Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
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紳士のためのエンターテイメント

令和6年 国立劇場初春歌舞伎公演 「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」鶴ヶ岡八幡社頭の場

半蔵門の地を離れ、初めて初台の新国立劇場での公演となった国立劇場初春歌舞伎。義太夫狂言の古典の名作2本と、常磐津舞踊が披露されました。舞台の幅が少し狭くなりましたが、何とか工夫して花道も作ってありました。客席は階段状で見やすく、大向う(おおむこう)もいてくださるおかげで気分は最高です。

まずは、源平時代の武将・梶原景時(かじわらのかげとき)の話「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」鶴ヶ岡八幡社頭の場。舞台は、鶴ケ丘八幡宮の鳥居の前。紅白の梅の花が咲き、実に春めいたしつらえです。

大庭三郎景親(彦三郎)俣野五郎景久(萬太郎)兄弟、梶原平三景時(菊之助)といった平家方の面々が酒を酌み交わしていると、そこにやってきたのが、青貝師(貝細工の職人)の六郎太夫(橘三郎)と娘の梢(梅枝)。大庭がかねてから所望していた家宝の刀を買い上げてほしいと願い出てきたのでした。刀剣に目が利く景時に鑑定を頼むことに。ここで鑑定の作法をじっくりと拝見できます。手水鉢(ちょうずばち)で手を清め、言葉を慎み真摯に刀と向き合うため口には懐紙をくわえ、息や唾で刀身を汚さないようにしています。刀を検めると、それはそれは見事な名刀だということがわかりました。

大庭が言い値の300両(現在の3000万円ほど)を払おうとすると、俣野が試し切りをするようにと進言します。六郎太夫が人間の二つの胴をたやすく切れるという言い伝えがあると言ったため、死刑が確定した囚人を連れてくることになりました。ところがその日は一人しかいません。何とか刀を売りたい六郎太夫は、家に証明書があるからと娘に取りに行かせます。

実は、娘の夫は源氏に仕え軍資金が必要で、その金がないと娘は身売りをしなければなりません。そのため六郎太夫は、もう一人の斬られ役として自分を差し出すことにしたのでした。

梶原が斬り手を務めることになり、2人重ねて斬ることにしましたが、斬れたのは一人だけ。鑑定違いと2人の兄弟はあざ笑いながら去っていきました。梶原はあえて手加減をして斬ったのであって、まれにみる名刀であることに違いありません。命拾いした六郎太夫から自分がその刀を買いとることにしました。梶原は、刀の銘から親子が源氏のゆかりのものとわかったと語ります。自分は、頼朝を討とうとした時、大将の風格と優れた人格に身体がすくんでしまって討てなかった。心はかしづいている、心は源氏であると打ち明けます。そしてこの刀がどれほどの名刀か、手水鉢の石を真っ二つに切って、証明したのでした。

今回、思慮深く情けのある梶原を、菊之助が初役で挑みます。袴の金色の矢羽根の柄が見事です。岳父で2代目吉右衛門から受け継いだ初代吉右衛門の型で勤め、また生前彼が舞台で使用していた刀を受け継ぎました。初代吉右衛門の芸を守るために全身全霊をかけて芝居に打ち込んできた吉右衛門さん。型を継ぎ、道具を継承することで、吉右衛門の思いや教えを後世に伝えるお役目の重みを菊之助はしっかりと受け止めているようでした。

また、解説本の初めに鎌倉の鶴ケ岡八幡宮宮司の吉田茂雄氏の素晴らしい書がありますので、ぜひそちらもご覧いただきたい。お年玉のような「幸福」がきそうな書です。続きの演目は次回。

*写真はすべて提供:国立劇場 撮影:二階堂健 1月27日まで初台の新国立劇場で上演中 詳細はコチラHP

*2024年1月11日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

 

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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