Taste of the gentleman

紳士のたしなみ

紳士のたしなみでは、紳士道を追求するにあたり、
是非学びたい気になるテーマについて学んでいきます。

紳士のためのお出かけエンタテインメント

新作「-能 狂言-『日出処の天子』」演出・出演 野村萬斎

山岸凉子原作の漫画日出処の天子(ひいづるところのてんし)」が、能狂言になりました。名作として絶大な人気を誇る漫画「日出処の天子」は、1980年~84年にかけて連載され、第7回講談社漫画賞少女部門を受賞しています。古代日本国家の創始期、蘇我氏と物部氏の権力争いを背景に、厩戸王子(うまやどのおうじ 後の聖徳太子)と蘇我毛人(そがのえみし)を中心に人間模様が描かれます。厩戸王子は、頭脳明晰な策士で、不思議な力を持った近寄りがたい特別な存在。セクシュアルマイノリティとして描かれ、当時かなりの話題となりました。一方、蘇我馬子の息子、毛人は、誰にでも好かれる善良な人物という設定です。

この傑作漫画を元にしてつくられたのが今回の「-能 狂言-『日出処の天子』」。

左)厩戸王子 野村萬斎 右)蘇我毛人 福王和幸 ©山岸凉子/OFFICE OHTSUKI 撮影:瀬野匡史

果たして漫画をどのようにして能狂言にするのかと思っていましたが、ピタリとはまりました。歩く速度を通常より少し早くしているように感じましたが、工夫が凝らされていてとても魅力的でした。

監修人間国宝で能楽シテ方の大槻文蔵構成・演出に常に新しいことにチャレンジし続ける狂言師の野村萬斎。野村萬斎は、650年以上の歴史のある日本の伝統芸能「狂言」の継承者であり、伝統芸能と現代劇を融合する演出家、俳優、舞踏家でもあり、さらにオペラやバレエ、シェイクスピアに漫画と、様々なジャンルの作品を能狂言で表現しています。

直近では2022年に漫画『鬼滅の刃』を新作の能狂言として舞台化し、大成功させました。漫画の舞台化は2作目ということで、期待は高まるばかり。3日間7公演はあっという間に完売し、すぐに組まれた12月の追加公演も販売直後に売り切れるプラチナチケットです。

2025年8月8日、貴重な公演を拝見しに東京・銀座の観世能楽堂に伺いました。95%が女性客で、『日出処の天子』のファンでしょうか、萬斎さんのファンでしょうか。グッズ売り場にも長蛇の列ができていました。

舞台は中央に聖徳太子をまつる夢殿を半分に切ったような八角形のものが置かれ、それがスクリーンとして使われたり、回り舞台になったり、影絵が映し出されたりと、さまざまな役目を果たします。

原作は登場人物が多く、関係性や血縁も入り組んでいますが、そぎ落とされ2時間の舞台で全体像を見せました。また、狂言方は狂言方、シテ方はシテ方、ワキ方はワキ方、囃子方は囃子方として、きっちりと演じるまさに「能 狂言」。「能 狂言」ファンの方も、能楽になじみのない方も受け入れられるのではないでしょうか。

左)泊瀬部大王 茂山逸平 ©山岸凉子/OFFICE OHTSUKI 撮影:瀬野匡史

印象に残ったのは、雨乞いの場面。日照りが続き、厩戸王子(野村萬斎)が雨乞いの祈りを捧げ、蘇我毛人(福王和幸)の力に支えられて雨を降らせます。厩戸は宇宙と交感する超自然パワーを持ち、毛人との霊的な恋愛関係が、ここで濃厚にあぶりだされます。

また、最後、毛人が自分を愛さないことに苦悩し、政敵として滅ぼした物部一族の布都姫(ふつひめ 鵜澤光)に一目ぼれしたことに嫉妬します。厩戸がさらに孤独感を深めるのは、厩戸の霊力を知り、実の母親である穴穂部間人媛(あなほべのはしひとひめ 大槻文蔵)から「人間ではない」と疎まれることです。行き場のない寂しさにさいなまれます。

穴穂部間人媛 大槻文蔵 ©山岸凉子/OFFICE OHTSUKI 撮影:瀬野匡史

厩戸の妻となるのは、毛人の妹でお転婆な刀自古郎女(とじこのいらつめ 大槻裕一)です。刀自古郎女は毛人を愛しているため、兄をだまして布都姫のふりをして契りを結び、あろうことか毛人の息子を身ごもり、それを知った厩戸の后となるという想像を絶する関係です。

左)刀自古 大槻裕一 右)白髪女 月崎晴夫 ©山岸凉子/OFFICE OHTSUKI 撮影:瀬野匡史

萬斎は、「能狂言は、あの世とこの世を繋ぐ舞台でもある」神事だと、以前インタビューで語っていましたが、まさにこの漫画は、能狂言にピッタリです。笑いがあり、革新があり、伝統がある。今後、回を増すごとに洗練され、令和の古典として受け継がれていく演目の一つになってほしいと思います。

‐能 狂言-『日出処の天子』HPはコチラ

*2025年8月24日現在の情報です*記事・写真の無断転載を禁じます 

岩崎由美

東京生まれ。上智大学卒業後、鹿島建設を経て、伯父である参議院議員岩崎純三事務所の研究員となりジャーナリスト活動を開始。その後、アナウンサーとしてTV、ラジオで活躍すると同時に、ライターとして雑誌や新聞などに記事を執筆。NHK国際放送、テレビ朝日報道番組、TV東京「株式ニュース」キャスターを6年間務めたほか、「日経ビジネス」「財界」などに企業トップのインタビュー記事、KADOKAWA Walkerplus地域編集長としてエンタテインメント記事を執筆。著書に『林文子 すべてはありがとうから始まる』(日経ビジネス人文庫)がある。

https://cross-over.sakura.ne.jp/

ダンディズムとは

古き良き伝統を守りながら変革を求めるのは、簡単なことではありません。しかし私たちには、ひとつひとつ積み重ねてきた経験があります。
試行錯誤の末に、本物と出会い、見極め、味わい尽くす。そうした経験を重ねることで私たちは成長し、本物の品格とその価値を知ります。そして、伝統の中にこそ変革の種が隠されていることを、私達の経験が教えてくれます。
だから過去の歴史や伝統に思いを馳せ、その意味を理解した上で、新たな試みにチャレンジ。決して止まることのない探究心と向上心を持って、さらに上のステージを目指します。その姿勢こそが、ダンディズムではないでしょうか。

もちろん紳士なら、誰しも自分なりのダンディズムを心に秘めているでしょう。それを「粋の精神」と呼ぶかもしれません。あるいは、「武士道」と考える人もいます。さらに、「優しさ」、「傾奇者の心意気」など、その表現は十人十色です。

現代のダンディを完全解説 | 服装から振る舞いまで

1950年に創刊した、日本で最も歴史のある男性ファッション・ライフスタイル誌『男子専科』の使命として、多様に姿を変えるその精神を、私たちはこれからも追求し続け、世代を越えて受け継いでいく日本のダンディズム精神を、読者の皆さんと創り上げていきます。

おすすめのたしなみ