Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

五感を研ぎ澄ます紳士

第10回 和の装いに宿る、引き算の美学

 

2026年元旦。

澄み切った冬の空気のなか、私は久しぶりに元旦の初詣へ向かった。

新しい年の始まりに、どのような装いで臨むべきか——それは思いのほか悩ましい問いだった。

晴れやかさは欲しい。

しかし気負いすぎてもいけない。

迷った末に選んだのは、過度に華美ではなく、かといって日常に流れすぎない、

静かな緊張感を残した控えめな装いであった。

 

境内に足を踏み入れると、まず目に入ったのはダウンコートの列である。

寒さの厳しい元旦、防寒は当然の備えだろう。

機能性を最優先にした現代的な風景。

その内側にどのような服が隠れているのかは想像するしかない。

かつて「晴れ着」が新年の光景を彩っていた時代を思うと、

着物姿の人がほとんど見当たらないことに、わずかな寂しさを覚えた。

私自身も和装ではなかったが、時代の移ろいを肌で感じた瞬間であった。

 

 

初詣は単なる外出ではない。

本来は神事であり、一年の計を胸に刻む厳かな時間である。

かつては男女ともに和装の正装で臨むことが自然だったに違いない。

生活様式が変わり都市の時間が加速するにつれて、

祈りの装いもまた実用へと傾いていったのだろう。

便利さと引き換えに、私たちは何かを手放してはいないだろうか。

 

そんな思索のなか、一人の男性が目に留まった。

羽織袴にマフラーを合わせた装い。

落ち着いたブルーの濃淡が境内の静寂と調和し、

過度な主張はないのに凛とした存在感を放っている。

背筋は自然に伸び、歩みは静かで、順番を待つ姿にも余裕がある。

その姿には、新年への敬意と、場への配慮が滲んでいた。

 

 

和の装いは、目立つための衣ではない。

装飾を重ねるのではなく、削ぎ落とすことで完成に近づく。

余分なものを取り去った先に、その人の本質が静かに浮かび上がる。

これこそが「引き算の美学」なのだと思う。

 

初詣の歴史を辿れば、現在の形が広まったのは明治以降とされる。

その源流は平安時代の「年籠り」にある。

家長が大晦日の夜から元旦にかけて氏神の社にこもり、

豊作や家内安全を祈願した風習だ。

やがて「除夜詣」と「元日詣」に分かれ、後者が今日の初詣へとつながった。

形式は変化しても、新年を寿ぐ心は千年の時を越えて受け継がれている。

 

着物を纏うと、不思議と身体の使い方が変わる。

歩幅は小さくなり、背筋は伸び、手を差し出すときには袂をそっと押さえる。

その所作は窮屈さではなく、内面を整える静かな導きである。

装いが感性を整え、感性が振る舞いを整える。

そこには、外見と内面が響き合う日本独自の美意識が宿っている。

 

着物は、日本文化の粋を凝縮した存在だ。

非日常の気配をまといながら、静的な力強さと余裕を併せ持つ。

格式や神秘性、誠実さを映し出し、

日本人としてのアイデンティティを雄弁ではなく静かに語る衣。

世界に誇るべき、日本のオートクチュールと言っても過言ではないだろう。

新年の澄んだ空気のなかで、私は改めて思う。

装いとは単なる外見ではなく、心の姿勢そのものであると。

削ぎ落とすことで立ち現れる美。

和の装いに宿る引き算の美学は、

これからの時代を生きる私たちにこそ必要な感性なのかもしれない。

鈴木 三月 Yayoi Suzuki

東京都出身。 
パリソルボンヌ大学、Institute Catholique大学短期留学後、
パリプレタポルテ・オートクチュール協会日本事務所入社。
その後(株)エルカ入社KENZOのレディースPR担当として働く。
1991年 日本におけるアタッシェ・ドゥ・プレスの先駆けとして(株)パザパを設立。
ヨーロッパのファッションブランド
のPRを主に手掛けるとともに、髙田賢三氏本人からの依頼によりKENZO PARISの日本におけるブランドPR及び髙田賢三氏本人のパーソナルマネージメントをスタート。
又、その後㈱パザパの業務は、ファッションに留まらず、美容・レストラン等衣食住を中心とした業務へと活動の幅を広げる。 
2000年 髙田賢三氏の共同経営者として(株)KENZO TAKADAを日本に設立。 
2011年(株)パザパを、(株)セ・シュエットに社名変更(パザパはPR事業部として存続)。
2013年 調理師免許取得後、フードアドバイザーの仕事をスタート。
各種イベントにおけるケータリング等開始。
2014年よりWEB SITE 『Minimalize+plus』でレシピを公開。
2020年10月、SHOP CHANNELにて自身のウィメンズのブランド・ミニマライズ+プラスをスタート
2023年2月 「髙田賢三と私」を出版。                                                著書を出版後、髙田賢三氏のご功績とお人柄を多くの方に伝える為、又次世代を担う若者及びアーティストの方々に向けて講演活動やラジオ出演をスタート。
WEB SITE Minimalize+Plus https://minimalize-plus.tokyo/
著書『髙田賢三と私』 https://bookpub.jiji.com/smp/book/b621530.html
Minimalize+plus/SHOP CHANNEL https://onl.bz/QeNN3vR
Instagram https://www.instagram.com/yayoi_suzuki_/?hl=ja
FB https://www.facebook.com/yayoi.suzuki.146
X https://x.com/yayoisuzuki
【講演会】
姫路市主催・姫路城世界遺産登録30周年記念事業/公益財団法人神戸ファッション協会主催ファッションスペシャルステージ/名古屋音楽大学ヴォーカルアカデミー2024/たまがわLOOP世界に誇る日本人デザイナー髙田賢三/文化服装学院 世界に誇る日本人デザイナー髙田賢三の偉業/アクリエひめじマダムバタフライ・衣裳に秘めた想い 髙田賢三/実践女子大学・駒沢大学「アタッシェ・ド・プレスの視線」
【ラジオ出演】
渋谷のラジオにゲストに2回出演
https://note.com/shiburadi/n/n7e237019e8be

渋谷ラジオ“ウラハラプロジェクト”第23回”賛同人トーク“』にゲスト出演
https://qr.paps.jp/SDO3M
オンラインラジオ 「渡辺喜子(YoshikoLee)の風」に計3回ゲスト出演
【前編】ファッション界に与えた影響https://stand.fm/episodes/67a5a103cc7911f191c5ec7c
【後編】プライベートについてhttps://stand.fm/episodes/67a5b229b882aa4964b92efe
【特別版】みんなが知らない裏話https://stand.fm/episodes/67aac24d0ecf095805085de0

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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