Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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紳士のためのエンターテイメント

圧巻の演劇『スカイライト』の魅力

2年間、新国立劇場で芸術参与として活躍していた演出家・翻訳家の小川絵梨子が、2018年9月から演劇部門の新芸術監督に就任しました。「幅広い観客に演劇を届ける」「新たな演劇システムの実験と開拓」「国内外を問わず、横のつながり」という3つを掲げています。その小川芸術監督シーズンのオープニングを飾る3作品目、イギリス人劇作家デイヴィッド・ヘア『スカイライト』が始りました。この作品が、芸術監督になって初の演出作品です。

『スカイライト』は、2015年にトニー賞ベスト・リバイバル作品賞を受賞した傑作で、1995年の初演以来、名優、名演出家が携わってきました。出演は蒼井優、葉山奨之、浅野雅博の3人です。

撮影:細野晋司 公益財団法人 新国立劇場運営財団

 

劇場に入ると、すり鉢状の客席の中央に舞台があり、全方向から舞台が見えるつくりです。舞台には、ベッドやソファー、ダイニングテーブル、それにキッチンもあって、水が出て、火も使えます。話をしながら、器を洗い、お湯を沸かせば湯気が出るし、料理をすれば香りが立ちます。ここは、キラ(蒼井優)の住む、質素なアパートの一室です。

 

教師のキラが家に帰ると、時を同じくして、かつての不倫相手トム(浅野雅博)の息子エドワード(葉山奨之)が突然やってきます。1年前に妻を亡くした父親が、ずっとふさぎ込んでいて不安定だと救いを求めてきたのです。18歳の彼は、父親と大げんかをしてしまい家を飛び出したのですが、父親を「助けてほしい」と言い残して去っていきます。

数時間後、今度はトムが、別れてから初めて会いにきました。驚くキラ。トムは、なぜ突然出て行ったのかと彼女をせめます。そんなに自分が恋しいならどうして何年も訪ねてこなかったのかと、なじるキラ。

教師になって貧しい子供たちを救おうとしているキラと、レストランを経営する金持ちで保守的なトムは、話せば話すほど価値観が平行線であることが明確になってきます。

イギリスの階級社会、差別、そのことに対する思い。心はすれ違い、愛し合っているのに傷つけあい、妻への罪悪感からは抜け出せず、関係はギスギスして、ドンドンつらくなります。

撮影:細野晋司 公益財団法人 新国立劇場運営財団

トムが帰った後に、エドワードがキラにリッツカールトンの朝食を届けにやってきました。前に来た時に、キラに「何が一番恋しい?」と聞いたら「スクランブルエッグのある朝食」というのに応えて持ってきたのでした。

 

そう、何も理屈はいらない。これがほしいというものを目の前にそっと差し出す。それこそが優しさであり、見返りを求めない本当の愛なのだと涙が止まりませんでした。

 

最初、小川がこの作品を観た時、「こんな緻密な舞台を自分でつくるのは無理だ」と思ったそうですが、蒼井優に出会って「できるかもしれない」と話を進めていったのだとか。「戯曲から人間を立ち上げる」ことを最優先にしている小川は、私たちと同じ人間である登場人物たちを、いかに魅力的に息づかせるか、顔や生き方をくっきりと描くことが第一だとしています。

ヘアの戯曲には、言葉を交わすたびに動く感情や、すれ違いまで緻密に細かく指示されています。それを読み込みつつ、蒼井優は「これまでに演じたことのない関係性、女性像に取り組むことになりそうだ」と語っていました。

今まで私が思い描いていた蒼井優とは違う、彼女が見られました。葉山奨之も浅野雅博もよかった。緊張感のある2人の会話に観客は引き込まれ、自分のこととして捉え突きつけられます。向き合おうとしない自分、批評はするけど自らたいへんなところに足を踏み入れない自分に気づきます。

戯曲の機微を細やかに掬い取る小川演出を堪能させてもらいました。演劇の生の距離感は、他では味わえない喜びです。

 

新国立劇場『スカイライト』 2018年12月6日(木)から24日(月・休)まで。HPはコチラ 

*2018年12月8日現在の情報です。*写真・記事の無断転載を禁じます。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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