Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

できる紳士のスーツの知識

第3回 スーツ細部の仕様

① ラペルの基礎知識

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スーツの襟は、一般的にふたつの部分でできています。上のほうをカラー(上襟)と言い、下の部分をラペル(下襟)と呼んでいます。
ラペルとは何か?
これは日本のテーラー用語で「折り襟」とか「返り襟」という言葉があるように、本来「折り返した部分」を表しています。

では何を折り返したのか?
詰襟の学生服を思い出してください。子どものころ、この第1ボタンを外し、詰襟ごとガバッと折り返して「背広!」などとふざけて遊んだことはありませんでしたか?
すなわち、この折り返した下の部分がラペルということになるのです。つまり、スーツは元々立ち襟の軍服などを原型に生まれたもので、スーツ(背広)とは「折襟の服」であることをもって定義するという話もあるのです。すなわち、ラペルは「背広襟」のことであると言ってもいいでしょう。

そして、カラーとラペルをつなぐ線をゴージラインと呼んでいるのですが、このゴージとは「喉(のど)」の意味。つまり、喉のまわりをぐるりと取り巻く線のことをゴージラインと言うのです。

ここまでくればラペルの上部に見える穴が何であるかは、すぐに分かることでしょう。これはつまり立ち襟上着の第1ボタン穴の名残りであって、現在ではこれをラペルホール(襟穴、返り穴)と呼ぶほか、花を飾ることからフラワーホール、またフランス語でブトニエール(ブートニエール=英語ではボタンホールの意)などとも呼んでいます。
上等なスーツにあっては、ラペル裏の襟穴の下部に小さな糸飾りの付くことがありますが、これはチーループと言って、飾った花の茎を留める役割を持っています。パリの有名な紳士服飾店「アルニス」にあっては、ここに水を入れる小さな花瓶のようなものを取り付けたと言いますから、驚くほかありません。
ラペルホールは上着がシングルブレステッド(片前)であれば、左側のラペルにひとつだけ付けられ、ダブルブレステッド(両前)の上着だったら左右のラペルに付くのが原則とされることも、これで理解できるはずです。

さらにもうひとつ、ゴージ(襟刻み)ラインは時代の感覚によって上がり下がりすることがありますが、いずれにしてもこれの延長線が首元の中心で合わさるのが正しい形とされていますので、これも覚えておくとよいでしょう。
ちなみに現在は圧倒的に高い位置に付くハイゴージの時代で、ゴージラインの角度が下がるローゴージ・ラペルは古臭く感じられることがあるので、注意してください。

《ラペルの種類》

ラペルは基本的に幅7.5〜8センチほどのレギュラーラペルを中心として、これより狭くなるとナローラペル、広いとワイドラペルということになります。
60年代の終わりごろには幅15センチほどのスーパーワイドラペルが流行したこともありますが、21世紀の現在ではエディ・スリマンの超ナローラペル・スーツの登場以降、狭めのラペルが流行となっています。

また、スーツラペルは片前型に特有のノッチト・ラペル(菱襟)と、両前型に特有のピークト・ラペル(剣襟)のふたつに大別されます。この応用型として、セミノッチト・ラペルとセミピークト・ラペルがあり、ともに下襟の先端の上げ下げによって判断されます。
シングルブレステッドのスーツにピークト・ラペル(DBラペルとも)を使用しないこともありません。

また、トラッドスーツに見られる段返りの襟はローリングダウン・ラペルと言い、昔のダブルブレステッド・スーツに見る長く折り返った襟はロングロールとかロングターンなどと呼ばれています。

その他、変わったデザインの襟型をファンシーラペルと総称していますが、これらのほとんどは60年代に流行したコンポラ(コンテンポラリーモデル)スーツに見られるもので、次のような種類があります。こうしたものをビジネススーツに用いるのは避けたほうが賢明でしょう。(イラスト参照)

◦Lシェイプト・ラペル
◦Tシェイプト・ラペル
◦クローバーリーフ・ラペル(フラワー・ラペル)
◦フィッシュマウス・ラペル
◦セミクローバー(リーフ)・ラペル
◦セミクローバー(リーフ)・カラー

② ポケットの基礎知識

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スーツの上下に付くポケットの数を数えたことがありますか? スーツには実に多くのポケットが付けられていることに驚かされることでしょう。
ポケットは、すなわち衣類に付く物入れ袋の総称。英語でポケット、フランス語でポッシュ、イタリア語でタスカ、ドイツ語でタッシュと言い、日本の古いテーラー言葉では「隠し」などと申します。

