木馬亭の定例寄席「うたとおわらい」でトリを務める千とせ

浅草木馬亭のステージで歌う平浜さん

 

松鶴屋千とせ
日本の漫談家、歌手、司会者。小谷津家は下り藤の家紋である。
元東京演芸協会常任理事、南相馬市ふるさと親善大使、東京都足立区在住。アフロヘアーと、「わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ」のフレーズ、「イェーイ!」で決めるピースサインのポーズがトレードマーク。

問い合わせ先:石田企画

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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