Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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紳士のためのエンターテイメント

「初代国立劇場さよなら特別公演」文楽 『菅原伝授手習鑑』第二部(3時~6時12分)四段目、五段目

5月から始まった時代物三大名作の一つ『菅原伝授手習鑑』の全段通し上演。いよいよ最終です。51年ぶりの上演となる四段目の「北嵯峨の段」と、五段目の「大内天変の段」。完全通し上演そのものも51年ぶりとなりました。

北嵯峨の段」菅原道真(菅丞相かんしょうじょう)の御台所(みだいどころ)の隠れ家でかしずくのは、梅王丸の妻、春と、桜丸の妻八重。その隠れ家に、菅丞相を陥れた藤原時平の手のものがやってきます。八重は薙刀を手に奮戦しましたが、命を落としてしまいます。そこにやってきた山伏が時平の家来を蹴散らし、御台所をさらっていってしまいました。

寺入りの段」一方、菅丞相の息子菅秀才を預かる、寺子屋を営む源蔵夫婦。我が子と見せかけて養育しています。寺子屋に通う子供たちが無邪気に遊ぶ中、新しい入門者小太郎が母親に連れられてやってきました。

寺子屋の段」は、抜群の人気を誇る場面で、歌舞伎でもお馴染みです。浄瑠璃最高位の切りの太夫豊竹呂太夫が語ります。源蔵は、菅秀才をかくまっていることがばれ、首をもっていかなくてはならないことになりました。他の子を身代わりにしたくても高貴な顔つきの子供はおらず、すぐに身抜かれてしまいます。そこにいたのが小太郎。ただし、首実検には菅秀才を知った松王丸がいます。ところが、松王丸は首を見て「菅秀才に間違いない」と断言してひきあげます。

寺子屋の段 (左より)女房戸浪:桐竹勘壽 武部源蔵:吉田玉也 松王丸:吉田玉助 春藤玄蕃:吉田文司

外から戻ってきた小太郎の母親は、自分の子供は身代わりとして役に立ったかと問いかけました。実は小太郎は松王丸の子供だったのです。恩を受けた菅丞相に報いるため、自分の子供を身代わりにしたのでした。御台所を連れ去ったのも松王丸で御台所と息子とは久しぶりの対面を果たします。

松王丸は、小太郎を讃えながらも、哀しみの泣き笑いです。この語りが胸に迫る。松王丸夫妻は、白装束で野辺送りをするのでした。有名な「いろは送り」の三味線は鶴澤清治。これほどの哀しみがあるでしょうか。

寺子屋の段 (前列左)女房千代:吉田簑二郎 (前列右)松王丸:吉田玉助 (後列左)女房戸浪:桐竹勘壽 (後列右)武部源蔵:吉田玉也

そして、五段目「大内天変の段」。電光雷光が連日のように続く御所。雷神となった菅丞相の怒りを鎮めるため、加持祈祷が行われています。そこに上皇の使いとして斎世親王と苅谷姫がやってきました。時平が菅秀才をとらえると、雷が鳴り響き、時平の両耳から出てきた蛇が桜丸と妻八重の恨みの化身となって時平に襲いかかり、時平は果てます。菅家の相続を認め、正一位を贈ると天皇からの宣旨が伝えられます。菅丞相は、天満宮に祀られ、皇居の守護神となりました。歴史上の菅原道真も、宮中への落雷や時平の病死などから恐れられ、右大臣に復権されのちに正一位・太政大臣となったのでした。

大内天変の段 (左)女房八重:吉田一輔 (中央)左大臣時平:吉田玉志 (右)桜丸:吉田勘彌

これで、初代国立劇場、最後の文楽公演となります。1966年11月に開場し、老朽化のための建て替えということですが、なんとも、諸行無常。変化が進化となり、さらなる日本文化の興隆を願います。

*2023年9月15日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます。

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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