Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

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人間国宝・野村万作のドキュメンタリー映画 狂言の道 九十年に浮かぶ『六つの顔』

実に巧みに引き込まれる作品です。2025年94歳になった人間国宝の狂言師、野村万作の90年の芸を振り返り、代々の野村家のこと、また狂言のおもしろさを垣間見ることができます。

万作の初舞台は3歳でした。息子が野村萬斎(57歳)孫が裕基(24歳)、それぞれのインタビューも所々に入り「師」としての万作がうかがい知れます。裕基が万作を評して、人生の経験を積んだ後に到達する境地である「老木の花(おいきのはな)」だと思われるのに、いまだ万作は、自分の父親の「六世万蔵にいきつけない」と言っていると、感嘆する姿が印象に残ります。

野村家の和泉流の狂言の演目は254曲もあります。私は、狂言は、おもしろくて楽しいものばかりだと思っていました。笑いを誘う登場人物、太郎冠者(たろうかじゃ)は、庶民の代表で、怠けようとしたり、得をしようとしたり、ない知恵を絞ります。そこに観客は共感を覚え笑いがおきます。ところが、そうしたものばかりではなく、今回、全編が収められている『川上(かわかみ)』は、人の心情を見せるもので笑いはありません。

2024年に文化勲章を受章しその記念の狂言会で演じた演目に、万作は『川上』を選びました。『川上』は、吉野に住む盲目の男と妻の物語で、シリアスで写実的です。25歳の時に初めて演じ、「その年齢によって見える世界が変わっていく」と語る万作のシテ(主役)、妻役の萬斎の演技をじっくりと見ることができます。

万作が過去を振り返ったときに、心に浮かぶ六つの顔がありました。その顔をアメリカアカデミー賞にノミネートされたアニメーション映画『頭山』の山村浩二が描きました。東京が空襲にあった時、父親の六世万蔵と共に、庭に装束を埋めたこと。ほとんどが焼けてしまって、万蔵は「もう狂言をやめようか」と語り、それを万作は「弱みを見せられる人であった」と言います。「600年前の人物を演じていても、その時に生きる人として生き生きとし、とても自分は到達できない」と語ります。

『川上』ほか、『棒縛(ぼうしばり)』『末広がり』『靭猿(うつぼさる)』『釣狐(つりぎつね)』といった演目の一部も見られ、狂言の魅力が凝集されています。いまもなお、芸を高めようとする現役の狂言師・野村万作の生き方のなんと美しいことか。

監督は、田中眠のドキュメンタリー『名づけようのない踊り』の犬童一心。ナレーションはオダギリジョー。狂言に興味を持ち、足を運ぶきっかけになればと願います。

2025年8月22日(金) シネスイッチ銀座、テアトル新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開写真はすべて© 2025 万作の会 HPはコチラ

*2025年8月13日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます

 

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

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ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

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