Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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紳士のためのエンターテイメント

「生誕150年記念 板谷波山の陶芸 近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯」 京都 泉屋博古館(せんおくはくこかん)

この器の色といい形といい、何と美しいのでしょう。その柔らかで上品な面持ちは人を魅了します。これは、「陶聖」と言われる陶芸家、板谷波山大正後期の傑作《彩磁草花文花瓶》です。

《彩磁草花文花瓶》大正後期 廣澤美術館蔵

秋の入り口の京都に、泉屋博古館を訪ねました。泉屋博古館は、京都の中心部から少し離れたところにあります。2つの建物があり、青銅器館から企画展が開催される建物に進む途中に中庭があります。山のすぐそばの美術館の庭には清々しい空気が流れ、外のベンチでおしゃべりをしている方たちが何組かいました。美術品を見て、自然の中でゆっくりとおしゃべりをする。そんな豊かな時間を過ごすことができます。

青銅器を常設として、企画展は生誕150周年の板谷波山です。波山のファンが多いのでしょうか。多くの来館者が見受けられました。

板谷波山は、明治5年生まれ。昭和28年には陶芸家として初めて文化勲章を受章しています。

東京美術学校(現在の東京藝大)を卒業したのち、金沢の石川県工業学校の教師をしていましたが、31歳で辞めて陶芸家として独立します。しかし、資金がなくて窯もつくれず、家族がいるのにその日のご飯にも事欠くほど。窯ができた後も、完璧主義のため理想の作品でなければすべて壊し、いっさいの妥協を許しません。叩き割られた累々と積み上げられた陶片がその思いを物語っています。また、彼の陶芸技術が大変難しかったため作品点数が少ないとも学芸員の方から伺いました。

作品の色合いから感じられるのは優しいお人柄ですが、自分に対して厳しく、しかし実はユーモアあふれるお茶目な方だったのだそうです。

《彩磁金魚文花瓶》1911(明治44)年頃 筑西市(神林コレクション)蔵

岡倉天心、高村光雲を師に、美を極めていった波山。

19世紀後半、それまで分業制が当たり前だった陶芸の世界で、個人の陶芸家として歩み始めました。そうした中、西欧で流行していたアール・ヌーヴォーの意匠を研究し、西欧渡来の釉や顔料の実用化にとりくみ、それまでの常識を打ち破って本格的な高火度焼成の窯で磁器に挑戦します。日本陶芸界のアヴァンギャルドとして、造詣や意匠の革新者として、波山は注目され始めます。

素地に彫刻刀で文様を彫刻し、釉の下に絵付けをする「彩磁」をほどこし、それまでになかった新たなスタイルを誕生させました。さらにそこから薄絹をかぶせたような「葆光彩磁」へと表現の幅を広げ、深みと幽玄な美の世界を表現します。

「波山の「釉薬調合帳」によると、明治40年頃にすでにマット系の釉の調合実験が行われており、大正4年頃にはマグネサイトを使った「葆光釉」に改良が加えられる。大正中期に、波山の「葆光彩磁」はほぼ完璧の仕上がりをみせていた。「葆光彩磁」の傑作は大正中期から後期、さらに昭和初期にと軒並み誕生していく。」(荒川正明「板谷波山の陶芸―すべては美しく、やきものを生むために―」『没後50年 板谷波山展』展覧会図録、毎日新聞社、2013年)とあるように、大正中期から昭和初期にかけてのわずかな期間に誕生した「葆光彩磁」は、今も類を見ません。その存在感は、際立ち、他を寄せ付けない美しさを放っています。

《彩磁更紗花鳥文花瓶》1919(大正8)年頃 泉屋博古館東京蔵

「生誕150年記念 板谷波山の陶芸 近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯」京都 泉屋博古館

2022年9月3日~10月23日 次は11月3日から東京に巡回します。HP:https://sen-oku.or.jp/kyoto/

*2022年10月14日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます*作品写真提供 泉屋博古館(京都)

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

https://cross-over.sakura.ne.jp/

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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