Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

五感を研ぎ澄ます紳士

第9回 男の料理

父のオリジナルカレー

 

元旦の朝、ふと父の料理を思い出した。

我が家のお正月は、毎年たくさんのお客さまで賑わった。

友人や親戚が次々に訪れ、家中は笑い声や話し声であふれ返り、

子ども心にそれはとても楽しい時間であり、何より嬉しかったのはお年玉がたくさんもらえることだった。

父や母のお客さまが和やかに談笑する中、

私は少しでも母を手伝いたいという想いから台所でおせちやお菓子をつまみながら年始の特別な空気を味わっていた。

 

その一方、母は休む間もなく台所に立ち続ける。

年末になると、大掃除やおせち料理の準備で家全体が慌ただしくなる。

私は長女だからという理由で、あれこれ手伝わされる。

掃除をしても、料理を手伝っても、母の動きは止まらない。

そんな中で、私にとって小さな楽しみがひとつあった。

それが父の特製カレーだった。

手動で父のオリジナル調合のスパイスを入れ、すり鉢で丁寧に潰していく過程が大切だという。

 

父は料理上手で、年末の台所の片隅で何食わぬ顔をして大鍋に火を入れる。

その様子は静かで、でもどこか誇らしげで、子ども心に「父の時間」という特別な空間だと感じていた。

私の役目は、スパイスの調合を手伝うことだ。

とはいえ、どのスパイスをどれだけ入れるかはすべて父が決めるので、私はただすり鉢を支えるだけ。

父は手動のすり鉢にこだわり、一種類ずつ丁寧にすり潰していく。

その香りは鼻をくすぐり、目の前の作業に集中していると、思わずくしゃみや涙が出そうになる。

私は鉢を支えながら父の手元を見つめ、何十種類ものスパイスが混ざり合う瞬間を心に刻んだ。

全てのすり潰したスパイスを混ぜ合わせる。

そしてスパイスを水で溶いていく。

 

さらに大量の玉ねぎのみじん切り作業も、父と二人で行った。

玉ねぎを切るたびに涙が止まらない。

しかし、父と顔を見合わせて笑いながら料理をする時間は、今思えば何より特別だった。

父のカレーは、三が日に訪れるお客さまのために、なんと35リットル以上の大鍋で作られる。

材料は玉ねぎと牛肉が中心で、あとはスパイスだけ。

それでも二日間かけてじっくり煮込むことで、

サラサラしながらも深い甘味とコクを生み出し、何度でも食べたくなる味になるのだ。

大量の玉ねぎをみじん切りにするのが大変な作業。そしてその玉ねぎを飴色になるまで焦がさずに炒める。

 

「なぜお正月にカレーなの?」と尋ねると・・・

父はにこやかに答えた。

「おせち料理は新しい年を祝い、神さまに感謝をささげるための料理で「御節供」と言い、めでたい事を重ねるという意味があり重箱に詰めるんだ。又、保存がきくようなお料理で、主婦が三が日だけでも台所から解放されるための工夫もある。そして、お正月はおせち料理という概念はあるけれど、年始にいらっしゃった来客にはちょっとしたサプライズがあってもいいだろう?」と。

子ども心に、なるほど、と思った。

父は、単に美味しい料理を作るだけでなく、家族や来客を喜ばせることを考えていたのだ。

 

父のカレーには味だけでなく深い意味があった。

嫌いな人が少ないカレーを、感謝の心を込めて作り、家族やお客さまをもてなす。

二日間煮込むことで味が熟成し、食べる人の心を温める。

これはまさに父ならではの「おもてなし」の精神だった。

父は「ふるまう」とは「もてなす」という意味で、

そしておもてなしとは、表と裏がない心で接するという意味でもあり、

心を込めてお客さまを遇することが大切だと教えてくれた。

その精神は、日本特有の「まごころ」に通じ、

相手への敬意と感謝の心が、料理を通して自然に伝わることを示していた。

父オリジナルカレーの完成だ。

 