《スーツ上着のポケット》

まずスーツ上着のポケットから見ていくと、最初に「胸ポケット」に気づきます。これを英語ではブレストポケットあるいはチェストポケットと呼び(ブレスト、チェストともに胸部の意)、ときにトップポケットとも言います。これは一般に「箱ポケット」と呼ばれるウエルトポケット仕様の「切りポケット」になっています。

胸ポケットは両端が水平に取り付けられるのが普通ですが、中には内側に向かって傾斜をつけたデザインも見られ、こうしたものをバルカポケットとかフランス語でポッシュ・バトーとも呼んでいます。バルカはイタリア語で「小舟、ボート」を意味し、バトーもまた「ボート」の意味ですから、ともに「ボート型ポケット」を表しています。

上着の脇ポケット(腰ポケット)はサイドポケットとかウエストポケット、あるいは胸のトップポケットに対してローワーポケット(下部のポケットの意)とも呼ばれ、一般にフラップポケット(雨ぶた隠しの意)の切りポケット仕様になったものが多く見られます。
これにも水平型だけでなく、斜め型にデザインされたものがあり、これをアングルドポケットとかスランテッドポケット(スラントポケット)、またオブリークポケットなどと呼んでいます。

また英国調のスーツにあっては、右側サイドポケットの上部に小さなフラップポケットが設けられることがあり、これはチェンジポケットあるいはチケットポケットと言います。言うまでもなく、小銭や切符を入れるためのポケットというわけです。ちなみにサイドポケットの内側に付けられる小さな袋をチェンジポケットと呼ぶこともあります。

こうした衣服の表側に付くポケットを「アウトサイドポケット」と総称するのに対して、内側のポケット、すなわち内ポケットは「インサイドポケット」あるいは「インナーポケット」と総称されます。日本語では「内隠し」という言葉がありますが、これには左右に付く大きな内ポケットのほかにタバコ入れ用や最近では携帯電話収納のための内ポケットも設けられるようになってきました。

《スラックスのポケット》

スーツ下としてのズボンのポケットを代表するのは、脇ポケット(サイドポケット)と尻ポケット(ヒップポケット、リアポケット、ピスポケ)のふたつです。

脇ポケットは、縫い目に沿って垂直に開けたスラッシュポケット(バーティカルポケット)と前傾型のフォワードポケットの2種が代表的です。
このほかに、ときとしてウエストバンド右前部の下に小さなポケットが付くこともあり、これはフォブとかフォブポケットなどと呼ばれます。昔、ここに懐中時計をしまったことからきたものです。

尻ポケットをピスポケと言うのは、ピストルポケットからきたもので、これもその昔、ここにピストルを差し込んだことからの名残りなのです。

その他スリーピーススーツに付くベストにも多くのポケットが見られますが、これらは小型であることから、小さなポケットを意味する「ポシェット」と呼ばれることがあります。

《ポケットの大分類》

ポケットには大きく分けて、表地に切込みを入れて袋付きとする「セットインポケット」(スリットポケット=切りポケット)と、表地に貼り付ける形にした「パッチポケット」(貼りポケット)の2タイプが挙げられます。

パッチポケットは別にアウトポケットとかセットオンポケットなどとも呼ばれ、基本的にカジュアル向きのポケットデザインとされます。したがって、ドレッシーなビジネススーツにはセットインポケットを用いるのが原則とされるのです。
妙に凝ったデザインのポケットやゲームポケットなどアウトドアウエア向けのポケットを、ビジネススーツに用いるのは避けるべきでしょう。

《その他のスーツ用ポケットの種類》

ウエルテッドポケット=ウエルトポケットとも。縁飾りの当て布(ウエルト)を付けたポケットのことで、俗に「箱ポケット」の名称で知られます。

パイピングポケット=パイプトポケットとも。玉縁ポケット。ポケットの口に玉縁飾りをあしらったポケットのことで、その形状によって両玉縁(ジェッテッドポケット、ダブルパイピングポケット)、片玉縁、剣玉縁、南京玉縁、揉み玉縁などの種類があります。

パッチ・アンド・フラップポケット=フラップ・アンド・パッチポケットとも。フラップ(雨ぶた)付きのパッチポケットのことで、封筒に似ているところからエンベロープポケットとも呼ばれます。

オープンパッチポケット=ポケットフラップの付かない全くの貼り付け式ポケットで、フラップレス・パッチポケットとかプレーン・パッチポケットとも呼ばれます。本格的なブレザーではスリーパッチポケットと言って、胸ポケットも含んで上着の3つのポケットが全てこの仕様になっております。

