Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のためのエンターテイメント

力のこもった「初代国立劇場さよなら特別公演」文楽 『曽根崎心中』

国立劇場の閉場に伴い「さよなら公演」が上演されています。19時から始まる夜の部・第3部では、人気演目『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』。台風来る金曜日の夜に伺ってきましたが、ほぼ満席という盛況ぶり。閉場だから最後に一目という観客たちの熱意からか、あるいはさよなら公演だから演者に力が入るからなのか、力のこもった舞台が上演されています。さらにお土産売り場では、すでに品切れしているものも。この人気と注目が消えないうちに、一刻も早い再開場を願います。

近松門左衛門の『曽根崎心中』は言わずと知れた心中もの。当時あった事件を即座に芝居にして好評を博しました。その後、心中事件が増え、上演されない期間が長く続きましたが、第二次世界大戦後に復活し現在に至ります。

生玉社前の段 (左)手代徳兵衛:吉田玉男 (右)天満屋お初:吉田和生

醤油屋の手代である色男の徳兵衛を吉田玉男、遊女お初を吉田和生(かずお)が使います。玉男は7月に人間国宝の認定について答申され、和生は人間国宝。見事な使い手です。お初は可憐で可愛らしく、徳兵衛はいい男で、2人が寄り添う姿は絵に描いたような美男美女ではありませんか。

生玉社前の段」蓮池があり藤の花がさいています。茶屋には「はすめし」という文字が書かれています。さて、徳兵衛は友人九平次にお金を貸したのですが、期日になっても返してくれず、督促すると借りた覚えはないと言う。印鑑が押された証文があるにもかかわらず、その印鑑はなくしたものだと言い張り、あろうことか徳兵衛が印を盗んで勝手に証文を作ったと、ひどい言いよう。悪者に仕立て上げられてしまいます。計画的に大金をだましとるような人間を友人だと思っていた徳兵衛は、自分の浅はかさを恨むほかありません。「潔白を証明するには死ぬしかない」と徳兵衛は決意します。

天満屋の段」堂島新地と曽根崎新地の間を蜆川が流れています。このあたり、菅原道真が好んで立ち寄ったということから、遊女屋の部屋の襖にも、のれんにも梅の花が描かれています。語りは、太夫の最高位である切(きり)場語りの太夫、竹本錣(しころ)太夫。大金をだまし取られ、商人の町で信用を失ってしまっては、もう生きるすべがありません。お初のいる天満屋の店先にやってきて「もう生きてはいられない」と告げるとお初は、打掛の裾に隠して徳兵衛を縁先に隠します。この打掛も着物の柄も梅の花。

天満屋の段 (左)徳兵衛:吉田玉男 (右)お初:吉田和生

そこにやってきた九平次は、徳兵衛の悪口を並べ立て遊女たちに言いふらします。歯がみする徳兵衛を、足元で制するお初。九平次の悪事を証明することもできず、2人は心中する覚悟を決めるのでした。死に装束に身を包んだお初は徳兵衛とともに出奔します。

天神森の段お初を竹本織太夫徳兵衛を豊竹睦太夫が語ります。夜明けが近づく天神の森の場面には、切々たる思いが満ちています。追い詰められた2人は究極の愛の形として心中を選びます。寂しさと哀しさと、いとおしさが胸に迫る幕切れです。

天神森の段 (左)徳兵衛:吉田玉男 (右)お初:吉田和生

竹本織太夫のインタビュー記事はコチラ

写真提供:国立劇場 撮影二階堂健 国立劇場『曾根崎心中』2023年9月24日まで 19時開演 詳細はこちらをご覧ください

*2023年9月10日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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