今も私は、父のレシピを盗み書きし自分なりに作っている。

カレーを作るたびに、あの台所で父と過ごした時間、涙と笑いが入り混じった玉ねぎのみじん切りの思い出が蘇る。

あの大鍋の向こうで、父が静かに鍋をかき混ぜる姿や、台所に漂うスパイスの香りまでもが心に残る。

そして、このカレーを囲むことで、家族や友人に感謝の気持ちを伝え、心を込めたおもてなしの意味を改めて感じる。

五感で感じ、心で楽しむ。

父の料理の魔法は、いつまでも私の中で生き続けているのだ。

台所での何気ない会話や香り、笑い声が、私にとって最上の贈り物だった。

 

五感で心を動かすそんなかっこ良い『男の料理』を是非味わいたい。

鈴木 三月 Yayoi Suzuki

東京都出身。 
パリソルボンヌ大学、Institute Catholique大学短期留学後、
パリプレタポルテ・オートクチュール協会日本事務所入社。
その後(株)エルカ入社KENZOのレディースPR担当として働く。
1991年 日本におけるアタッシェ・ドゥ・プレスの先駆けとして(株)パザパを設立。
ヨーロッパのファッションブランド
のPRを主に手掛けるとともに、髙田賢三氏本人からの依頼によりKENZO PARISの日本におけるブランドPR及び髙田賢三氏本人のパーソナルマネージメントをスタート。
又、その後㈱パザパの業務は、ファッションに留まらず、美容・レストラン等衣食住を中心とした業務へと活動の幅を広げる。 
2000年 髙田賢三氏の共同経営者として(株)KENZO TAKADAを日本に設立。 
2011年(株)パザパを、(株)セ・シュエットに社名変更(パザパはPR事業部として存続)。
2013年 調理師免許取得後、フードアドバイザーの仕事をスタート。
各種イベントにおけるケータリング等開始。
2014年よりWEB SITE 『Minimalize+plus』でレシピを公開。
2020年10月、SHOP CHANNELにて自身のウィメンズのブランド・ミニマライズ+プラスをスタート
2023年2月 「髙田賢三と私」を出版。                                                著書を出版後、髙田賢三氏のご功績とお人柄を多くの方に伝える為、又次世代を担う若者及びアーティストの方々に向けて講演活動やラジオ出演をスタート。
WEB SITE Minimalize+Plus https://minimalize-plus.tokyo/
著書『髙田賢三と私』 https://bookpub.jiji.com/smp/book/b621530.html
Minimalize+plus/SHOP CHANNEL https://onl.bz/QeNN3vR
Instagram https://www.instagram.com/yayoi_suzuki_/?hl=ja
FB https://www.facebook.com/yayoi.suzuki.146
X https://x.com/yayoisuzuki
【講演会】
姫路市主催・姫路城世界遺産登録30周年記念事業/公益財団法人神戸ファッション協会主催ファッションスペシャルステージ/名古屋音楽大学ヴォーカルアカデミー2024/たまがわLOOP世界に誇る日本人デザイナー髙田賢三/文化服装学院 世界に誇る日本人デザイナー髙田賢三の偉業/アクリエひめじマダムバタフライ・衣裳に秘めた想い 髙田賢三/実践女子大学・駒沢大学「アタッシェ・ド・プレスの視線」
【ラジオ出演】
渋谷のラジオにゲストに2回出演
https://note.com/shiburadi/n/n7e237019e8be

渋谷ラジオ“ウラハラプロジェクト”第23回”賛同人トーク“』にゲスト出演
https://qr.paps.jp/SDO3M
オンラインラジオ 「渡辺喜子(YoshikoLee)の風」に計3回ゲスト出演
【前編】ファッション界に与えた影響https://stand.fm/episodes/67a5a103cc7911f191c5ec7c
【後編】プライベートについてhttps://stand.fm/episodes/67a5b229b882aa4964b92efe
【特別版】みんなが知らない裏話https://stand.fm/episodes/67aac24d0ecf095805085de0

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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