③ ベントの基礎知識

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辞書を調べてみれば分かるように、ベントには(壁などの)穴、開孔、通気孔、抜け口、また排気装置などの意味があります。
これが衣服の場合には、ジャケットやコートなどの裾に付けられた割れ目の意味に転じ、さまざまな形を生み出すことになります。

日本の古いテーラー用語では「ぶっさき」と呼ばれたことがあるようですが、これは「打裂羽織(ぶっさきばおり)」からきたもののようで、昔の武士が用いた乗馬・旅行用などの羽織の背縫いの下半分を縫い合わさず裂けたままになっていたところからの名称と思われます。

ベントと似て非なるデザインにスリットがありますが、スリットは単なる割れ目で、布が重ならないものであるのに対し、ベントは布が重なっているところに大きな違いがあります。ちなみにスラッシュは横方向の裂け目を指して言います。
また、日本では一般にベンツと呼ぶことが多いのですが、これはベントの複数形からきた呼称。したがってサイドベンツを除いてはベントと発音するのが正しいことになります。

《ベントの種類》

センターベント=背中のセンターシーム(中央縫い目)の下部が開いてできたベント。ごく一般的に見られるもので、流行により深くなったり浅くなったりします。このうち深くなったものを「ディープセンターベント」と言います。日本のテーラー用語では「馬乗り」と呼んでいますが、これはその昔、英国人が乗馬の際、ハッキングジャケット(乗馬服)の裾を割って乗りやすくしたことに始まったとされます。ベントの目的は、第一に着やすく動きやすくという機能面からきているのです。

サイドベンツ=背中の両脇裾の縫い目を割ったもので、ウエストシェイプの強い英国調の端正なスーツ、あるいはコンポラなどのファッション的なスーツに多く用いられます。日本では「剣吊り」と呼ばれますが、これはその昔、サーベルを下げるのに便利なように両脇を開けたことに由来します。ベントの中でもこれに限って「ベンツ」と複数形で呼ぶのが正しく、ほかにダブルベンツとかツインベンツとも呼ばれます。サイドベンツを採ることによって、Xラインの形がより美しく表現されることになるのです。

フックベント=フックトベントとも。フック(鉤=かぎ)の形を特徴としたセンターベントのことで、センターフックベントとかフックトセンターベントとも呼ばれます。日本では俗に「鉤形ベンツ」「鉤ベンツ」また「フックベンツ」などと言い、モーニングコートやアイビーリーグモデルのスーツに特有のデザインとして知られます。ベントの中ではクラシックな形に属します。

ベビーベンツ=ごく浅い飾り用のサイドベンツで、ミニサイドベンツとも呼ばれます。機能と実用というベント本来の目的で付けられるものではなく、まったくの飾りとされるのが特徴で、60年代に流行したコンテンポラリーモデルのスーツ(コンポラスーツ)によく用いられたものでした。

ノーベント=ベントがない状態を指し、ウィズアウトベントとかベントレスなどとも呼ばれますが、日本では一般に「ノーベンツ」で通ります。運動量をそれほど必要としないジャケットなどに見られるもので、ほかにドレッシーな趣を特徴とするスーツなどに用いられます。ベントがないために背中がすっきり見えるところから、こうしたバックスタイルを「プレーンバック」とも称しています。

インバーテッドベント=切れ目を入れずに畳みヒダとしたベントの一種で、一般にはインバーテッドプリーツと呼ばれるほうが多いようです。インバーテッドは「逆」の意味で、つまりボックスプリーツ(箱ヒダ)の逆の形であることから、このように呼ばれているのです。レインコートなどに多く用いられるデザインですが、ごくまれにファンシーなデザイン仕様としてプライベート向きのスーツに採用されることもあります。

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1959年、百貨店初のプライベートブランドスーツとして誕生したトロージャンが生まれ変わります。
誕生から時を経て、今改めて本当に日本人にフィットするスーツとは・・・
体型はもちろん、時代と共に変化してきた働き方や価値観を反映し、今という時代に心地よくなじむ、男の仕事服へ。
肩書きやブランドではなく、世代を超えて自分らしさを纏うひとへ。
2015年 春。トロージャン、リ・デビュー。

取扱い店舗:
[大 丸] 心斎橋店・梅田店・京都店・神戸店・東京店・札幌店
[松坂屋] 名古屋店・上野店

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

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