Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

ギター紳士の独り言

Vol.2 ビール瓶と喝采

写真 (1)

「ギター紳士」に沢山の、皆様の反響ありがとうございます。
ラリー  カールトンとの出会いまで語らせて戴いたのですが、その後スイスイうまくいったのかというと、そんなわけではない。
ラリーの指定したライブハウスにギターを持って行ってみた。

 サクラメントのパームズハウス。
まだ、ルーム335(ラリーカールトンのアルバム名)がでる前だから、ラリーが、ブレイクする前。
とはいえ、それなりに人は、来てた。すでにライブが、始まっている様子。

入り口でいきさつと事情をはなして入ろうとするが、取り合ってくれない。
それどころか、「ジャップは、入れない」と言われる。
 日本人だというだけで、イエローだというだけで、立ち入り禁止なのである。
これは、どうにもならない。
強硬突破しようと考えたけど、入り口の相手は2メートルもある大男。
その大男がさげすむような眼で見ている。困ったものだ。

どうにもやり様がない。このままあきらめるわけにもいかない。
受付からこの男がいなくなる瞬間を待つしかない。
木陰からしばらく様子をうかがう事にした。
なかなか、チャンスはあらわれない。
このままライブが終わってしまうかもしれない。

と、三人のデーハーな(派手な)、パツキン(金髪)女性が中から出て来た。
そして、この大男もその三人とどこかへいく様子。
デレっとした顔でその女に随伴げな感じ。
よし。チャンスだ。おっ、ーいなくなった。

今だ。外の扉を開け、内側の二重扉をあけて、中へ侵入。
中は、とにかく臭い。理由は、書けない。かなり盛りあがっている。この空気はいい。
ファンキーなリズムと、ブルージーなヴォーカルのシャウトの中。
すぐ回りにいる人たちは私に、
「何しに来たんだ」「帰れー」
という迷惑そうな目線を容赦なく浴びせてくる。
どうすればいいんだ。

まずは、ステージにいるラリィーに、私がいる事に気付かせる事だ。
お互いもちろん顔はわかっている。
人間ジュークボックスでの出会いのあと、素面で一度は会っている。
はやく気付いてくれないだろうか。この暗さだと気付くはずもない。
何度か手を挙げてみるのだけれども、学校じゃないし、ラリィーが気付くはずもないし、近くにはなぐりかかってくるおっさんもいる。
どうにもならないアトアロス(at   a   loss)状態。
あっ、もうラストソングと言ってるし、どうしよう・・・。

もう、こうなれば、飛び入りするしかない。
やもたてもいられずギターケースから、335を取り出して、一気にかけあがった。会場は大ブーイング、野次と罵声の嵐。
バンドのメンバーも一瞬驚きたじろいだ。だが、迎える体制はある。

と、ラリィーと一瞬目があった。ニコッと最高の笑顔。私も満面の笑み。
私とラリィーの二人の笑顔に、バンドのメンバー全員の気持ちが同期した。
曲の途中だけど「ツインリバーブを使えよ」と小声でささやいた。
ケーブルをさし込んで、ギターを構えてオーディエンスの方をむきなおった瞬間、いぎたない罵声が飛びかう。
火のついたタバコが飛びこんできた。
よける間もなく、頬にあたってステージに落ちた。あわてて火を踏み消した。
それをきっかけにたくさんのタバコが飛んで来た。タバコならまだいい。
今度はビール瓶が飛んできた。
ビール瓶のとってぐちをもって割ってギザギザになった方を顔に向けて投げてくる。さすがにこれをよけないわけにはいかない。

ガシャーン!
バックステージの壁にあたってコナゴナに割れている。

そんな中でラリィーが目配せをして来た。
この目の合図は「次は、おまえがソロだよ」

曲は、
『I  met the   first  time   blues!』
86(8分の6拍子)のやや早いスローブルース。得意中の得意だ。
私にソロがまわってきた。ワンコーラス目は轟音のような野次と罵声。

2コーラス目。まだひいてていいの?  ノリもはまってきた。ギターが唄い出した。
会場のざわめきが少し無くなってきた。

3コーラス目。おもいっきり私のブルースをひきまくった。しょってるもんが違うんだよ。
「聴いてみんかい、この大阪人の生き様」会場が静まった。

4コーラス目。ささやくようにブルースを奏でた。悪意や偏見が払拭されていった。

5コーラス目。とんでもない拍手と喝采。ここまでの私に対するマイナスの思いが180度転換された。

6コーラス、7コーラス・・・。途轍もないスタンディングオベーション、アンコールの嵐。
永遠と続く熱い魂…。
ステージが終わったあとのオーディエンスの反応がすさまじい。チアーズ、チアーズ、チアーズ…乾杯と祝福の嵐。

そこから様々なリレーションが生まれる。思いわずらう前にまず行動する。
これこそダンディズムの極みかもしれない…

高谷秀司(タカタニ ヒデシ)
日本を代表するブルース ギタリスト
渡米後、ラリー・カールトン、デューク・ジョーダンらと共演。
人間国宝 山本邦山とのユニット「大吟醸」やデビッド・マシューズとのアルバム「G2 NewYork Recordings」など幅広く活動。
2015年、邦山の意志を継承し、日本古来の美を表現したユニット「How Zan」を結成。

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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