Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のためのエンターテイメント

年に一度の「出石(いずし)永楽館 歌舞伎」 毎年、愛之助さんが出演しています

「昔の芝居小屋はこんな感じだったのね」と、一気にタイムスリップできる近畿最古の芝居小屋、兵庫県豊岡市の「出石永楽館」。兵庫県の有形指定文化財で年に一度だけ歌舞伎の興行があります。以前、この芝居小屋を見学してからというもの、一度は見て見たいと願っていた歌舞伎を今年は楽しむことができました。夢のようです。

提供:松竹株式会社

 

2階席も含めて368席の劇場は、役者の衣擦れの音まで聞こえてきます。

小屋の歴史が演者を称え尊敬し、観客も含めて小屋全体が喜びに満ちた空気にあふれ、他では味わえない唯一無二の時を過ごさせてくれます。それに、歌舞伎を見てこんなに大笑いしたのも初めて。

 

「永楽館」は明治34年に開館し、歌舞伎や新派、寄席などが上演され、大衆文化の中心地として栄えていました。その後、時代の変化にあわせて映画上映館となり、昭和39年に閉館してしまいます。時は流れ、地元の人たちから永楽館を復活させたいという声があがりはじめ、約20年間復元に向けた活動が続きます。その間も、ずっと持ち主が「壊したくない」という強い思いを持ち続けてくれたおかげで市に寄贈され、平成20年に大改修が無事に済み44年の時を経てよみがえりました。

解体して組み立てなおす作業は、それはそれはたいへんだったそうです。永楽館復興の話はまた後日!

 

さて、「芝居小屋は使ってこそ命がよみがえる」という、豊岡市の中貝宗治市長の掛け声のもと、「こけら落としは歌舞伎で」という地元の強い要望を受け、当時若手で最も将来性がある役者の一人片岡愛之助さん、中村壱太郎さんに白羽の矢があたり、その時から10年間欠かさず興行を続けています。

提供:永楽館

 

初日の前日にはお練り(町の中を人力車で回ってパレードすること)があり、そこで役者さんたちに「おかえり」と、まるで親戚が帰ってきたように声がかけられます。運営には地元の実行委員会やボランティアが多く携わり、地域に密着した出し物として愛されています。

提供:永楽館

 

今回の演目は『仙石船帆影白濱 通し狂言 仙石騒動』と、永楽館歌舞伎第十回公演記念『弥栄出石の賑』。最初の取り決めとして、愛之助さんが演じたことがない初役をここで演じ、新しいものをつくる場としているのだとか。

 10年の節目にかけられたのは、地元ゆかりの本当にあった出石藩仙石家のお家騒動がもとになった芝居。上演するのは129年ぶりだそうです。

舞台下手の花道と、上手の客席の中にも通路をつくり、まるで2本の花道のように使って、2階の客席にまで及ぶ大立廻り。客席の中にある足場も走り回り、役者が近い。そでを引こうと思えば引っ張れる距離を、観客はぐっとこらえるのが肝心です。東京の劇場とは距離感が違い、何だか人気役者が近しい人に感じられます。1メートルの距離で目が合うと恥ずかしくなり、思わず照れ笑いしたり目をそらしたり。また、今回の舞台は水を使うので、客席前方の方たちはさながらウォータースライダーに乗るかの如く、水がかぶらないようにビニールシートを頭からかけての観劇。その場面では、板を外して水槽を入れ、またその場面が終わると板を打ち付けるということをやってのけ、幕が閉まるとトンカチの音が響きます。

またその水を使って、役者たちがはしゃぐこと、はしゃぐこと。舞台上に雨が降るので、舞台の上にもシートをひいて足元はもちろん全身びっしょり。わぁ、たいへんだぁ。

 

物語は、出石藩仙石家の家臣・神谷転が、お家の乗っ取りを企てる筆頭家老仙石左京の陰謀を暴き藩の安泰を取り戻すというもの。

その神谷転と仙石左京の二役を片岡愛之助さんが演じ、中村壱太郎さんも二役、中村種之助さん、中村寿治郎さんも大活躍。寺社奉行には壱太郎の父親である中村鴈治郎さんが登場します。

 

鴈治郎さんは、「ここに来ると、壱太郎君のお父さんとしか呼ばれない」と顔をほころばせます。

愛之助さんは、あまりに悪役が似合い憎らしいほどです。またご本人曰く「アスリートのよう」に会場中を走り回ります。

観客に評判が良い「口上」に代わって、今回は「芝居前」という役者たちが十回公演を記念してお祝いを述べる場面があり、千穐楽はそこにかつらをつけた市長も登場し、この興行を成り立たせてくれているすべての方たちに感謝の言葉を述べました。

登場した役者たちが自分の言葉でしゃべり、素の顔が見え隠れするところが人気の秘密でしょう。最後は『元禄花見踊』という艶やかな踊りがあり、うっとりしながら閉幕となりました。

 

また、「成駒家」とか「松嶋屋」など、タイミングよく声をかける「大向う」もちゃんといます。「プロなのですか」と伺うと、「座付き大向う」で、「大向うの会」というのを地元で結成し、プロを読んで教わるのだと伺いました。

それもまた気持ちよく、観客全員が参加して、何と楽しい歌舞伎なんでしょうか。

これはクセになりそう!

2017年11月 千穐楽

また、来年も、いてもたってもいられず飛んでいきそうです。

 

 

*2017年11月現在の情報です。*写真・記事の無断転載を禁じます。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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