Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
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紳士のためのエンターテイメント

傑作ができあがりました 新国立劇場オペラ『シモン・ボッカネグラ』

大野マエストロ世界屈指のオペラ演出家で現在はエクサンプロヴァンス音楽祭総監督のピエール・オーディのオペラトークを聞いて、かなり期待値はあがっていました。そして迎えた本公演は素晴らしく、オペラ好きな方たちに「是非」とお勧めしたい作品に仕上がっていました。ヴェルディの隠れた名作『シモン・ボッカネグラ』は、新国立劇場では初上演。フィンランド国立歌劇場、テアトロ・レアルとの共同制作です。オーディは「この複雑な物語を、シンプルに上演するにはどうしたらよいかに注力した」と語っていました。この話を聞いて、ディテールにこだわらず、身をゆだねて観賞する作品なのだとわかりました。

まず、舞台が美しい。美術は、現代アートの巨匠アニッシュ・カプーア。演出家のオーディから「抽象的なこの作品は、アーティストの世界観があるほうがより忠実に再現できるのでは」と切望されて、チームに加わりました。ジェノバ国旗の赤と白、そして黒の世界ですべてを表現しています。抽象的な美術は、馴染むのに時間がかかることが多いのですが、あっという間に物語に引き込まれます。赤と黒の幾何学模様で表された港、天井から口を開けた噴火口は死の象徴であり女性の象徴でもあります。何を表しているのかを頭で考えずに、インスピレーションで受け止めます。

そして、そうそうたる歌手陣が揃いました。シモンは、ヴェルディ・バリトンのロベルト・フロンターリ。今回のアメ―リアは初役のイリーナ・ルング。フィエスコ役のリッカルド・ザンネラート、そして恋人ガブリエーレに力強く華やかな声を持つルチアーノ・ガンチ。私欲でシモンを総督に就かせ、アメ―リアに横恋慕するパオロにシモーネ・アルベルギーニ世界最高の歌手陣を集めるのも、相当、たいへんだったのではないかと推測されます。

オペラ『シモン・ボッカネグラ』は、実在した初代ジェノヴァ総督シモン・ボッカネグラが題材になっています。海賊だったシモン・ボッカネグラは、担ぎ上げられて総督になりますが、実は権力に興味がありません。総督になったのは、愛する人と結婚するため。ところが、その人は、総督になってすぐ死んでしまったのです。残された遺児は、行方不明になっています。14世紀のジェノヴァでは平民派と貴族派が対立し争いますが、シモンは平和を願います。縁とは不思議なもので、シモンの娘は自分の出自を知らないまま、引き寄せられるように亡き母の家を継ぎ、シモンの敵ガブリエーレと恋仲になっています。

シモンとアメ―リアは再会し、親子だということがわかり、2人は喜び合うのですが周りは誤解し、ガブリエーレは嫉妬します。シモンを総督に就かせたパオロは、アメ―リアと結婚しようと画策しますがそれが発覚しそうになると、シモンに毒を盛ります。毒が回ったシモンは、ガブリエーレに新総督を任せると言って、こと切れるのでした。

音楽は、極上の美しさで聴きどころ満載です。アメ―リアのロマンツァ『暁に星と海はほほえみ』、シモンとアメ―リアの二重唱、ガブリエーレのアリア「わが心に炎が燃える」、シモンのモノローグ「慰めてくれ、海のそよ風よ」・・。新国立劇場合唱団は定評がありますが、この舞台でも実に美しいハーモニーを聞かせてくれます。さらに大野マエストロの音楽が歌手たちの声を引き立て、すさまじい集中力で物語を牽引します。

このあと、このプロダクションはヘルシンキ、マドリードでの上演が予定されています。

実はこの日は、いま、大人気のサントリーウイスキー「白州」の醸造所VR見学会と試飲会「オペラとウイスキーを嗜むひと時」も開かれました。それについては、次の記事で。

新国立劇場オペラ「シモン・ボッカネグラ」残す所、あと2日 11月23日14時、26日14時 お見逃しなく。

*2023年11月23日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます。*写真はすべて撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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