Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

ギター紳士の独り言

Vol.1 人間ジュークボックス

思えば、初めてアメリカに行ったのは十代の後半。
我々の頃は、言わずと知れた『密航』である。

もちろん、隠れて乗り込むのですが、船員に見つかっても私を海に落とすわけにはいかないので、散々脅されたあげくに皿洗いをさせられ、いや、させて戴き、船内食堂の残飯を漁って生き延びる。

一生懸命やれば、気の荒い船乗りとも仲良くなる。なんとかなる。

そして、アメリカの港【サンフランシスコ】に、着いてしまえば、無罪放免。
船員には『おまえは、根性あるから丘にあがったらウチで働け』
と言われるが丁重にお断りする。

さて、どうするか・・・

港のバスターミナルに行き、来たバスにすぐ乗った・・・
これは、私の習性かも知れない。 
たまたま、北に向かうバス。えーいっ! 終点まで、乗ってしまえ。
終点 サクラメント LA『ロスアンゼルス』を横目でチラ見しながら、
あの往年のゴールドラッシュのサクラメント! 若気の至りとは、この事か。
サクラメントに着いたとはいえ、別に知り合いがいるわけではない。
何処へ行けばよいのか、何をすればよいのかわからない。

とりあえず公園に寝る。昼間から銃声が聞こえてくる。
銃を持ったおっさん達が、行き交う。
雨の避けられるところで寝ていると、浮浪者に取り囲まれる(もちろん、私も浮浪者)。
元々、縄張りが決まっているようである。  
クワバラクワバラ!

このままだと、音楽に志を持って来た意味も無い。
やや、途方に暮れる。

ジュークボックス高谷

ふと、目にとまった看板が音楽家としての運命を切り開く!

『求む! 人間ジュークボックス  一日5$』

何だろう。人間ジュークボックス・・・

藁にもすがる思いで雇ってもらう。
兎に角、飛び込むという行動力が人生を、切り開く。

人間ジュークボックス?!!

そもそも、ジュークボックスって何だ。
かのアナログ時代、自分の好きな曲を、お金、硬貨を入れて選曲すると、レコードが自動的に選ばれ音がでて来る機械。当時としてはかなり精巧なマシーンだ。針を落として鳴らす臨場感のある精巧なマシーンだ。
もちろん、マシーンの中には表に表示されている全ての音源が入っている。

人間ジュークボックスとは、
まさに、この音源(レコード)の代わりを人間が引き受けるという代物。途轍もない。
その人間とは「私」である。午後1時から夜中まで、箱の中で、要求された曲をアカペラやギターの弾き語りで歌いきる。もちろん、外から顔は見えない。リクエストが入り続け歌い続ける。

もちろん知らない曲もあるが、それでも歌い続ける。知らないので曲のタイトルだけ連呼し続けると、ジュークの外のお客様は怒って怒鳴っている。
挙句の果てに、外からジュークを蹴ってくる。
『金返せ!』

かと思えば、外から代わりに歌ってくれるお客様もいる。
なんとも・・・

と、その時
『お前の歌は素晴らしい! ギターの音は絶品だ! 見事! 俺と一緒に演ろう!』

私にとっては天の声だった。
その声の主は、後になってわかるのだが、若き日のラリーカールトン!
運命の出会いだ。

私は、ドッグオブザベイを唄うのをやめて
『ぜひ演ろう! どこ?』
『サクラメントのライブハウス、パームズハウスに来て! ギターを持って来て! 
必ずだよ!』

そして、実際に演奏させて貰って大喝采を浴びる。

その後は、次から次にリレーションが生まれていく。

アメリカでの地盤を築いた最初の瞬間である。
邦楽の家に生まれたブールスギタリストの誕生である。

天衣無縫に見えるかも知れないが
思い煩う前に
まず行動することで人生を捕まえる。

ダンディズムとは意外と単純なもの。

目の前にあるものを自分の力で
掴み取る勇気としなやかさ。

ダンディズムは、あなたのすぐ隣にいる。

 

高谷秀司(タカタニ ヒデシ)
日本を代表するブルース ギタリスト
渡米後、ラリー・カールトン、デューク・ジョーダンらと共演。
人間国宝 山本邦山とのユニット「大吟醸」やデビッド・マシューズとのアルバム「G2 NewYork Recordings」など幅広く活動。
2015年、邦山の意志を継承し、日本古来の美を表現したユニット「How Zan」を結成。

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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