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国立劇場8.9月文楽公演『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』(2023年8月31日~9月24日)第一部(10時45分~14時14分)は通し上演の三段目・四段目

初代国立劇場さよなら特別公演8,9月の第一部は、5月から通し上演している『菅原伝授手習鑑』の三段目と四段目です。

5月に一段目、二段目を観ましたが、すっかり忘れてしまって復習してから観劇に臨みました。前回の最後は、菅原道真(菅丞相かんしょうじょう)が藤原時平(しへい)に陥れられ、大宰府に左遷されたところまで。さて、その続きはいかに、ということで、2か月ぶりの文楽です。

まずは、有名な「車曳(くるまびき)の段」。派手な立ち回りが多く歌舞伎でも単発でよく上演されます。歌舞伎の荒事が文楽にも活かされています。

車曳の段 (左)桜丸:吉田勘彌 (中央)松王丸:吉田玉助 (右)梅王丸:吉田玉佳

三つ子の兄弟梅王丸、松王丸、桜丸は、菅丞相に召し抱えられ、梅王丸は菅丞相松王丸は藤原時平桜丸は斎世(ときよ)親王の舎人となっていました。

これまでの段で、桜丸は、自分の主君である斎世親王と菅丞相の養女苅屋姫(かりやひめ)の密会を良かれと思って手引きしますが、2人は駆け落ちしてしまいました。時平は、それを好機と「菅丞相は朝廷を我が物にしようと娘を斎世親王に取り入らせた」と偽りの讒言を帝に吹き込みます。すると、梅王丸の主君である菅丞相は流罪となり筑紫の国に流されてしまいました。

藤原氏の氏神「吉田神社」で三つ子の兄弟は偶然出会います。目にも鮮やか美しい舞台。梅王丸、桜丸は憂き目をかこっていますが、松王丸は今をときめく藤原時平に仕える身。時平を許すまじという2人と、それを遮る松王丸。三人巴になっての立ち回りです。

茶筅酒の段」は、三つ子の父親が住む菅丞相の下屋敷が舞台です。百姓の彼は70歳の祝いに白太夫という名前を菅丞相から授けられ、その祝いの席です。庭には、菅丞相が大事にしていた梅、松、桜の木が植えられています。お祝いに駆け付ける三つ子の嫁たち。なかなか夫たちは表れません。ご飯をとぎ、味噌をすり、大根を切る所作がなんとも可愛らしい。お祝いらしくそれぞれ梅、松、桜の刺繍がついた、ひわいろ(明るい萌黄色)の着物を着ています。白太夫は人間国宝の桐竹勘十郎が操り好々爺を演じます。

喧嘩の段」で、松王丸、梅王丸が登場。取っ組み合いの喧嘩をして米俵を投げたり大暴れ。大切な桜の木を折ってしまいました。

喧嘩の段 (左)梅王丸:吉田玉佳 (右)松王丸:吉田玉

訴訟の段」で、2人は父に願い事をします。梅王丸は菅丞相のいる筑紫に行きたいと言いますが、菅丞相の奥方とお子様を守ることが必定と、かわりに自分が行くと願いを聞き届けません。一方松王丸は、勘当してほしいと頼みます。こちらは、どうせ兄弟を討ちたいんだろうと受け入れ2組の夫婦を追い払います。

桜丸切腹の段」残された桜丸の妻、八重の所に表れたのは、納戸に隠れていた桜丸。恋の取り持ちをしたために謀反の罪を着せられ流罪になった責任は自分にあると切腹すると心に決めています。八重は必至で止めますが、白太夫が鎮魂の鉦を打ち鳴らし念仏を唱えるなか、桜丸は果てるのでした。太夫は迫力のある竹本千歳太夫。いつも彼の語りには泣いてしまいます。

桜丸切腹の段 (左)女房八重:吉田一輔 (中央)桜丸:吉田勘彌 (右)親白太夫:桐竹勘十郎

四段目「天拝山の段」は早春の太宰府。白太夫にひかせた牛の背に乗った菅丞相が、登場します。夢の中で安楽寺へ詣でよとのお告げがあり安楽寺に来ると、梅の木があるではありませんか。住職は一夜にして梅の木が生えたと驚きます。これが、世にいう飛梅伝説です。その梅は香りも色も、自分が世話をしていた梅に間違いないと白太夫。そこにやってきたのが梅王丸と時平の送り込んできた刺客。菅丞相時平が謀反を企んでいることを知り、怒り心頭に達した菅丞相はそれまでの高貴で物静かだった様子を一変させ、怒りの形相に変わります。生きたままでは都に帰れぬため霊魂になって帝を守ろうと決意します。荒ぶる雷神となって帝のもとへ飛んでいくのでした。

天拝山の段 菅丞相:吉田玉男

火を噴く菅丞相を操るのは今年の7月に人間国宝の認定に答申された(10月頃、正式認定か)吉田玉男菅丞相の激しく憤る様子をかっこよく演じます。

今月の第二部(3時~6時12分)で、この続きが観られます。

*2023年9月5日現在の情報です。*記事・写真の無断転載を禁じます。

 

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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