Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
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紳士のためのエンターテイメント

北千住で国立劇場文楽公演「源平布引滝(げんぺい ぬのびきのたき)」竹生島(ちくぶしま)遊覧の段、九郎助住家(くろうすけ すみか)の段

若手と中堅が活躍する12月は、全部で11公演。14時からの昼の部はあっという間に満席となったようです。北千住の駅前のビルにある「シアター1010」では初めての国立劇場文楽公演となりました。駅に直結するビルなので、寒くても雨が降っても楽に移動できるのは、ありがたいところ。この劇場ができた当初、当時館長だった脚本家の市川森一さんに依頼され、舞台美術家の朝倉摂さんのトークショーの司会をさせていただいた私にとっては、思い出の場所でもあります。

この物語は、『源平盛衰記』『平家物語』などを題材につくられた文楽の名作の一つです。上演に入る前に、これまでの筋書きを読むと・・。源氏の木曽義賢(よしかた)は、身重の夫人・葵御膳を琵琶湖に住む百姓一家・九郎助に預けます。源氏の魂ともいえる白旗は九郎助の娘・小まん(こまん)に託されますが、平家の侍に追われ、琵琶湖に飛び込み泳いで逃げようとするのですが・・・。

「竹生島遊覧の段」は、全五段の内の三段目。

(左)斎藤実盛:吉田玉志 (中央)娘小まん:吉田清五郎 (右)飛騨左衛門:桐竹紋吉

近江八景を借景に、琵琶湖に浮かぶ御座船に乗るのは、平清盛の三男平宗盛、供をする飛騨左衛門、そして実盛(さねもり)です。実盛は平氏一門からの信頼は厚いのですが、元は源氏方だった人物。そこに、小まんが泳いで息も絶え絶えになって近づいてきます。助かったと思いきや、そこは平氏の船の中。飛騨が白旗を奪おうとしたその時、実盛は小まんが白旗を握りしめていた右手を切り落とします。小まんは腕もろとも湖の藻屑となってしまうのでした。

「九郎助住家の段」

葵御膳をかくまっている九郎助の住まい。九郎助と孫の太郎吉は、人の腕が網にかかったと持って帰ってきます。そこに登場するのは、この家にお尋ね者がいるという訴えを聞いた、実盛と瀬尾十郎(せのお じゅうろう)。赤子が男なら殺すためにやってきたのでした。ところが、抱いてきたのは人の腕。「腕が生まれることもある」と実盛は、瀬尾に言い放ちます。

瀬尾が去った後、実盛は九郎助たちに小まんとの一件を語ります。折しもそこに、漁師に探し当てられた小まんの亡骸が運び込まれてきました。娘を亡くし、母を亡くした家族の悲しみは計り知れません。魂がまだあるかもしれないと、腕を身体に繋げてみると小まんは一瞬息を吹き返し、息子・太郎吉に「言いたいことがあった」とだけ言ってこと切れます。九郎助は、小まんが実は捨て子で、一緒に置かれていた合口に平家の娘と書かれてあったと明かすのでした。

斎藤実盛:吉田玉志

そうしたとき、葵御膳は、後の木曽義仲を産み落とします。実盛は、命に代えても白旗を守った小まんの忠義に報いるため太郎吉が若君の家来になれるようにとりなします。しかし出自が平家と分かったからには、成人して功を立ててからと葵御膳が言います。

そこに、生まれたばかりの若君を奪おうと隠れていた瀬尾が踏み込んできて、小まんの亡骸を蹴飛ばす様子を見た太郎吉は、怒り心頭し瀬尾を母の形見の合口で刺します。すると瀬尾は、小まんの実の親で、捨てざるを得なかった過去を語ります。孫に手柄を立てさせるために自らの命を捧げたのでした。

(左)倅太郎吉:吉田玉彦 (右)瀬尾十郎:吉田玉助

平家の名匠を討ち取った功労により、太郎吉は若君の家来となります。太郎吉は母の仇である実盛に勝負を挑むのですが、実盛は、太郎吉が成人になる頃、改めて相手になると誓います。その時に、自分が老人になって誰だかわからなくならないように、髪を染めて戦場に出ることを約束するのでした・・・。

小まんの亡骸と腕を繋げる場面では、健気な小まんに「お願いだから、生き返ってほしい」と願い、最初は何て憎らしい奴なんだろうと思っていた瀬尾の心情を知ると彼の親心に胸が熱くなりました。さらには、実盛が髪を黒く染めて出陣し討たれる有名な場面が、親の仇がわからなくならないようにとの配慮からだったことに深い愛情を感じたのでした。『平家物語』「実盛最期」でよく知られる所です。

芸は舞台で磨かれるもの。文楽のこれからを担う方たちに拍手喝采です。ご活躍を心から応援したいと思います。

12月文楽公演詳細はコチラをご覧ください。

*2023年12月9日現在の情報です*写真はすべて提供:国立劇場 撮影:田口真佐美 記事・写真の無断転載を禁じます。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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