Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

ギター紳士の独り言

Vol.3 ヨーロピアンマフィア

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今回は、スペインの話をしよう。
はじめてのスペイン公演は、客席の最前列に真っ白なスーツを着た、鳶(いかり)肩のヨーロピアンマフィアがいた。

多分、かなり前。スペインバルセロナのBAL。
BALとは、小さなエンターテイメントスペースのある呑み屋。

現在のG2us  の前身SOUL  MATESというギターユニットで参上した。
盟友  マサ大家  (現山中湖サウンドビレッジ社長)との魂の音楽ユニット。

彼との付き合いは、今年で42年目になる。
竹馬の友とは、こういう関係をいうのであろう。

大学一年の時からバンドをやっている付き合いである。

まっ、それは、さておき・・・いずれ詳しく・・・。

行く前には随分準備をした。
スペイン語。パフォーマンスの際物としてのタップダンス。
今スペインで流行っている曲。伝統的な曲。触りだけでもという感じ。
仕込みは充分にしていた。MCもスペイン語でやるつもりなので、勉強も半端ではない。
そして、何度も何度もリハーサルをした。とにかく、万全なる準備で臨んだ。
さて当日、やや緊張の面持ちはあるが、日本でやる事はやり尽くした。自信はある。

さあ、本番。

一曲目
二曲目
MC    演奏の途中でしゃべる。
三曲目
MC
結構体裁良くいい感じで演奏しきり、歌い切っている感じはあるが、全く反応がない。
拍手もない。MCの答えもない。

ステージの真ん前に、例のあのマフィアが三人。
そう、鳶型の目の覚めるような白いスーツ、ワインレッドのネクタイが艶やか。

やけに姿勢がいい。背筋がピンとのびていて、見るからに筋の通った悪。
どんなにうまく何を演奏しても、何を歌っても、表情ひとつかえずにピクリとも動かない。

鳶肩のまんままっすぐに、我々SOULMATESを睨みつけている。

相方(マサ大家)はといえば、もう、真っ青。
もうやめよう。
こんなに受けないんだったら、もうやめて帰ろう、というのが眼に表れている。

きっちりうまく、確実に演奏しているのになぜ受けない。なぜ無反応。
そんな、困惑の心情が、表情に現れている。

このヨーロピアンマフィアが三人もいるものだから、後ろの普通のお客さんたちが反応できない。
お客さんたちから少しでも拍手が起きそうになると、後ろを向いて眼で威嚇する。

もう一度相方の
「もうやめて、帰ろう」
という視線。

私は腹をくくった。私は相方と死ぬ覚悟を決めた。
体裁や上手くなんてどうでもいい。

スペイン語もいらない。よそ行きの服を来て七五三やっててもしゃーないやろ。
大阪弁でいい。

「おんどれ、なにぬかしとんねん」
訳:あなたは、何を言っているんですか?   おんどれ=相手を表す二人称。

「しばき回すぞ」
訳  : 何度も叩きますよ。

マイクも無しに地声で怒鳴り始めた。もはやMCなんかじゃない。
大阪弁で、まくしたてる。

スペインの人がわかるかどうかなんて関係ない。
魂と魂の、会話。

「大阪人のブルースの土性骨をみてみんかい。」
「こりゃー」
「うおりゃー」

相方は眼をまんまるくしている。
彼もとにかく、予定にない曲を弾きまくる。
私についてくる相方もたいしたものだ。

「もしもあんたが女に振られたらどうする・・・。
どこかの酒場で飲み明かす以外ないやんけ・・・」

熱意と生き様を込めて歌いまくった。
もう歌なんかではない。
魂の雄叫びだ。

とにかくあらん限りの魂の鼓動を熱唱した。何曲も何曲も日本語で大阪弁で。

私は感極まって、最前列のマフィアに唾は飛びまくるし、顔を近づけてもう、鼻と鼻がひっつくところまでいく。

マフィアの表情がピクピクと動いてきた。
そして晴れやかな笑顔と「やるなーお前ら」という、優しい眼差し。

そしてこの三人は突如「ブラボー」という歓声を上げて拍手し始めた。
それに引きずられて、後ろの観衆は今まで本当は拍手したかったという溜まりに溜まったうっぷんをはらすかのように拍手喝さい。歓声の嵐!!

BALの空気が一変した。

ヨーロピアンマフィアに 我々が命がけだという事が通じた瞬間だ
「こいつら命かけとる」
マフィアは、骨の髄から、感じてくれた。

そうなると
マフィアの歓声と拍手がやかましい、やかましい。

BALは地鳴りのような歓声と拍手。

延々と続くアンコール。
とまらない歓声とスタンディングオベーション!!
それまでと180度違う!

紳士は丁裁や格好じゃない。命がけの姿勢を素直に単純にあらわす。
日本の美学。万葉でいう、ますらをぶり。

高谷秀司(タカタニ ヒデシ)
日本を代表するブルース ギタリスト
渡米後、ラリー・カールトン、デューク・ジョーダンらと共演。
人間国宝 山本邦山とのユニット「大吟醸」やデビッド・マシューズとのアルバム「G2 NewYork Recordings」など幅広く活動。
2015年、邦山の意志を継承し、日本古来の美を表現したユニット「How Zan」を結成。

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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