ギター紳士の独り言
Vol.6 大地の鼓動 石牟礼道子に捧ぐ <後編>
道子さんの所での感動の出会いのあと、魂の友、金刺潤平氏に案内されて会場へ向かう。
会場近くに車で近づくと、白い煙がたっている。何だろう。まるでボヤと思えるような白い煙。
潤平 「おう 始まってる」
「何?」
潤平「豚の丸焼き」
「えっ⁉」「何⁉」
スタッフは、もくもくと焼いている。
せーので、裏返す!
それより何より、ブタの焼けていく姿を見ている金刺潤平の魂が輝いていた。
そしてその輝いた魂に引っ張られているアートミーティングのメンバーが素晴らしい。
そうそう、当日のアートミーティングの概要を説明しなければならない。
タイトルは【いのちを喰らう】。
いのちって何だろう。
答えを探しに水俣の湯の児へお集まり下さい。
時は、2015.2.21(土)。
もう5ヶ月も前だ。時の経つのは、早い。
二部構成になっていた。湯の児ウォーキング、命を盗る。
山沿いのルートと海沿いのルートに分かれて、水俣の豊潤なる自然に触れながらのウォーキング。
その道程で、自生している山の幸を、必要な分だけ、食材として盗りながら、、、。
この時の自然の音や映像もとっていく。
第二部は、3つにわかれている。
湯の児の古民家にて、
《いのちを愛でる、いのちを喰らう》
愛でる事と喰らう事は表裏一体かも、自らの命を愛でるから喰らうのか、、、。
喰らうから愛でられるのか、、。
ウォーキングで盗んだ食材をつかって、地元の人達と一緒にふるさと料理として調理する。
そして、さっきの豚だ。
考えてみれば、人間は他の生物のいのちを盗りながら生きている。
そのシンボルとして、子豚の丸焼き、これが、またうまいのなんのっ。
相方の小川は、とにかく、大きな豚の肉塊を切る事に、けなげに一生懸命。
意外と包丁を切っている姿が似合っている。
さて次は、
いのちを描く、
水俣生まれ、水俣育ちの、墨人・新立航大さん。
感性のほとばしり、いのちを描ききる。筆による魂の鳴動。
子供達も描く、そして、能で言うところの一調 二機 三声。
心を整えて、タイミングをはかり、声を出す。
実に、見事な間合いで、筆がくり出される。私は航大の魂の迸りに心を動かされた。
墨人航大の真骨頂。子供のような純粋な心根と自由闊達なる筆運び。
そして、次に、
いのちの追憶を呼応する
緒方正人さんの挨拶に、感涙。
「水俣病の被害者も加害者も、俯瞰して見れば、同じ人間。加害も被害もない。」
緒方さんは、人類の良心のような人だ。
そして、
RODORODO(小川紗綾佳と高谷秀司の魂の音楽ユニット)登場。
元々潤平との触れ合いで、井草の弦で演奏するというのが出発であった。
井草の弦。大麻、綿、絹で試してみた。様々なアプローチで展開してみた。
素材に対して無知な私を色々な人が助けてくれた。潤平の奥さん、ひろこさん、そして花井さん、、、。
楽器を創ってくれた潤平、小松和彦さん。ここにもお互いの協力の結晶がある。
万全の準備はした。しかし演奏家としては不安がある。
またあらためて紹介をされて、いよいよ始まるのだが、こんなに緊張している事は未だおぼえがない。
「通りゃんせ」からはじまるが、何か落ち着かない。相方の透き通った、歌声が、
いい感じの通りゃんせ。
予定ではそのあとすぐ、ギターであったが何をおもったのか、わたくしは、琴を持って弾き始めて相方はぶんむくれ。キーが違うので歌えない。
ぶんむくれの顔、証拠が残っている。とはいいつつ、きちんと歌いきっている。凄い!
何故緊張したのかというと、会場で子供達が走り回って、キャーキャー騒いでる。壁のあるところに貼り付いて、鬼ごっこをしている。
純粋無垢な所作がたまらない。ただしコンサートの最中である。
自然のワイルドな子供達は手におえない。心のまま、あるがまま、然。
静かな曲をやっていようが、いまいがおかないまし、この姿がとっても愛おしい。
たまらなく、愛おしい。しかし、演奏者としては困る。
相方のぶんむくれとの対比がたまらない。
しかし、オーディエンスは静観。
まさか、そんな事情でぶんむくれているとは思ってない。ぶんむくれているとも思ってない。
やはり、どちらもたまらなく愛おしい。
このあとどうなるのかは少し心配げではある。
むしろ、子供達をなだめていると、私が琴をもったまま祝詞をあげる、、、
祝詞とは、正式には、祭祀にあたって神前で唱える詞章。
特別な発声方がある。
声の大きさと、わけのわからない雄大さに子供達が静まりかえった。
多分、子供達の気持ちになると、世にも奇妙な雄叫び、見たことない動物の鳴き声、、、
前の席にはりつくようにやってきた。興味津々。
このおじさん。いや、おじいさんは何、誰、ほんとに人間なの?動物なの?
子供たちが、微笑んだ!
純粋な魂の琴線にふれた!
間髪を入れずにギターに持ち変えて楽曲 水俣の四季
メロディカルでクラシカルな演奏。子供たちは、もう、ダンボのように聞き耳がたっている。
子供達の背筋が伸びた。
水俣の四季とは、、、水俣の春夏秋冬 折々の四季をインスツルメンタルで、表現した楽曲。、
会場は、一つの方向に向かい始めた
石牟礼道子さんの詩の朗読 歌。
そして、
竹で創った楽器を全員で叩く。
なんの躊躇いも、恥じらいも、なく
丸裸の心で、大人も子供も
老若男女
思い切り
力の限り
叩きまくる
吠えまくる。
もっと、もっと、
魂が震える。まるで、魂の綴らおりだ。
会場が、一つになった。
水俣のあったかい人間味に、支えられて一つになった。
見れば、子供たちは、正座している。
そして、おじいちゃんが
大変だと思って、お水を持ってきてくれた。
なんて、優しいんだろう。
子供の心は、大人の心。
水俣の人々の良心に感謝。
ここから、確実に何かが、始まる。
高谷秀司(タカタニ ヒデシ)
日本を代表するブルース ギタリスト
渡米後、ラリー・カールトン、デューク・ジョーダンらと共演。
人間国宝 山本邦山とのユニット「大吟醸」やデビッド・マシューズとのアルバム「G2 NewYork Recordings」など幅広く活動。
2015年、邦山の意志を継承し、日本古来の美を表現したユニット「How Zan」を結成。